聖女様は何かマズい事を言う。


「あの……それはどういう?」


「うーん。簡単に言うと、このアーティファクトで検出出来ない理由があるって事ね。何かの魔法で対処してるとか、そもそも既に……」


 そこでセスティ様は自分の発言に対して物凄い怒りを感じたかのように奥歯を噛みしめた。


 ギリリ、という音がこちらにまで聞こえてきそうだった。


 いや、実際聞こえたのかもしれない。私の口の中から。


 きっと私も無意識にセスティ様と同じような顔をしていたのだろう。


「できれば……それは考えたくありません。いえ、ハーミット様が既にこの世に居ない、なんてことはあり得ません。あの方は……強いですから」


 セスティ様は私の言葉を聞いて一瞬きょとんとしたけれど、すぐに微笑みかけてくれた。


「貴女みたいな子がすぐ近くに居てくれたならデュクシも心配いらないわね。今は理由があって傍を離れているだけよきっと」


「そう……だといいんですけれど。私、彼に迷惑ばかりかけていたので……」


「あのね、一つ教えておいてあげる。デュクシって奴は責任感と使命感は相当強い人間だから。奴が私の知ってるデュクシなら、守るべき相手を放り出して一人でどっか行ったりしないわ。そうしてるのならそれだけの理由があるのよ」


「……」


 どうしてだろう。

 私は、きっと誰かにそう言ってほしかったのだ。

 気休めでもなんでもいい。私の思い込みじゃなくて、ロンザやコーべニアみたいに私と同じような立場からじゃなくて、第三者から、大丈夫だと。


 そう言ってほしかったのだと、今気付いた。

 気付いたら、もう立っていられなかった。


「ちょ、ちょっと大丈夫!?」


「おいセスティ……女子を泣かすのはお手の物じゃのう?」


「ちょっとめりにゃん! 茶化さないでよ! それより大丈夫? 泣かないで」


「ごめんなさい。なんだか彼の事をちゃんと分ってくれてる人が居る事が嬉しくて……」


 本当はハーミット様に会ってこうやって泣いて困らせてやりたかったのに、どうして私はセスティ様を困らせているのだろう。


 それでも、一度溢れ出した涙が止まる事はなかった。


 気が付くとロピアさんが私の隣にやってきて、優しく背中を撫でてくれた。


「恋する乙女ってやつやなぁ……知っとるか? 恋する乙女は最強なんやで。必ず見つけて、今度はしっかり捕まえとき」


 そう言って大きな目を細め、にっこりと笑うロピアさんはとっても綺麗で、私はこの人達が、この国がとても好きになってしまった。


 我ながら単純だと思うけれど、こんな人達が統治する国が平和じゃない訳がない。


「そう言えばおふくろと会ったんだったら、そこに私と同じ顔した女性が居なかった?」


 セスティ様が何を言おうとしているのか、私には分かる。

 キャンディさんの所にメアさんが居たんじゃないかと考えてるんだろう。


「えっと、そこで働いている女性なら居ましたがセスティ様と同じ顔の人は……」


「そっか。居なくなってすぐ様子見に行った時は居なかったんだけどもしかしてって思って。あいつどこ行ったんだろう……検索にも引っかからないし……」


 どうやらハーミット様と同じように、先ほどのアーティファクトというのを使っても居場所が分からなかったようだ。


 メアさんなら何をしてても驚かないけど、きっと妨害電波みたいなのをピピピっと出してるに違いない。


「そう言えば貴女の名前、私はまだ聞いてなかったわよね?」


 セスティ様に言われて気付いた。他の人には名乗ったけれど、セスティ様にはまだだった。



「し、失礼しました! 私はヒールニント・ウル・グレイシアと申します」


「ヒールニント……どこかで聞いた事あるような響きだけど……気のせいね。それでヒールニントさんはこれからどうするの? 何か当てはある?」


「それが……正直ハーミット様に関しては他に当ては無いんです。でも別件でこの後王都へ行く予定がありまして。とりあえずそちらの用事をすませようかと」


「そっか。実は私もちょっと王都に用事があってね、送ってあげようか?」


 とても親切なお言葉だけれど、王国の外にメアさんが待っているのでさすがに私が今王都に行っちゃうわけにはいかない。


「ごめんなさい。実は連れが居まして、後で合流して一緒に行く事になってるんです」


「そう? でも普通に王都行くってなったらかなり日数かかるでしょ?」


「その子が転移魔法を使えるので……」


「そっか。それなら私が余計な気を回す必要は無かったかな。王都には別件って言ってたけど面倒事とかじゃない? 私もデュクシに関しては心配だからこっちでも探してみるけど、いざ見つけた時にヒールニントさんに何かあったら困るからね」


 この人は……本当に優しい人なんだなぁ。

 ハーミット様の事もそうだし、私の事まで気にかけて下さって……。

 流石セスティ様、という事だろうか? 

 それに一国の主となればこのくらい凄い人じゃなきゃダメなのかも。


「厄介事、というか少し心配な人が居まして、その人がどうしているか確認をしたいんです」



「そっか。あ、それならその子の事調べてみる?」


 そうか、その手があった。とりあえず今まだ王都に居るのか、無事で居るのかの判断が出来るしお願いしよう。


「お願いできますか? レオナさんと言うのですが」


「レオナですって……!?」


 ガタっとセスティ様が椅子から立ち上がる。


 ……これ、私何かマズった??

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