姫魔王は大きいのが好き。


「ライオン丸!? ライオン丸ではないか! なぜこのような場所にいるのじゃ?」


 そう、ボロい屋敷の門前に、見覚えのあるぬいぐるみがいた。

 結局魔族王戦では本来の姿を取り戻したライゴスだったが、結局しばらくするとぬいぐるみの姿に戻ってしまったのだ。


 ライゴス曰く、「あの女にたばかられたのである!」だそうだ。

 ロザリアに解除してもらったらしいが、それも一時的な物だったのだろう。

 多分わざとだな……。


 勿論俺がメディファスに頼めば解除できるのだが、こうやって人の街に来る時にこの姿の方が都合がいいだろう?


 それに可愛いしな。だから元には戻してやらん。


「そ、それはその……我はただの付き添いなのである」


「ナーリアの付き添いで来たのか?」


 俺が問うと、さも意外そうな顔で「ど、どうしてその事を……!」なんて言うもんだから今までの経緯を教えてやった。


「なるほど……では皆はナーリア殿を探しにここまできたのであるな」


「おいテメェコラ!」


「ひっ、乱暴に掴まないでほしいのである! 破けてしまうのである!! この少女はいったいどうしたのであるか!?」


 ライゴスがステラに乱暴に掴み上げられ、ジタバタともがきながらこちらに助けを求めてくるが、すまん。その子はどうしようもないタイプの女の子だから俺はあまり関わりたくない。


「つべこべ言ってねぇでナーリア様の所まで案内しろや!」


「し、心配せずともすぐに戻ってくるのである! ナーリア殿はこの屋敷の中へ様子を見に行っただけであるからして……い、痛い痛い! 引っ張らないでほしいのである! ここで待っていろというのが彼女のお願いなのである!」


 どういう事だろう? ナーリアがわざわざライゴスを連れてきたのは万が一の時の護衛だろうが、わざわざ連れてきた護衛を門の外にお留守番させて一人でこんな所へ……?


「どういう事だよ! いいからさっさと案内しやがれ!」


「わ、我だってお留守番は嫌だったのであるが……どうしても一人で行きたいと言うので……」


 ここがナーリアにとってどんな意味を持つ場所なのかは分からないが、推測なら出来る。

 わざわざナランまでやってきて、一人で見て回りたいところがあるとするならばそれはただ一つ。


 ナーリアが幼少期を過ごした……リーシャの家だ。

 リーシャというのはナーリアの父親の親類の娘……だったか? 俺も記憶が曖昧だが確かそんなのだった筈。


 もしここがその家ならば、ナーリアにとって嫌な思い出といい思い出が沢山詰まった場所だろう。


 前にここに来た時は俺達に気を使って、見に行きたいのを我慢していたのかもしれない。


 いろいろあったからな……。結局、ナーリアの幼い頃に支えになり、人買いに売られそうになるのを助けてくれたリーシャという少女は……。


 この街を裏で牛耳っていた闇カジノ、そして闇オークションの黒幕、キャメリーンに殺されていた。


 ここへ来たのはリーシャを偲ぶためか、母の面影を求めてなのか……。


 その両方かもしれないな。

 もしここがリーシャの家ならば辛い思い出があるのは間違いないが、それを上回る何かがあったという事だ。


 おいそれと俺達が踏み込んでいい場所ではないだろう。


「ちなみにライオン丸よ、ナーリアがこの屋敷に入って行ってからどのくらい経つのじゃ?」



 ん? そういえば昨日の夕方から姿が見えなかったと言ってたな。

 転移で来たのならすぐだろうし、それまで街を観光してたとも思えない。


「うむ……それがもうかれこれ八時間くらいは経つのである」


「「バカ野郎!」」


 意外な事に、俺とステラの声がシンクロした。


「そんな長い時間ナーリア様を一人にしたってのか!?」


「い、痛いのである! 我はお留守番を申し付けられたらいい子に待っていなければいけないのである! そうしないと叩かれるのであるっ!!」


 なんだかさらりとライゴスのトラウマっぽい何かが聞こえた気がしたが今はそれどころじゃない。


「そんなに経っても出てこないのは流石におかしいだろ。ナーリアには悪いが突入するぞ!」



「し、しかしお留守番が……」


「ライゴっち、諦めや。セスっちがこう言い出したら止まらんし、ステラって子はもう門を乗り越えようとしとるで」


「ライゴっち!? ……というかお前ロピアか!? なぜ見た事ない人間が一緒にいるのかと思えば……ハッ!? こういう事ができるのなら何故我はぬいぐるみなどになっているのであるか!?」


「ライゴス。それはな、メディファスが使えない奴だからだ。諦めろ」


『否定。我は優秀です。賢いのですよ』


 はいはいすげーすげー。


「そんな事はどうでもいいからさっさと中へ行くぞ」


 もうステラは門を無理矢理乗り越え玄関ドアの前まで行ってしまった。すぐに追いかけよう。


「そんな事とはなんであるか!? 我は……」

『そんな事とはなんですか。我は……』


 ライゴスとメディファスが同じような文句を言ってきたのが聞こえたが無視してひょいっと門を飛び越える。


 俺に続いてろぴねぇとめりにゃんも敷地内に入ってきて、ライゴスは「ぐぬぬぬ……!」と少しだけ悩んだ後無理矢理身体を門の隙間に身体を突っ込んで、きゅぽんと転げ出て来た。


「ほれライゴっち。今日はうちが運んでやるで」


「ロピア、お前我をなんだと……うわわっ」


 ろぴねぇの胸に抱かれてライゴスがあわあわしているのは面白いがけしからんなそこ少し変われ。


「セスティ……」

「な、なにかなめりにゃん」

「ステラはもう中に行ってしもうたぞ」


 あ、あぁそうか。そっちね、そっちか。よかった。


「意外と大きいのが好みなんじゃな。儂のじゃたらんのかのう?」


 ぼそりとそんな声が聞こえてきて俺は速足になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る