聖女様は疑問符だらけ。


「そういえばうちのせがれと娘があんたの事とっても気に入ってね、私を助けたからっていうのもあるんだろうけど随分可愛がってたよ」


 メアさんのママがわりの人の子供と私が会った事があるっていうのはなんだか不思議な気分。

 まったく覚えてないけれど……。


「私もキャンディさんのお子さんと会ってみたいですよ」


「そうだねぇ。あの馬鹿息子と会ってもいい事なんて何もないだろうけどね。あ、でも有名な奴だから名前くらいは知ってるんじゃないかい?」


 有名……?


「キャンディさんのお子さんって高名な学者さんとかなんですか?」


 誰でも知ってるようなくらい有名な人と言えば、勿論ハーミット様と……語り継がれてるような功績を残してきた人、歴史書に乗るような人……あとは大賢者様くらい?


「プリン・セスティって言ってね。今はへんてこな身体になっちゃってるけどあれでも元は勇者の仲間として各地を……」


「せ、せせせセスティ様ぁぁぁぁっ!?」


「うわぁっ、なんだい? どうしたんだい」

「びっくりした……」


 二人とも驚いたような顔してるけど驚いたのはこっちだからね!?


「え、キャンディさんの息子さんってセスティ様なんですか!?」


「えっ、まぁ……そうだけど。なんだあいつそんなにもすごい奴になってたのか……? この前会った時は相変わらずの馬鹿だったけれど……」


「この前!? セスティ様ってご存命なんですかっ!?」


「ちょっと、さすがに人のせがれを勝手に殺さないでおくれ。今は娘みたいなもんだけど……ある意味男としては死んでるかもだねえ」



 セスティ様がご存命……?

 ハーミット様はそれを知ってるの?

 むしろ、それを知ったから私達から離れたのかな……。


「あ、あの! キャンディさん!!」


「な、なんだい……?」


「姫って人に心当たりはありませんか!?」


「姫……? さぁ、わたしゃ知らないけど」


 ……そっか。ハーミット様はセスティ様と一緒に居たんだし、セスティ様の母親であるキャンディさんならば何か知ってると思ったんだけど……。


「姫……あぁ、それそのセスティの事よ?」


「「……は?」」


 キャンディさんと私の疑問符が綺麗に重なった。きっと表情も同じような感じになってるんだろう。


「だから、その姫、セスティよ?」


「ま、待ちなメアリー。うちのせがれが姫? それは何の冗談だい?」


「冗談じゃないのよ。あいつ今身体が女なのは知ってるわよね? あれローゼリアって国の姫の身体なのよ」


 ど、どういう事なの? セスティ様が今はお姫様の身体?


「あぁ、あいつもしかして自分の身体が女になってるってだけで詳しい説明しなかったの? アルプトラウムっていう糞ったれな神のせいでお姫様の身体に入れられてるのよ。それで今は魔王をやってるわ」


「ああ、魔王をやってるのは聞いてるよ」


 まままままおう!? じゃあ今魔王やってるっていう人間はセスティ様!?


「じゃあ今魔物達の国のトップがそのセスティ様なんですか!?」


「そうよ? 私より前に魔王やってた幼女と結婚して二人で魔王やってるわ」


「既婚者っ!? しかも魔王と結婚して魔王……」


 私の理解が及ぶ範囲を余裕でこえてしまっている。


「なるほどなぁ。あの馬鹿そういう大事な話はしないんだから……自分の身体じゃないのが後ろめたいのかねぇ?」


「あ、キャンディママ。ちなみにあいつの本当の身体はこれだから」


「「はい?」」


 再び私とキャンディさんの言葉がハーモニー。



「だからね、この辺は説明が難しいんだけど、簡単に説明すると、いろいろ端折るけど……あいつが入ってるのがローゼリアの姫、私が入ってるのがセスティ。だからこれがセスティの元の身体なの」


 元々の身体もどっからどうみても女子ですよ……?


「今のプリンとメアリーの外見がほとんど一緒なのはどういう事なんだい? 髪の色は違うけどそれ以外大体一緒じゃないか」


 私はキャンディさんの言葉でメアさんを見る。

 整った顔立ち。まるで人形さんのようで、その綺麗な銀髪がだけが違う色……それが今のセスティ様……?


「うん、私がいろいろいじくってこういう外見にしちゃったのよ。その……ごめんなさい」



「なるほど……いや、わたしゃ全然理解できてないんだけど、メアリーは息子の身体に入ってるんだね? わたしゃ今どういう感情を持っていいのか分からなくなっちまったけれど、間違いないのは今あんたは名実共に私の子供だって事だ」


「……キャンディママ!!」


「メアリー!」


 ひしっ!!


 いやいやいや。なんだかとってもいい話風になっちゃったけど本当にそれでいいの??


 本人たちがいいならいいけど……。


「あ、そうそう。それでね、ヒールニントが、今勇者やってるハーミットって人を探してるらしいんだけどママは何かしらない?」


「ハーミット……? ちょっと分からないけれど、それならハーミット領に行ってみたらどうだい?」


 ハーミット、領?


「今ではハーミットの領地っていうより管理者不在でただの小さな町ってところだけど、名前からしてそこに関係のある人なんじゃないかい?」


「有益な情報ありがとうございます! これでハーミット様に一歩近づける……!! ……あれ? でもハーミット様が言う姫って人がセスティ様なら、魔物の国に行けば……」


「……案内してあげてもいいけど、その場合私は中には入らないわよ? 入り口で別れてどこかに隠れてるわ」


 あ、そっか……メアさんはそこから逃げて来ちゃったんだ。


 どうしよう……直接的に本人の情報を仕入れるならセスティ様に会う方が先決だけど、ハーミット領っていうところも気になる。


「ハーミット領に行くならここから半日くらい馬車で海沿いに南下すればいいよ」


 ……結構近い。そっちからにしようかな……メアさんに負担をかけたくないし、近場から攻めていこう。


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