姫魔王はエルフ捜索に出る。


「お前ら今そんな場合じゃねぇだろうが!」


「お主が火種じゃろうが!」

「アンタが原因なのよ!」

「おにいちゃんが悪い」


「なんでっ!?」


 その後皆が沈静化するのに十五分程度同じようなやり取りが続いた。


「はぁ……どっと疲れたよ」


『やはりアシュリーは危険。ショコラはよく理解しております』


 黙れ。今はそういうの考えたくない……。


『不条理』


「で、結局私は何をしたらいいの?」


「あ、あぁ……そうだったな……。とりあえずお前ならエルフ達の魔力反応を追跡できるだろう? どこに行ったのかを調べてほしいんだ」


「なんだ、そんな事なの? そういえば誰もいないわね……すっきりしていい場所になったじゃない……っていうか何あれ」


 アシュリーは今になって俺の石像に気付いたらしい。


「……エルフ共もたまにはいい仕事するわね」


 お前もか!? お前もなのか!?


「確かにおにいちゃんの美しさがよく表現されてる。これはぐっじょぶ」


 俺は君らの美的センスを疑うよ。こんなもん俺からしたらただの嫌がらせだからなぁ……。


「ま、それはいいわ。とりあえずエルフの糞野郎どもを探してみましょ」


 アシュリーは相変わらずエルフ達の事を良く思っていないらしい。


「……ん、この近辺には居ないわね……もう少し捜索範囲を広げてみるわ」


 サーチ系の魔法は広範囲になればなるほど精神的な負担が増えると聞くのであまり無理はしてほしくないところだが……まぁアシュリーなら平気だろ。


「……見つけた。……なんでこんな所に……?」


「どうだった?」


「ああ、ここから……そうだな、多分あの山の中だな」


 アシュリーがそう言いながら指さしたのはかなり離れた場所に見えている山だった。


「山の中ってどういう事だよ。皆して山登りでもしてるっていうのか?」


「残念だけど山の上じゃないのよ。言葉通り、山の中ね」


 アシュリーが「やれやれ」と呟いて深く息を吐く。


「山の中って……なんだ? まさかあいつら穴掘りでもしてるっていうのか?」


「そのまさかなんじゃない? 興味ないけれど」


 うーん。ちょっとまだ判断しかねるな。

 何か目的があって穴掘ってるだけならいいけれど、それが強制的にやらされてるような事だったり、そこに監禁されてるなんて話だったらちょっと問題だぞ。


「とりあえず見に行った方がいいんじゃないかのう?」


「うんうん、めりにゃんは優しいなぁ。じゃあまずは状況の確認だけでもしておくか」


「おにいちゃん、アシュリーはどうでもいいみたいだからおいていこう」


「ちょっ、ふざけんじゃないわよ! 私だって一緒に行くわ。むしろ私が連れていくわ。ほら、掴まりなさい転移するわよ!」


 ショコラはアシュリーを振り回すのがうまくなった気がする。……もともとアシュリーはショコラに振り回されてた気もするけど、以前より意図的に誘導している。


「ちょっ、別にショコラに言ったんじゃないわよ! なんでアンタが真っ先に……っていうか掴まるなら手に捕まりなさい! どこ掴んでんだこら殺すぞ!!」


「のうセスティ、儂はいろいろ心配になってきたのじゃ」


「奇遇だな。俺は最初から心配しかねぇよ」


「ほら、アンタらが遅いからショコラが悪ふざけするのよ!」


 アシュリーがショコラにべしべしとチョップを入れながらこちらに向かってくると、むりやりめりにゃんと俺を掴んですぐに転移。


 どうやら先ほど見えていた山の麓に到着したらしい。さすがアシュリー、座標が正確だ。


「セスティ、あそこ見るのじゃ。アレが入り口かのう?」


 めりにゃんが指さす先を目で追うと、山の壁面ではなく、地面に丸くくり抜かれた穴が開いているのが見えた。


「アシュリー、一応もう一度サーチしてくれ。エルフとそれ以外って区別できるか?」


「この距離なら出来るわ。待ってなさい……」


 アシュリーの表情が一瞬曇ったので、きっと良からぬ事が起きているという事だろう。


「……エルフ以外が、居るわね……しかも大勢。むしろエルフよりも多いと思うわ」


 そうすると、監禁されてるって流れが濃厚かもしれないな。


「それと、多分だけどこの地下、すごく広い空間が広がってる。小さ目の町が一つすっぽり入るくらいのね」


「そんな事も分かるのか?」


「推察よ。人の密度や広がり方が分かれば大体どんな場所なのか分かるからね」


 さすがアシュリー。大賢者の名は伊達じゃない。


「さて、じゃあどうしたもんかな。ひっそりと忍び込むか……」


「おにいちゃん、こういうのは派手にやるに限る」


 俺の言葉に食い気味に返事をしたショコラが、俺達が制止する間もなくその穴に飛び込んでいった。


「あの馬鹿っ! おいみんな! こうなったら仕方ねぇとりあえず突っ込むぞ!」


「分かったのじゃ!」

「了解。エルフ共に恩を売るチャンスだわ」


 俺は穴に飛び込みながら色んなケースを頭で考えていた。


 一番可能性が高いのはやはり魔族絡みだろうか?

 エルフを人質に取られたら面倒だぞ……。


 穴は大体三メートルくらいの縦穴になっていて、着地した俺達を取り囲む沢山の光。

 魔法で作られた照明で俺達は一斉に照らされ、そして……。



「あっ、貴女はセスティ様!? 生きていらしたのですか!?」


 ……あん?

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