姫魔王は奥さんを大事にしたい。


「セスティ……これは、さすがに説明してくれるんじゃろうな?」


「うちも……別に一人くらい増えるのは構わんけど、説明はしてほしいわ」


「ま、待て二人とも……これには深い事情があってだな」


 なんとかアシュリーを引き剥がそうとしてたんだが無理矢理引きはがしても転移して俺の隣に帰ってくるし、まさかぶん殴るわけにもいかないしほとほと困り果てていたらこれだよ。


 どっかに出掛けていたらしいめりにゃんとろぴねぇが俺達の背後から帰ってきた。


 んで、この状況である。


「セスティは私の事超絶美少女で可愛いって褒めてくれたんだ。お前らがうかうかしてたら横から掻っ攫っていくから覚えとけよ」


 アシュリーはどうやらこの二人にわざと見つかろうとしていたらしい。


 この騒ぎになったらあっさりと腕から離れて、二人に宣戦布告して研究室に帰っていった。



 むしろ、この状況で俺だけ残して帰らないでほしいんだけど……。



「ぐぬぬぬ……! なんじゃあやつは! それにセスティよ。妻を置いて他の女とお出かけとは随分ではないか」


 前半は怒っていたが、後半はどちらかというとしょんぼりしてしまったので俺はめりにゃんの頭を撫でてなだめる。


「勘違いするなよ。俺はめりにゃんの旦那だろ? もっとどっしり構えてていいぞ? 俺は浮気はしないからな」


 ……多分。


「うぬぅ……それがあまり信用ならぬのよなぁ……」

「確かに。まさに今あんな事になってたのによくそんな事言えるもんやで」


「ろぴねぇ、俺は別に……」


 本当に浮気なんてしない……つもりではあるんだよ!


 まさかアシュリーがあんな事になるなんて予想できるわけもないでしょうが!


「儂は別に他に女を作るななどと言うつもりはないのじゃ。その代わり、ちゃんと儂を優先してほしいのじゃよ……」


「ごめんごめん。今回はアレクも一緒だったんだから心配するような事はないって。奴は先に食堂に帰ってるからもし心配だったら聞いてみたらいい」


「うぬぬ……儂は旦那のいう事を裏取りしてまで詮索するほど野暮ではないのじゃ。セスティがそういうなら信じる事にするのじゃよ」



 うぅ……健気すぎる……。

 めりにゃんは俺の袖をぎゅっと摘まんで上目遣いで、瞳を潤ませながら言いたい事を飲み込んでいるようだった。


 悲しませたくはないなぁ。


「めりにゃん、これからは出来る限り嫌な思いさせないように気を付けるからな。今回の事は俺も想定外の事がいろいろあったんだ。王都にも仕事で行ってきたんだしさ。許してくれると助かる」


「セスティがそういうのなら……儂はいい妻にならなければならぬのう♪」


 よしよしっとめりにゃんの頭を撫でていると、ろぴねぇが笑いながらまた爆弾を投下してくる。


「セスっちの身体が完全な女になってしもたんやしこれでもう抜け駆けはできんなぁ。隙をついて既成事実でも作ってやろうと思ってたんやけど」


「おっ、お主……! そんな事を考えておったのか!? セスティ、お主はしばらくその身体でいいから! 戻らなくてもいいんじゃぞ!」


 いや、そのうち元に戻りたいよ俺は。


 ……といいつつ一度手元に戻った自分の身体を手放しちまったわけだけど……。


 複数の女性が俺を狙ってくるなんて、純粋な男として生きていたらこんなテンションの上がる状況はないんだけどなぁ……。


 今の俺は純粋に喜べないよ。


 生憎と今の俺にはアレがないだよ……。

 なんだか男としての尊厳とさよならした気分だがこれも仕方ない事だ。


 全部解決したらそれぞれ体と心をあるべき場所に戻してだな……。


 いや、ちょっと待てよ?


 メリーの身体を無事に取り戻したとして、メリーには人格があったじゃないか。


 そうすると俺とメアとロザリアの身体を用意しなきゃいけないわけで、一つたんねぇぞ。


 うぁ……これは早めにいろいろ考えておかなきゃいけない問題だな。

 万が一にもこれが解決しないまま、洗脳されてる本当のロザリアをどうにかしたとして、身体がたりません、じゃどうにもならん。


 それに俺達の身体の呪いに関してもどうにかしなきゃいけないから結果的にアルプトラウムとの闘いは避けられない。


 あいつのせいで世界が大変な事になったとしても、俺は自分の身体の為に戦うってあたりが不義理というか自己中心的っていうか……。


 こんな事悩んでもしょうがないし俺はやれることをやるしかないけど。


 まずは俺達の敵であるロザリア……今は便宜上メアと呼んでおくが、メアが再び活動を始める前に地盤を整えておく必要がある。


 今日ディレクシアに行った事でその第一歩は踏み出した。

 後は出来る限り俺達の国が世間に溶け込めるようにしていかないと。


 とりあえずある程度主要な街などには俺が国王として視察にいくべきだろうな。


 めりにゃんに対するサービスも含めて、あちこち二人で回ってくるか。


 丁度手を置きやすい場所に頭があるのでわしゃりと撫でつつ、微笑みかける。


「……ん? なんじゃ? なんで笑っておるんじゃ?」


 まったく可愛いやつめ。

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