姫魔王は予想外の相手に驚く。


 俺達はめりにゃんの転移魔法でナランの入り口までやってきた。

 俺がやると変な所に出ちゃうかもだからその方がいいだろうという事でお願いした。


 俺達だけならいいけどステラも一緒となるといろいろ心配だからなぁ。

 ちなみに、ろぴねぇは今褐色の肌をした美人に見えている。


 本人をベースにしているからか瞳はとても大きくて綺麗で、睫毛は長く、胸はかなり大きい。


「なんや何見とるん? うちの美貌にやられてしもたんか? セスティならいくらでも見てえぇんやで? ほれほれ」


 ろぴねぇがこちらの視線に気付いたらしく服の胸元を指でくいっと広げながらこちらへ見せつけてくる。


 申し訳ないがこれはアシュリーにはない魅力だ。めりにゃんも本来の姿を取り戻してからかなりサイズアップしたとはいえ、これほどまでには……。


「こりゃ! なにをデレデレしとるんじゃ! そもそもこの外見は幻じゃからな!? そこのところちゃんと理解しておるのか?」


「そーやったなぁ。今みんなには人間に見えとるんやったっけ」


 ろぴねぇがちょっと残念そうに、胸元を見せつけるのをやめた。


 いや、別に胸のサイズは元から変わってないんだし見せてくれたっていいんだけど……。


「セスティ……?」


 めりにゃんがおっかないのでこれくらいにしておいたほうがよさそうだ。


「これだから男ってやつは……」


 ステラが俺の事をゴミを見るような目で見てくるんだけど、なんだかこういうのは久しぶりな気がする。


 以前はアシュリーがこんな感じだったけど、今では全くと言っていいほど態度が変わってしまったから新鮮というか懐かしい気持ちすらある。


「なに笑ってんだよキメェな」


 いや、アシュリーでもこんな言い方はしないか。

 というか若い女子に本気で罵倒されるとかちょっと凹んでしまいそう。


「うだうだやってねぇで早く……んんっ! ……早くナーリア様を探しにいきましょう?」


 咳払いをして口調を戻し、にっこりと笑うステラに俺は軽く恐怖を覚えたね。

 本性がバレていてもお構いなしに体裁を繕ってくるタイプの人間は怖い。


 私は無理して貴方に敬語を使ってにこやかに接してあげています。と言っているようなものだ。


「そうじゃな。とにかくまずはナーリアと合流して、それから儂等のやるべき事をした方がいいじゃろう」


 めりにゃんの言う通りだな。とりあえずこんな所で何をしてるのかしらないがナーリアと合流した方がいいだろう。


「そもそもナーリア様はどうやってこんな所まで来たのでしょう??」


「そりゃあれやでステラちゃん。主要メンバーはみんな転移用のアイテム持ってるんや。うちはもっとらんけどな」


 ろぴねぇが、「うちはもっとらんけどな」の辺りでジト目になって俺を見てきた。不満があるという事だろう。


「あー、ろぴねぇにも後で用意するからそんな顔するなよ」


「なーんてな、うちは別にひとりでどっかいったりせんから気にしとらんよ。むしろ亭主の帰る家を守るのが仕事だと思っとるんや」


「これこれ、亭主とはなんだ亭主とは。お主は愛人であろうが!」


「細かい事気にしたら負けやで? 本妻なら本妻らしくどかーっと大きく構えとったらええんや」


 うーん。ろぴねぇが愛人っていう話はもう確定してしまっているんですか? 俺としては魔物に対しての偏見なんかないし、記憶が無かった間いろいろ世話になったのも仲良くしてもらった時の事も一緒に風呂に入った事もきっちり覚えてるわけで、やぶさかではないのだが。


「セスティ……」


 おや、めりにゃんの視線が怒りの物からだんだんと呆れた物に変わってきている気がする。



「と、とにかく中へ行こうか」


 門の所に検閲があるようなら転移で中に入る必要があるかなと思ったのだが、どうやら今は誰も居ないらしい。


 何か異常事態かと思ったが、街の中はどう見ても平穏その物で、行きかう人々には活気があるし、店の数々は賑わっていた。


 考えすぎか?

 いちいち街に来る人を調べなくてもいいという判断なのか、あるいはそこまで手が回らないだけか……。


 そもそもこの街を牛耳っていたクレバーが壊滅してからどのようにして復興したのだろう?

 むしろ街からは厄介者のように思われていたのかもしれない。

 もしそうなら自由になった人々に活気が出るのは分かる。


「ナーリア様はどの辺にいますか?」


「あー、ちょっと待ってな。詳しく見てみるから」


 えーっと、ナーリアナーリア……。


「ナーリアは街の……南側の……これは屋敷かな? 結構大きめの家の中に居るみたいだ」


「行きましょうすぐ行きましょう! それ貸して下さい!」


 ステラが俺からアーティファクトを奪い取り、人込みの中へ走っていってしまったので慌てて皆で追いかける。


 ステラは表示されている場所へ向かい一直線。見失ったら大変だが、しばらく後を追っていくと無事目的地へ到着する事が出来た。


「なぁなぁ、ほんとにここなんか? かなり……その、言っちゃなんやけど……」


 うん、ボロいな。

 この家にいったい何があるっていうんだ? もともとは立派な館だったみたいだが、今では誰も住んでいないのか、建物自体はしっかりしているものの、あちこち蜘蛛の巣が張っていて、見るからにお化け屋敷だ。


「ひ、ヒルダ様!? なんでこんな所に!? セスティ殿まで!」


 ……はぁ?

 なんでこんな所にぬいぐるみが居るんだよ。

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