聖女様は約束を守れない。


「あ、あの……レオナさんの事ご存知なんですか?」


「……直接は知らないわ。とある人からその子の行方を調べてほしいって依頼を受けたばかりだったの。貴女はそのレオナって子の知り合い……?」


 セスティ様の目が鋭くなった。

 これは結構まずいのでは?

 私、何か疑われたりしてる??


「い、いえ知り合いというか、その……怪我をしているところを助けて、王都へ送ったんです」


「今王都に送るなんて自殺行為よ!? 急がなくっちゃ……」


「あ、それなら数日は大丈夫だと思います。今外見が違うので……あっ」


「外見が違う……? それどういう意味? 変装?」


「えっと、その……あぅ……」


 どうしようどうしようなんて説明しよう??


「めりにゃん、ろぴねぇ、ちょっとだけ出ててもらっていいか? この子と二人で話したい事があるから」


「儂は構わんが……」

「この子が可愛いからって口説くんやないで?」


「口説かねぇよ! ちょっと込み入った話があるから頼む」


 セスティ様がそう言うと、二人は私に軽く手を振って玉座の間から出て行ってしまった。


 私とセスティ様だけが残る。

 そして、セスティ様は先ほどまでの軽い雰囲気から一変して、少し怖い感じがする。


「……メアが絡んでるな?」


「えっ、な、なななんの事ですぅ~?」


 我ながら下手くそか。テンパりすぎてどうしたらいいか分からない。


「とぼけなくていい。俺は無理やり連れ戻す気は無いよ。……まだな」


 セスティ様は完全に男口調になっていて、まるで二重人格のようだった。

 これが本来のセスティ様……?


「あの、メアさんはレオナさんに危険が迫らないように……」


「はぁ……そんなこったろうと思ったよ。なんで君がいきなりうちの母親に行きついたのかが疑問だったんだ。君はきっとメアに出会って、俺の仲間だったデュクシの情報を聞きに俺の母親に会いに行った。メアの薦めでな。違うか?」


 完全にお見通しみたい。

 セスティ様は「やれやれ」と言いながら頭をくしゃくしゃかき回した。綺麗な髪が台無しだ。


「セスティ様の言う通りです。私は……今メアさんと一緒に行動しています。でも……その、メアさんは……」


「だから無理矢理連れ戻したりしねぇよ。国の総意としては連れ戻して、過去の清算をさせるつもりだけど、俺は出来る限り本人に戻りたいと思って、自発的に帰って来てほしいからな」


 過去の清算……?


「あ、あの……メアさんが元魔王っていうのは聞いてます。だからといって、あまりひどい事は……」


 セスティ様はそれを聞いてゲラゲラ笑った。


「違う違う。そうじゃないんだ。勿論奴のやった事は本来許しちゃいけない事なんだけどな、だからこそその分多くの命を守るためにその力を使ってもらう。それが過去の清算、って事だよ」


「セスティ様……!」


 この人は、この人なら大丈夫だ。

 きっとメアさんの話になるのが分かったから他の人達を一度退出させたんだろう。


「おみそれしました……。私は、メアさんの事さえ追及しないで下さるのなら全ての情報を共有すると約束します」


「おう。ありがとな。……じゃあそのレオナって子の事詳しく聞かせてくれるか?」


 私はセスティ様に、ハーミット領付近で起きた事、彼女を襲った変な馬車、そして今は別人の顔になり王都に居る事、メアさんが囮になるためレオナさんの外見になっている事など細かく説明した。


「……なるほどな。じゃあレオナって子を助けたのは君なんだな。俺からも礼を言うよ。あの子はちょっと特殊な状況に居るみたいで、いろんな奴から命を狙われてるらしいからな……君が助けてくれなかったら依頼は失敗に終わる所だった」


 セスティ様も、簡単にではあるけれどレオナさんに関係する内容を教えてくれたのだけれど、私があの時やった事は、やはり正しかったんだ。


 今セスティ様はディレクシア王から直々にレオナさんの捜索を頼まれたところだったらしい。

 それこそ、お風呂に入っている時に通信機で連絡が来たばかりだったのだとか。


 レオナさんというのは愛称で、本当の名前はレオリアーナ・ディレクシア。

 現ディレクシア王の娘、という訳ではないらしいけれど、今は亡きディレクシア王の兄の血筋らしい。


 ディレクシア王の兄というのは、彼等が若い頃に魔物との闘いで命を落としたと言われているけれど、彼がその当時身分を隠して付き合っていた女性がいて、その人が子供を産み、王家の血筋が繋がれていたらしい。


 それが、最近になってディレクシア王の兄直筆の日記帳が発見された事で明らかになった。



 現在ディレクシア王は妻も子もおらず、次期国王は側近の中から誰かが選出されるというのがもっぱらの噂だったけれど、ディレクシア王家の血を引いている娘が現れた、となると話が変わってくる。


 それを良く思わない何者かがレオナさんを殺そうと刺客を雇っている……というのが大体の流れらしい。


 私がそんな話聞いちゃってよかったんだろうか。


「さて、そのレオナって子の場所へ行くぞ。居場所はこれですぐに分かるから、まずはメアの所に案内してくれ」


「は、はい……」


 メアさん、なんていうか、ごめん。

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