姫魔王と妹系幼女。



「えっと……? だぁれ?」


「そんな馬鹿な……どうして? どうしてリーシャが……しかも幼い頃のままだなんて……」


 何が起きているのかさっぱりだが、ナーリアの様子を見る限りでは……イムライの家に居た、二階から降りてきた少女は幼い頃のリーシャとうり二つらしい。


「そのリーシャって子には妹でも居たのか?」


「聞いた事がありません! リーシャに妹なんて……いや、でも私がナランを出てから出来た子供なら……」


 まぁその可能性が一番高いんだろう。


「しかし……リーシャに似すぎています。不自然なくらい……」


「えっと、私はリーシャだけど……お姉ちゃんは私の事知ってるの?」


 少女のその言葉を聞いて、その場に居る全員が言葉を失った。


 唯一、イルナだけがお茶うけのお菓子を用意している。


 ……間違いなくこの少女は自分の事をリーシャと名乗った。


「イムライさん……私は、今頭が混乱して正しい判断が出来そうにありません……何が、どうなって……?」


「やはり、貴女を連れてきて正解だったようだ」


 その返事は答えになってないぞ。


「リーシャ。イルナと一緒に二階に行ってなさい。パパは少し大事な話があるから」


「はぁい。ママー遊ぼー?」


「はいはい。ちょっと待っててね。……じゃあお菓子を置いておきますので皆さまで食べて下さいね。私はリーシャと上に行ってます」


「あぁ、すまん」


 どう見ても幸せな家庭だ。

 父親と母親、そしてその娘……。

 そういう関係にしか見えない。


「……説明、してくれるんですよね?」


 ナーリアは今自分がどんな感情なのかすら把握できないような、ひどく狼狽した顔をしている。


「数か月前の話だ。俺は幽霊屋敷の捜索を頼まれた」


 幽霊屋敷? さっきまで俺達が居たリーシャの生家の事だろうか?


「もう誰も住んでいないはずの家から子供の声が聞こえるという話を聞いてな。なんとかしてほしいと頼まれてしまったんだ。そして……」


「あの家に、リーシャが居たのですか?」


「ああ。でも話はそれだけじゃない。屋敷の中に勝手に住み着いているあいつの存在を知った。君たちも見たんだろう? あの機械の足を持つ科学者を」


 ……ザラ、とか言ったか。

 そこで既にザラと遭遇しているのなら、何故リーシャはここに居て、ザラはまだ屋敷に居続ける……?


「いろいろ疑問があるって顔だな? 残念ながら俺はあのヤバい奴とは顔を合わせてないのさ。俺も最近になって知ったんだ。リーシャに聞いてな」


「リーシャはザラに掴まっていたのですか?」


「ザラ……? あいつはザラっていうのか? とにかく、俺があの日屋敷で見つけたのは傷だらけで、裸足の少女だった。その時のあの子はまだまともに喋る事も出来なかったよ。俺はあの屋敷に得体のしれない恐怖を感じ、リーシャを保護してすぐに逃げ帰った」


 一歩間違えればただの人さらいだぞ……。

 でも、あそこが異常だったというのは正しい訳だからこいつのやった事は正解だ。


「あの子を保護した過程は分かりました。でもどうしてあの子にリーシャという名前を付けたのですか? あの屋敷に以前住んでいた少女の名前だからですか?」


 ナーリアが、イムライを責め立てるように早口でまくし立てる。

 イライラしてしまうのは分かるが、少なくとも少女を保護した奴相手にそんな言い方はないだろう。


「……あの子を保護して一週間くらいだったか……そのうち言葉をきちんと話し始めて、自ら名乗ったんだよ。私の名前はリーシャだってな」


「そんな馬鹿な……。では、あの子は一体何なのですか……?」


「俺もあの屋敷にリーシャという少女が住んでいたのは知っている。半年くらい前に亡くなった事もな。だが、あの子が以前そこで暮らしていたリーシャとうり二つだというのは今初めて知った。貴女をここに連れてきたのはそれを確かめたかったからだ」


 ……なるほど。イムライも、以前あそこに住んでいたリーシャとここのリーシャが無関係とは思っていなくて、それを確かめる為に過去のリーシャを知るナーリアを連れて来たという事か。


「あの子は……ほかには何と?」


「いや、自分の名前意外の事は特に何も…しかし誰かに預けるわけにもいかず、あの屋敷に返すのは論外だったのでね。俺達の養子として家族になったんだ。今は俺の大事な娘だよ」


「そう、ですか……やはりリーシャの件はザラが絡んでいるのでしょうか……?」


「分からない。俺もあそこに何があるのかずっと気になっていた。だけど勇気が無かった……。だが、その屋敷の中に女性が一人入っていったという目撃情報があってな、まずいと思った」


 だからあの屋敷に乗り込んで、掴まっているナーリアとザラを見つけた訳だ。


「しかし我はずっと門の前にいたのである。お主が入って行くのを見た覚えはないのである」


「ぬいぐるみ君は門番をしていたのかい? 中に何かヤバいのが居ると分かっていて正面から入って行く訳ないだろう? 俺はこっそり家の裏手の塀を乗り越えて侵入したのさ。敷地内に入ってしまえばあの屋敷自体はそこら中に抜け穴があるからね」


 確かにあの屋敷は人が住まなくなって半年の割にはボロボロだったからな。

 もしかしたらリーシャはもっと以前からあの家を出て別の場所で暮らしていたのかもしれない。


「結論を言うとだ、俺もリーシャの秘密は知りたい。そして奴がよからぬ事をしている事もなんとなくわかる。更に言えば君らの仲間が捕まっているのだろう? それも助けてやりたい。だから……」


 こいつ、良い目してやがるぜ。


「分かった。俺達も協力しよう。……いや、俺達に協力してくれイムライ」


「……ああ。勿論だとも!」

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