姫魔王はぼっちな魔王。


「結局あいつらもその虫の事はあまり分ってなかったみたいね」


 エルフやドワーフにいろいろ話を聞いてみたけれど、人の拳より少し小さめの虫で、牙が凄くて噛みつかれると肉を抉られるって事しか分からなかったんだよね。


 後は群れで行動するから突然囲まれるとどうしようもないって事くらいかな。


「アシュリー、虫相手だったらどういう対応が一番よさそう?」


「そうね……ぶっちゃけまとめて焼き払うのが一番なんだけれど、それだと集落の家屋ごと燃え尽きるわね。私は構わないけれど」


 私達を先導しながらアシュリーが物騒な返事をしてきた。


「うーん。さすがにそれはまずいでしょ。他に何か方法ある?」


「あるにはあるけど……」


 アシュリーは頭をぽりぽりと掻きながら「面倒なんだよなぁ」と呟いた。


「どんな方法があるのじゃ? 何かあるなら試してみたらよかろう」


 めりにゃんは虫退治に割と前向きみたい。


「めりにゃんは虫とか平気なの?」


「うん? 別に特別好きでも嫌いでもないのじゃ」


「なんか上機嫌っぽく見えたんだけど気のせいだった?」


 めりにゃんは一瞬きょとんとして、当たり前のように言う。


「そりゃそうじゃろう? これが夫婦としての初バトルじゃからのう♪ 初めての共同作業ってやつなのじゃ」


「あーもうめりにゃんはかわいいなぁ♪」


 思わずぎゅっとして頭なでなでしてあげた。


「わわわっ、急に何するんじゃ辞めるのじゃっ!」


 なんて騒ぎながら尻尾はぴーんってなってるし羽根はパタパタと嬉しそう。他のみんなが居るから少し照れてるのかな?


「お前らいちゃついてないでさっさと行くぞ? 転移でちゃちゃっと飛ぶから近く寄れ。ほら、セスティは私に引っ付いてもいいぞ」


「……どさくさに紛れておにいちゃんに何しようとしてるの?」


「ちっ」


 本当にアシュリーはどういう心境の変化なんだろうね。一緒にでかけたのが切っ掛けなのか、もうあからさまに人前でもグイグイくるようになった気がする。


「ほら、手ぐらいならいいだろ? 早く掴まれ」


 アシュリーの手を握ろうとしたら間にショコラが割って入ってきて、「これでいいでしょ」と言いながらアシュリーと私の手をそれぞれ握る。


「……ほんとアンタは……はぁ、どうして私にはこう敵が多いんだ」


「自業自得因果応報貧乳」


「……百歩譲って最初の二つはいいとしよう。最後に変なもんが付いてなかったか?」


「ついてない。どう見てもなにもついてない」


「おいコラ、どこ見ながら言ってんだ」


「言っていいの? 多分傷付くよ」


「いい度胸だコラ言ってみやがれ」


 ……これは仲良いのか悪いのか……見てる分には面白いんだけど、そろそろ止めてあげた方がいいような気もする。



「でさ、結局アシュリーが言ってた他の方法ってどんなの?」


「あ、あぁ……それなんだけどな、幾つか方法はあるんだけどどれもおススメは出来ないというか……」


 私達はそんな話をしながら、アシュリーの転移魔法でエルフの集落へ戻ってきた。


「ねぇ、これちゃんと作戦立ててから来た方が良かったんじゃない?」


「……思ってたより数が多いわね。まさかもうこんなに集まってたなんて……」


 アシュリーの転移魔法で集落の中心部に出たところ、完全に周りを虫に取り囲まれていた。

 向こう側が見えないくらいの密度で虫が浮遊している。


「えっと……とりあえずアシュリーの思いつく方法聞いてもいい?」


「……セスティ、ごめん」


 アシュリーは私から目を逸らして、小さな声でぼそりと呟いたかと思うと皆を連れてどこかへ転移した。


 私を置いて。


 ……えっ?


 もしかして……置いてかれた? 嘘でしょ?


 ブゥゥゥゥン……ブゥゥゥン……。


 ひとりぼっちで取り残された私はゆっくりと周りを見渡してみるけど、こちらの様子を伺ってる虫たちと目が合ってしまった。


 ハエみたいな形をしてるけど皮膚は硬そう。口の所から長細い管が伸びていて、その先っぽにギザギザの歯が見える。造形からして何か間違っているようなデザインね。


 このまま焼き尽くしちゃってもいいんだけど、ちょっと場所が悪い。本当に集落が燃えちゃいそう……。


 とりあえず一度私も撤退して作戦を考えてもう一度出直そう。


 そう決めて転移魔法を使ったんだけど……。


 ゴンッ!!


「いでっ!!」


 私は見えない壁に阻まれて、転移する事が出来なかった。


「……えっ?」


 これどういう事? アシュリーが言ってた方法って……もしかして虫ごと私を結界に閉じ込めて始末させるって事?


 私なら怪我しても治るから? 齧られても平気だから?


 マジで……?


 ブゥゥゥゥン……。


「うわわっ!」


 虫の数匹が私目掛けて突っ込んで来て、いくつかは叩き落したんだけどそのうちの一匹が私の手に噛みついた。


「……人差し指無くなったんだけど……」


 こいつ思ってたよりよっぽど危険じゃん。

 てか痛い。血が出るし……もう止まったけど。指も生えたけど。


 よく考えたらさ、結界に閉じ込められてるって事は魔法で焼き払っても大丈夫って事だよね?


 アシュリーは説明する時間が無かっただけで、私が一番この環境で戦うのに適してると思ったから置いて行ったんだ。


 ……そう思いたい。

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