姫魔王も予期せぬ展開。


「会わせたい人ってのは誰だ……?」


「行けばわかるさ」


 俺達はイムライの案内で街の中を進む。


「イムライはこの街長いのか?」


「ん……そうでもないさ。大体半年くらいかな」


 半年っていえば俺達がクレバーをぶっ潰してからちょっと後くらいか?


「この街は……その、上手く回ってるか?」


 我ながら変な聞き方だとは思うがクレバーの名前を出すのもなぁ。


「ああ、質の悪い組織が潰れてからしばらくは不安定だったがな。今では割とうまく回ってる……と思うんだけどな」


「活気があるしいい街になったよ。俺が以前来た時も賑わってはいたが、根底には奴等がいたからな……」


 こいつはどうやらクレバーの事を知っているらしい。


「俺がこの街に来た時はそりゃもう酷い有様だったよ。騎士団がしばらく駐屯していたから暴動などはおきなかったけどな」


 その状態からここまで落ち着くというのは何かきっかけが無いと無理だろう。


「よぉイムライ。今日は可愛い子沢山連れてどうしたんだ? かみさんに怒られるぞ?」


「うっせーぞ!」


 こんなやり取りが家に到着するまでに七回はあっただろうか。


「随分人気なんだな」


「そうでもないさ。俺を支持しない人間も沢山いる」


 ……今のはどういう意味だ?

 俺を支持しない人間、なんて言い方はなかなかしないと思うが……。


「お前まさか……」

「ついたぞ。ここが俺の家だ」


 今この街がどうなっているのかをいろいろ考えていたんだが、こいつの話を聞いていて気になった事がある。


「おかえりなさい。あら、今日は随分お客さまが多いのね……? しかも可愛らしい女の子ばかり……いったいどこでひっかけてきたのかしら?」


 イムライが家のドアを開けると、これまた少しぽっちゃり気味の、それでいて可愛らしさもある愛嬌系の美人が出てきた。


「勘違いするなよイルナ。この人達はちょっといろいろあって知り合っただけだよ。あの子に会わせたいんだけど起きてるか?」


 イルナと呼ばれた女性はおそらくイムライの嫁さんなのだろう。

 彼女は、「少し狭いかもしれませんがどうぞ中へ」と俺達を全員中へ迎え入れてくれた。


「居間ならみんな座れると思いますので……お茶でも出しますわ」


 廊下を通り、居間へ案内される途中で、壁に貼ってあるいろいろな書類をチラ見して核心した。


 この街は今、民主主義、或いは似たようなシステムにより代表者が決まっているのだろうという事、そして現時点での代表者、もしくは候補者がこのイムライだという事。


 なるほどなぁ。恐らく民主主義でやりくりするための基盤自体は騎士団が作ったのかもしれない。

 よその街のいざこざに首を突っ込む事は騎士団としても本意じゃないだろうから、システムの枠組みだけ作ってあとは投げっぱなしにしたんじゃないだろうか?


 あくまでも予想ではあるが、当たらずとも遠からずというやつだろう。


「イルナ。あの子を……」


「焦らないで下さいな。皆さんにお茶を出してからでいいでしょう?」


「う、うん……そうだな」


 なんだかんだと尻に敷かれているようで微笑ましいな。


 しかし、わざわざ俺達をこんな所まで連れてきてまで会わせたい【あの子】とはいったい……?


「ではちょっと待っていて下さいね。えっと、貴方の分を含めて五人分ですね。すぐ用意しますわ」


「いや、六人分用意してくれ」


 イムライはイルナに五人から六人に訂正をした。


 イムライ。俺、めりにゃん、ろぴねぇ、ナーリア……これで五人だ。


 こいつ……。


「なぜ気付いた?」


「なぜとはどういう意味かな」


 本当に何の事か分からないと言った様子で質問を返されてしまった。


「何故五人じゃなく六人だと?」


「……あぁ! そういう事か。だってそこのぬいぐるみはそんな見た目だけど魔物だろう?」


「気付いていたのであるか」


 ライゴスはろぴねぇの腕からテーブルの上にぴょんと飛び降りて、改めて挨拶をした。


「我はライゴス。イオン・ライゴスである」


「俺の名前はイムライ。ただのイムライだ」


「なるほど……タダノ・イムライ殿であるな」


 多分それはちょっと違うんじゃないかなとお思いつつもどうでもいいのでスルー。


「そう言えば俺達も自己紹介していなかったか。俺達は……」


「いや、君達は有名だから知ってるよ。プリン・セスティ、ヒルデガルダ・メリニャン、それとナーリア・ゼハール……そちらの一つ目のお嬢さんはちょっと分からないな」


 ガタッ!


 思わず俺は立ち上がりメディファスに手をかけていた。


「な、なんだい? 俺が何か変な事言ったか?」


「んー。うちはな、今魔法で人間に見えるように魔法かけてっもらってるんやけど、それをあっさり見破ったやんか。だからうちの旦那様は警戒したんやと思うで」


「……だ、旦那様ぁ??」


 いや、そこはどうでもいい。突っ込むところはそこなのか?


「どうやら、敵じゃなさそうだ」


「そんな簡単に信じていいのかい? いや、敵では無いんだけどね。俺は少し目がいいんだよ。最近気が付いたスキルさ」


 確かに偽装を見抜く目を持っていたって、最初から真実が見えていたらそれが偽装されているとは気付かないわけで……知る機会はなかなかないのかもしれない。


「はい、お茶が入りましたよ。それと、あの子もちょうど二階から降りて来たみたい。ちょっと、こっちに来て皆さんに挨拶しなさい」


 イルナが、二階から降りてくる人物に向かって声をかけると、少し速足になってとたとた階段を下りる足音が近づいてきた。


 どうやら紹介したいという人は少女だったらしい。俺には見覚えがないが……。


「うわ……いっぱい人が来てる……は、初めまして。私、り……」

「ぶふーっ!!」


 ナーリアが口をつけていたお茶を噴き出し、大声で叫んだ。


「げほっ、げほっ……あ、貴女は……」


 んなアホな事があってたまるか。

 どうなってやがる……?


「リーシャ!?」


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