魔王様とエンシェントドラゴン。
どう転ぶかわからんが……このまま何もしないで帰るという選択肢だけは最初から存在していない。
俺はオロチの身体と壁の隙間から奥へ向かい、その光り輝く剣を思い切り握る。
「よし……抜くぞ!」
あれっ?
『……どうした。早くやれ』
あー、どうすっかなこれ。
「悪い。俺じゃ抜けねぇわ」
『なんだと……? 冗談は良いから早くしてくれ。ここまで期待させておいてそれはないだろう……?』
心なしかオロチの表情がしょんぼりしている。
しかしなぁ、俺が思い切り引き抜こうとしてもまったく動く気配がないんだよ。
「そもそもこの剣はお前を封印するほど強力な物なんだろう? 抜けなくてもおかしくはないだろうよ」
『あれだけ大口を叩いておいてまさか、本当に抜けないのか? 冗談……だろう?』
おーおー、めっちゃがっかりしてるぞこいつ……。
どうにかしてやりたいがなぁ。どうしたものか。
「おいメディファス、こいつなんとかならないか? 抜けない原因とかさ、なんか分からんか」
『先程から調べています。どうやら強い結界のような作用があるようですね。これも一種のアーティファクトのような物ですから我の力で中和できそうです』
「やるじゃねぇか。じゃあいっちょ頼むぜ」
再び剣を掴む手に力を入れ、ゆっくりと引き抜く。
ずずず……っ。
「お、行けるぞメディファス! 偉い!」
『我にかかれば造作もない事』
調子に乗んな。
『不条理……』
「……よし、抜けたぞ!! どうだ?」
『うむ……うむ! おぉぉ……すぐに快調とは言えんがこれは……力が湧いてくる。今すぐに貴様らを消し炭にする程度には力が溢れてくるぞ……!』
「……で、検討って話はどうなった?」
『ふふ……今生き残っている星降りの民は一人だけなのだな? ならば……我一人でもどうにでもなろう』
こいつ……やっぱりやる気か?
「ふははは! その剣から解き放ってくれた事には感謝しよう! しかし自由になった今貴様に従う理由などは一切存在せぬ! これだけ力が溢れていればあの小娘すら容易く捻り殺せるわ!」
「てめぇ……」
俺は片手にメディファス、もう片手にボロボロの魔剣クサナギとやらを構える。
そして……。
ぶわっ!!
「なっ!?」
突然マリスが服モードを解除し、魔剣に飛び掛かった。
「ちょっ、マリス何してんのよっ!」
急に魔剣食おうとするのもそうだし私を全裸にするのも罪が深い!
『……な、なんだ……? 貴様、混ざり物があるとは思っていたが、どうなっている?』
「うっさい見んなっ! セクハラで訴えるわよ!」
『……訴える、とは……?』
「もうこれだから老害は……っ! 私の裸はタダで見れる程安くはないんだからねっ!!」
ばりぼりぐぎゃごぎゃ……。
「ま、マリス!! ちょっとそれ食べちゃダメじゃない早く吐き出しなさい! ぺっしなさいぺっ!!」
マリスは私の言葉に一瞬固まって、ぎゅるぎゅると球体になったかと思うと『ぺっ』と、剣の面影がなくなってしまったクサナギを吐き出した。
「あぁ……こいつを再び封じる武器が……」
『ふふふ、ふはははは!! これで我を脅かす物はあの小娘だけだな。……しかし、ソレはなんだ? なにやら懐かしい感覚が……』
マリスは再び私の身体に巻き付いて、元通りのドレスに戻る。
まったく、なんて事してくれんのよ……。
「この子は……マリスって言ってエンシェントドラゴンの生き残りよ」
『……なん、だと……?』
「な、なななんだってーっ!! その服がエンシェントドラゴンって本当なんだべか!?」
おとなしく向こう側で話を聞いていたチャコがこっちにとてとて走って来た。
ちっちゃ可愛い。
「ほんとよ。この子とはもう長い付き合いだけど……エンシェントドラゴンなのは間違いないわ」
「だ、だーりん、どうしてしまったんだべ? 急に女の子みたいになって……」
「ハッ、あ、あぁ……ありがとう。助かったぜ……」
こうやって俺の事を男扱いしてくれる人材がいるのは。すぐに正気に戻れるから助かる。
「安心しな。俺は呪いのせいでたまに心まで女になっちまうけど、ちゃんと中身は男だからな」
「そ、そうなんだべか? まぁあだすはどっちでもいいべ」
どっちでもいいんかい。
『おい貴様……』
「ひぃえぇ……!! だーりん助けてくんろ!」
「わかったから俺の後ろに下がれ」
『もう一度確認するぞ、貴様の身に纏っている服は古龍なのだな?』
今までよりも一層低い声が大気を震わせ、ビリビリと圧が迫ってくる。
「あぁ、間違いなくこいつはエンシェントドラゴン……お前らの言う古龍だよ。それがどうかしたか?」
『……気が変わった。貴様に力を貸してやろう』
「えっ、どうした急に」
『力を貸すと言っているのだ。理由などどうでもいいだろう。……ただ、そうだな……我が盟友達の残した物が貴様と運命を共にしているのであれば、貴様と争う理由も無い』
よく分からんがマリスのおかげでヤマタノオロチが仲間になったぞ。
「よくやった」
そう声をかけて服を撫でると、久しぶりの「ぷっきゅい♪」という声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます