姫魔王は虫捕りに出かける。
「とりあえずこの状況を誰か説明してくれないか?」
俺もやっと目が慣れてきて、この地下がどうなっているのか分かってきた。
これは……町だ。
山の地下に町がある。
「セスティ様だ!」
「セスティ様!!」
「生きてると思ってました!!」
エルフが周りにわらわらと集まってきてもうしっちゃかめっちゃかだった。
「のうセスティ、お主いつのまにかエルフから大人気じゃのう?」
「ほんとこいつらミーハーなんだから……私も一緒に居るのが見えてないのかしら?」
「おーい! 取り合えずさ、誰か俺達にこの状況を説明してくれ! この町はなんだ? エルフはなんでこんな所にいるんだ?」
「あんたが魔王を倒したっていうプリン・セスティか? あの石像の通りめんこいおなごじゃのう」
エルフの群れの中からやたらちっこい生き物がこちらに向かって出てきた。
背が小さいが手足は太く、頭が少々大きい。
これは……ドワーフ種か。
「わしはザリオンという。かの英雄にお会いできた事光栄に思うよ」
「そういう堅苦しいのは無しでいいぜ。それよりなぜエルフがこんなところに? あんたらドワーフとは仲が悪かったように記憶してるんだが」
俺も直接エルフから聞いたわけじゃないから正確な情報という自信がないけれど、エルフとドワーフ達は長い事険悪な関係が続いていると聞いた。
「なに、まずはエルフから和解の申し出があったのだ。集落の方に石像があったのを見たか? あれはわしらが作った」
確かにドワーフの中には物作りを得意とする種族がいると聞いた事があるが、それがこいつらなのだろう。
「まったく余計なものを作ってくれたもんだ。しかしそれとエルフがここに居るのと何の関係が?
「今エルフの集落は危険な状態なのでな、みなこちらに避難しておる」
エルフの集落が危険……?
「危険っていうのはどういう意味だ? さっき行ってきたけど特に何もなかったぞ?」
「それは儂から話そう……。ご無沙汰しております。いつぞやはエルフの集落をお守りいただき……」
今度エルフの中から現れたのは確かエルフの族長だったか?
「皆さんが集落に行った時、そこには誰もおりませんでしたかな? もしそうなら今の時間は寝ているのかもしれません」
やはり誰かがエルフの集落を襲ったのだろうか?
「でもさっき調べた時魔力の類は感じなかったぞ? ……いや、そういえば人よりもかなり小さい反応がいくつかあったな。動物だと思ってスルーしてたが……」
「おそらくそれが奴等です。貴方がたが無事で良かった。アレは小さな虫のような外見で、見た目に反してかなり凶悪です。噛みつかれれば肉は抉れ、そこから毒を流し込まれて死に至る」
うげ……。魔物の残党なのか、魔族絡みなのかはちょっと分からないが危険な生物がいるっていうのは間違いないらしい。
「それでドワーフの所に逃げてきてたのか」
「そういう事です。しかしいつまでもここに厄介になるわけにもいかず困っていた所でした……申し訳ないのですが、もしよろしければ……」
「嫌よ」
族長の言葉を即座にアシュリーがへし折る。
族長は項垂れ、まるで消えてしまいそうなくらい生気が薄れていく。
「アシュリー、意地悪してやるなよ。俺達がその虫をどうにかしてやるから安心しな」
「おお! さすがセスティ殿!」
パァっと明るくなる族長の顔は涙でべちゃべちゃだった。ちょっと気持ち悪い。
「でも一つ条件がある。俺は今……魔物の国で王様やってるんだ。つまり、魔王ってやつさ」
「せ、セスティ様が……魔王……?」
周りに居たエルフ達もざわつき出す。勿論ドワーフも。
「心配するな。俺が魔物達を纏めてるってだけだよ。きちんと国を作って、人間とも既に同盟を結んでる。危害を加えたりはしないと約束しよう」
「……な、なるほど……。セスティ殿が魔物達を管理するという事なのですな。それならば我らは安心です。すぐに皆に理解しろというのは難しいでしょうが……」
「それでいい。ただ魔物連中もいい奴等が多いんだぜ? ほら、俺の嫁のめりにゃんも魔物だからな」
「……そう、でしたか。確かにその角、羽根……魔物なのでしょうな。条件というのは、魔物の国を受け入れる事、でいいのでしょうか?」
受け入れて貰えるならそれに越した事はないが……。
「とりあえずは俺が責任をもって管理してる国だから怖がるな、って事くらいでいいさ。人間と同盟を結んでる国なんだから安心だぞ?」
「確かに、そうですな。しかし人間が……魔物と……同盟? そんな日が来ようとは……セスティ様、貴女は……儂が思っていた以上にとんでもない人なのかもしれませんな」
「セスティ様万歳!」
「セスティ様!」
「結婚してくれ!」
周りのエルフの盛り上がり方が異常なんだけど……。
「今結婚してくれって言った奴出てこい。まずは私が相手してやる」
アシュリーがブチ切れてるのは見ないふりした方が良さそうね。
「じゃあみんな、虫退治しに行くわよっ♪」
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