姫魔王と太い奴。


「君はっ! 君という奴は! もう少しで俺死ぬところだったじゃないかっ!!」


 デブが顔を真っ赤にしながら俺に唾を飛ばしてくる。汚い。


「助かったんだからいいじゃねぇかよ。てかお前誰だよ」



 ナーリアも正体を知らないという謎の男。

 そいつとの出会いはこんな感じだった。


 壁からデブを引き抜くと、息をしていなかったので俺はかなり青ざめた。


 ドアを蹴破った勢いで誰だかわからん民間人を殺してしまったかと……。


「めりにゃん手伝ってくれ! 回復魔法かけてるんだけどこいつ息してない!」


「な、なんじゃと!? 死んでおるのか!?」


「ちょっと待ちぃ。回復魔法の前にうちに任せとき。……いくでぇ!」


 ろぴねぇがデブの身体の胸辺りに掌を当て、「通肺心掌!!」と叫ぶと、デブの身体が一瞬大きくびくんと飛び跳ねて血の塊を吐き出した。



「セスティ! こやつ息しとるぞ! 回復魔法じゃ!」


「お、おう! ろぴねぇすげぇ!!」


「うちは気功術にちょーっち自信あるんよ♪」



 これってアレだ。うちの母親が使ってた謎の気功に似てる。

 ともかくろぴねぇが居てくれて助かった。


「おい、おい! 生きてるか!? 生きてたら返事しろ!」


「うぅ……ん。いったい、何が……そうだ、俺は……急にドアが……」


「ごめんな? 内側に人が居るとは思わなくてさ、ドア蹴破ったらあんたまで吹き飛ばしちまってよ」


 正直に言う必要もなかったかもしれないが、一応誠意というやつは見せた方がいいだろう。


 次第に意識がはっきりしてきたデブは、「そうか、君か……」と呟き、顔を真っ赤にして唾を飛ばしてきたわけだ。


「君はっ! 君という奴は! もう少しで俺死ぬところだったじゃないかっ!!」


「助かったんだからいいじゃねぇかよ。てかお前誰だよ」


「……は? あ、あぁ名前か。俺の名前はイムライだが、そんな事より、あいつはどうした?」


 イムライとかいう奴はあのザラって野郎の事を知ってるんだろうか?


「あのマッド野郎の事知ってるのか?」


「やっと勇気を振り絞ってここまで来たのに……奴には逃げられたんだろう?」


 どうやらザラとイムライは敵対している……という事は味方って事でいいのか?


「とにかく! 逃げられたなら早く居場所を突き止めないと! あいつは街の人間をさらっては妙な実験を繰り返している可能性がある!」



 へぇ。平穏そうに見える街の中で、異変に気付き単独で悪に立ち向かう……ってか?

 悪くないぜお前。


「イムライって言ったよな? あんたはどうやってここを突き止めたんだ?」


「待て。その前に俺にも聞かせてくれ。お前たちはどうやってここを突き止めた?」


 ……交換条件ってほどでもないだろうが、こちらが教えなければ答えてもらえそうにない雰囲気だ。


「俺はただ、俺達の仲間を探しに来ただけだよ」


「……ふむ、この女性だろう? ナーリアさんだったかな? 君はどうしてここに?」


 ナーリアはイムライにリーシャの事を簡単に説明した。

 勿論ナーリアの過去や母親の事などは除いて。

 そんな事を他人に話してやる謂れはないからな。

 昔世話になった友人の家というだけで訪れる理由にはなる。


「なるほどなるほど。そう言う事か……しかし、リーシャ……か。どうしたものかなぁ」


 イムライはすっと立ち上がると、考え込むようにあちこちうろうろし始めた。


 そろそろ爆発の騒ぎで人が集まってきたから移動した方が良さそうだが……。


「よし。君らを我が家へ案内しよう……。会わせたい人も居るからね」


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