姫魔王は夢を見ていたい。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! あっぶねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! おいアシュリー!! お前いったい何考えてんだ馬鹿野郎!!」
俺はあの時、慌ててアシュリーの身体に飛びついて転移魔法を使い、以前魔族達と戦った荒野まで移動していた。
一瞬遅れて放たれた魔法が、ちゅどーん! と視界の隅で轟音と爆炎をあげる。
アレがディレクシア王に向かっていたらと思うと……。
隣にアレクも居たし、王本人も強いらしいから死にはしないだろうが、王城は最低でも半壊していただろう。
「だって! だってだってあいつ私の事ちびっこって言った! お子様って言った!!」
こいつ背が小さいのを弄られるのが元々大嫌いだったけど、ちびっこだのお子様だのが特にダメ。
背が低い、じゃなく子供として見られることが大嫌いなのだ。
その上さっきは特に機嫌が悪かったから、ちょっとした事で爆発してしまったんだろう。
とんだ危険人物だよまったく……。
「わかったわかった。お前の事そんなふうに言うなんて酷い王様だな? でもな、いくらハーフエルフだからって、背が低いからって普通そんな子供と勘違いはされないぞ?」
「なっ! あんたまで……? あんたまで私を馬鹿にするの……? ふぇ……」
アシュリーが俺の言葉に顔面を崩壊させて涙と鼻水を垂れ流した。
きたねぇなぁ。
でも、こういうとこだけはほんとに純粋な子なのだ。
俺はよしよし、となだめるようにアシュリーを優しく抱きしめてその頭を撫でる。
鼻水を服につけるなよ? まぁその服はマリスなんだけどな。
「ばか、勘違いするなよ。普通は背が低いくらいでそこまで子供だとは思われないもんだ。でもアシュリーは子供だと思われた。なんでか分かるか?」
「ひっぐ……えぐ……ううん、わかんない……」
「背が低いっていうのも勘違いされる要因の一つだったとは思うけどな、それ以上に確定的な原因があるだろう?」
「ひっく……わかんないってば!」
「そりゃお前が可愛いからだ。そんだけ艶やかな髪、少し強気だけどとても綺麗な瞳、これでもかってくらい整った顔、これだけ要素が揃ってたら勘違いされたってしょうがないだろう?」
俺の腕の中で、次第にアシュリーの嗚咽が止まる。
ふぅ……やっとおとなしくなったか。
あんな風に暴れられたら俺はどう対処したらいいかわからんからな……。
ここにショコラでもいれば何とでもなるだろうが、さすがにあれを繰り返し続けるとアシュリーの自尊心がご臨終しちまうし。
今回のこのやり方もそう何度も通用する訳じゃないだろう。
そもそもこの方法は正解だったのか?
いろいろ不安しかない。
「ほんとに?」
「ん?」
「ほんとに私の事可愛いって思う?」
えっ、いや俺じゃなくてあのくらいの歳の爺からしたら可愛くて仕方ないだろうって話なんだけど……。
とてもそんな事を言えるような雰囲気じゃなかった。
「あ、あぁ。どう見たってアシュリーは超絶美少女だよ。もっと自信をもっていいぞ」
「ちょ……超絶美少女……」
「そうそう。誰が見たって間違いなく超絶美少女だから。な? だから何を言われたってしょうがないだろ?」
「そ、それもそうね? 少し大人げなかったかしら。じゃあ……もう一度行きましょうか」
……え、ここまで来たんだしお前は一度魔物フレンズ王国に帰れよ……。
「ほら、行くわよ?」
にっこりと笑いかけられ、俺はその手を握り返すしかなくなってしまう。
まぁ、今日はとことん付き合いますかね。
そして再び俺達は王の目の前へ。
「さっきはすまなかったわね! この超絶美少女天才大賢者様とあろう者が取り乱したわ♪」
「う、うむ……大賢者アシュリー殿とは知らず失礼をした。許してくれ」
チラリとアレクを見ると、俺の方を見ながら頷いていた。
きっとあの状況を理解した上で、俺達が居ない間に王にいろいろ説明と対処をお願いしてくれたのだろう。
本当に頼りになる奴だよアレク。
さすがうちの国の胃袋担当だ。
俺達はその後、ディレクシア王と今後の物流に関しての打ち合わせをしたり、万が一メアが魔族をけしかけてきた時の対処法などいろいろ取り決めて今日は解散となった。
魔物フレンズ王国を本格的に同盟国として周知する時期が来た。
そして、その初代国王が、あの魔王を退けたプリン・セスティだ、という事で受け入れやすくなっただろうとの事。
俺が生きていた、という情報も同時に拡散する事で、むしろお祝いムードを広げ、それに便乗する形で同盟国を周知する。
なかなか良く考えている。
人間が心配なのは魔物だろうが、それに関しては俺が責任をもって管理するっていう話になった。
管理っていう言い方は気に入らないが、人々に納得してもらうにはその方がいいだろう。残念ながら。
こうして、勿論賛否はあるものの、魔物フレンズ王国は世界に認知された。
人間と魔物が共に歩むための第一歩としては充分だろう。
まさか本当にこんな日がくるなんてなぁ。
ちょっと夢みたいだ。
王国へ帰るやいなや周りに見せつけるかのようにアシュリーが俺の腕に絡みついてきた。
「えへへ……超絶美少女……うふふ……」
まさかこんな日がくるなんてなぁ。
……夢であってほしいんだが。
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