姫魔王はドアを蹴破り何かを蹴り飛ばす。


「心配せずともヒルダ様もこれからまだまだ成長するのである!」


「そうやで? あと数年もそりゃうちくらい大きくなるって♪」


「そうかのう……?」


 耳が痛い耳が痛い!

 頼むからそういう話は俺に聞こえないようにやってくれ!!


「めりにゃん! 俺はありのままのめりにゃんが一番いいと思うぞ!」


「そうか? セスティがそういうならいいんじゃが……ロザリアにでも頼んで大きくしてもらった方がいいのかと……」


「魔改造は辞めなさい!」


 確かにあいつならそれくらいすぐに出来るだろうけどそれじゃ意味がないだろうが!


 天然物に勝る物などない。



 ……俺はこんな時に何を考えてるんだ。ナーリアを探さないと。


「ステラは何処へ行った?」


 どうやらステラの足跡は二階へ向かっているようだ。

 屋敷の中は広々としているが、埃が積もっていて、やはり寂しさしか感じない。


 調度品などはほとんどなく、ただの建物のみになってしまっているような感じだった。


 積もった埃に足跡が残っているのだが、恐らくナーリアのものであろう足跡、そして今ついたばかりのステラの小さな足跡。


 ……そして。


「……おい、ライゴス。お前は門の前にずっといたのか?」


「勿論である! 誰も来なかったのである!」


 ……ならこれは一体……。

 他にも複数人の足跡が残っている。


「メディファス。鑑定しろ。ナーリアとステラ以外に何人来た形跡がある?」


『御意。……おそらくナーリアの物である足跡と、ステラの物を除き二名……いや、三名の痕跡が残っています。靴のサイズおよそ二十八が一人、二十二程度の素足が一人……そして、人外の物と思われる物が一つ。しかし素足の物については数か月経過しているようなので気にする必要はないでしょう』


 足の小さな素足の物が気になるところではあるが、問題なのは二十八の……おそらく男だろう。そいつと、人外か。

 なかなか役に立つじゃねぇか。


『どやぁ』


 ショコラの真似なんかすんな気持ち悪い。


『我もどうかとは思いましたが珍しく褒められたのでつい』


 そんな事はどうでもいいんだって。


「セスっち、これまずいんとちゃうか?」


「分ってる! 早くステラを追わないと!」


 俺はロザリアから受け取ったアーティファクトでナーリアとステラの場所を探そうと思ったのだが……。


 そうだった、アレはステラが持っていっちまったんだった!


 だとしたら……ステラはナーリアの元へまっすぐ向かうはず。


「メディファス! ステラの足跡を追跡しろ!」


『了解。階段をそのまま二階へ上がって下さい』


「こっちだ! ついてこい!!」


 俺の後をめりにゃんとろぴねぇが追いかけてくる。勿論、ろぴねぇに抱えられたライゴスも一緒だ。


『階段を上り切ったら右です。そのまままっすぐ突き当たり左の部屋が終点です!』


 ほんとにやるじゃねぇか! こんな薄暗い屋敷の中じゃ肉眼で足跡を追っていくのも大変だからな。

 メディファスもやる時はやる奴だと覚えておこう。


『今までそう思って居なかった事に驚きを禁じ得ません』


 まぁ凹むな。これでもちゃんと相棒だと思ってんだからよ。


『……』


 可愛いやつめ。

 さて、間に合ってくれよ……?


「どっせーいっ!!」


 俺はドアを開ける時間も惜しかったのでそのまま蹴破って中へ突入……したのだが。


「ぎゃーっ!!」


 俺が蹴り飛ばしたドアに、内側に居た誰かが激突したらしくそのまま部屋の反対側まで転がって行き、壁にめり込んだ。


「姫っ!? どうしてここに……いえ、それよりステラが!!」


「げっ、まさかさっきのステラだったのか!?」


 それにしては手ごたえ……というか足ごたえが重たかった気がしたけど……。


「違います! ステラはあっちです!!」


「な、ナーリア様……私、私……」


 おいおい……どうなってんだこれは。


 ナーリアは無事に発見したものの、部屋の中には妙な物に乗った男が居た。


 正確に言えば、いかつい義足のような、機械のような物体の上に、人の身体の上半身だけが乗っていた。

 それはおそらくメディファスが言っていた人外の足跡の主だろう。

 男は何か魔法のような力でステラを拘束している。


「やれやれ……なぜこの場所に気付いた? 僕はまだまだ静かに研究をしていたかっただけだというのに……しかし、この場所はもう使えないね。残念だが廃棄しよう」


「貴方はいったい何者なんですか!? ステラを離しなさい!」


「ご、ごめんなさい……私、いつもいつもナーリア様の邪魔、ばかり」


「いいのです! そんな事は……!」


「うるさいな。立場分ってる? 黙ってろ」


「あぁぁぁぁぁぁっ!!」


 バリバリと電流のような物が弾けてステラが悲鳴をあげる。


 あんなもの普通の人間がくらったら……。


「心配せずとも殺しはしないさ。この子は僕の実験台に使わせてもらうサンプルだからね。いやはや街中へ見繕いに行く手間が省けたよ。ここを失うのは痛いが……まぁ成果や過程は僕の頭の中にあるから問題はないか」


「何をつべこべと……早くステラを開放するのじゃっ!!」


 めりにゃんが掌を男に向け、牽制する。

 いつでも魔法を唱えられるように。


「辞めておきたまえ。今魔法を放てばこの少女が死んでしまうよ? 本当は君達全員サンプルにしてあげたいところだけど新しいラボを用意する事を考えると一人が限界かな。君達強いみたいだしね。僕は面倒が嫌いなんだ。それじゃあバイバイ。もう会う事がないといいね」


 上半身だけの男はステラを連れ、窓ガラスをぶち割って外に逃げた。


「待ちやがれ!」

「ステラっ! ステラぁぁ!!」


 ナーリアが弓を構え、窓の外に飛び出た男へ向かって矢を放ったと同時に。


 屋敷が爆発した。

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