聖女様と勇者様。


「おーいセスティまだかのう?」


「ちょっと待ってってばっ! 今着替えてるところだからっ!」


 空間の穴を通じてセスティ様の声はこっちに駄々洩れである。


 なんだか思ってたよりも可愛らしい人だったなぁ……。


 中身はそれなりに年齢の言っている男の人だった筈だけれど……。


 でもハーミット様も姫って呼んでたし……どういう事なんだろう?


「お、お待たせー。君だよね? 私に用があるっていうのは」


「あ、はい! 貴女が……セスティ様ですか?」



「うん。私がプリン・セスティ♪ 一応ここの魔王やってるから宜しくね?」


 どうみても女の子なんですけど……これを男の人がやってるの??


「で、どうしたの? 私に何の話があるって?」



 そうだ、いろいろ疑問はあるけど今はそれどころじゃなくって、大事な話をしに来たんだった。


「あの! セスティ様はハーミット様の事をご存知ありませんか!?」


 その場に居たロピアさん、メリニャンさん、そしてセスティ様までも首をかしげている。


 あれー?


「ハーミット? ……えっと、ごめん。誰?」



 えぇー?? そんな、何かがおかしい!


「あのあの、ハーミット様ですよ? 勇者ハーミット様です!!」


 そこまで伝えてやっとセスティ様が、「ああ!」と掌をポンっと叩いた。


 やっぱり知ってるよね? 知らないとかおかしいもんね!?


「そう言えば新しい勇者がハーミットって名前だったっけ。で、その人は誰だろう?」


 まじかよ……。


「あの、でもでも、ハーミット様はセスティ様の事を知っているようでしたが……」


 セスティ様が「どっかで聞いた事ある気がするんだけど……」と頭をわしゃわしゃやって悩みだす。


 もしかしてほんの少ししか接点がないような関係だったの??


「ハーミットって人のフルネーム分かる? その人の名前ハーミットだけじゃないでしょ?」



 ……そこで私が彼の事を何も知らないんだと気付かされた。


 どうして私はハーミット領まで調べに言って、彼の名前をきちんと調べようとしなかったんだろう。


 本人に教えてもらった訳じゃないから、あそこで人づてに知るのはフェアじゃないとでも思ったのだろうか?


「ご、ごめんなさい……私は、ハーミット様としか……」


「そっか……そうなるとちょっと難しいかなぁ。今私引き出し持ってないしなぁ……」


 引き出しっていうのが何の事か分からないけれど、ここでもこれ以上の情報は得られないの……?


「で、そのハーミットって人を探してるの? その人は私の事なにか言ってた? もし知り合いだったらそれで思い出すかも」


 まだだ。終わったと決まったわけじゃない。少しでも情報を提供してセスティ様に思い出してもらおう。


「ハーミット様は……そう、魔王と戦ったと言っていました!」


「なんじゃと!?」


 それに反応したのはメリニャンさん。セスティ様も不思議そうにしていたが、やがて「それっていつくらいの話?」と質問を返してきた。


 魔王と戦ったっていう状況が何回もあるの?


 そうか、そもそもメリニャンさんも元魔王だっけ……。


 ん? ちょっと待って。メアさんも元魔王??



 え、もしかしてハーミット様が戦ったっていう魔王はこのどちらかなの??

 確かあの時……出会ったばかりの時、ハーミット様は何と言っていたか……。


「あれは確か半年以上前の事です。魔王と戦って、姫を守れなかったと……」


「デュクシ!!」


「……はい?」


 デュクシ! ってなんの効果音??


「メリニャン、デュクシよ!」


「それしか無い、かのう? 儂はあやつの名前をデュクシとしか知らんからなんとも言えんが……時期は一致するのう」


「うん。私を守れなかったって気にするような奴で、あの時に一緒に居て、今一緒にいないのはデュクシくらいだわ! そういえば初めて会った時にやたら長い名前で自己紹介されたけどその中にハーミットっていうのあったかもしれない!!」


 デュクシ……? それがハーミット様の名前?



「そのデュクシという方が勇者ハーミット様なのでしょうか?」


「勇者ぁぁぁ?? デュクシが??」


 セスティ様とメリニャンさんは私の言葉を信じられないようで、「うーん」と唸っていた。



「しかし、状況的にはそれ以外考えられんのう」


「そうだよね。もしかして私が死んだと思ってそのまま戦い続けてたの……?」


「そ、そういえば姫は死んだと言っていました……私、セスティ様がご存命だとキャンディさんに聞いて……それでもしかしたらハーミット様もセスティ様に会いに来てるのではと」


「おふくろに……? そっか。残念だけどデュクシは来てないなぁ……今どこで何してるのかも知らないんだよね。私も記憶なくしてたからデュクシどころかみんなの事も忘れてたし、ここに皆が集まったのはほとんど偶然……だと思う」


「そう、ですか……これから、どうしたら……」


 魔王様が、セスティ様が記憶喪失だったっていう話は驚いたけれど、確かにそれなら死んだ事になっていたのもうなずける。


 しかしこれ以上、どこに情報を求めていいのか分からない。

 ここで分からなければあとは虱潰しに探して偶然出会う以外に……。


「でも私人探し出来るアーティファクト持ってるわよ? デュクシの居場所調べてあげようか?」


「本当ですか!? お願いします!」


 大どんでん返しとはこのことだ!

 さすが魔王、さすがセスティ様!


「ちょっと待っててねー。えっとーデュクシデュクシっと……どこにいるかなー?」


 セスティ様は目の前に何か地図のような物を描いたスクリーンを出し、彼の居場所を調べているようだった。


 すごい便利な道具が世の中にはあるものだなぁ。


「あー、うん。ごめん……無理だわ。あいつの居場所全然わかんない」


 こんな大どんでん返し返し酷すぎませんか。

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