姫魔王とキレの良い大賢者。
「ちょっと……な、なんとか言いなさいよ……」
いや、この状況で俺に何を言えと……。
アシュリーはまだ俺の胸元あたりに跨って覆いかぶさってるような状態だ。
幸いな事に人通りが少ない裏路地だから人目に付かずに済んでるけれど……。
ど、どうしたらいい?
そろそろどいてくれ、は失礼だろうか?
えっと、重いよ。は絶対ダメだし……えっと、えっと……。
「あ、アシュリー……」
「……なに?」
あっれー。アシュリーってこんな積極的な奴だったか??
俺の上に覆いかぶさってる状態のアシュリーの顔が再び少しずつ近付いてくる。
ダメだダメだ!
さっきみたいな不意打ちならともかくこんな堂々と受け入れる訳には……!
アシュリーの吐息が聞こえるくらい、その顔が俺に近付いた時。
「お二人とも! 今どこにおられますか? 王の準備が整いましたのですぐに王城へ来て下さい!」
通信機からアレクの声が響いた。
俺はすぐに通信機を手に取り、自然な流れでアシュリーを身体から降ろし、返事をする。
「おう分かった。謁見の間前まで直接いくので大丈夫か?」
「はい。それでお願いします。ではお待ちしておりますので!」
……ふぅ。助かった……。
「と、いう訳だから城へ行くぞアシュリー」
「……何が、という訳だから、よ。アレクの奴いいとこで邪魔しやがって……」
鬼のような形相をして殺意をまき散らしているアシュリーの顔に気付いていないふりをしながら、転移魔法を使う。
転移魔法の使い方はある程度俺も理解したけど、この身体に戻ってからやっぱりちょっと座標がズレる事がある。
メアの記憶が俺をサポートしてくれていたのは間違いないだろう。
……しかし、今回はうまくいったようだ。
目の前には謁見の間へ通じる大きな門。
「お待ちしておりました。二人とも中へ」
俺達を迎えてくれたのはアレクじゃなくてテロア。
謁見の間に入ると、以前来た時と同じ広い部屋、豪華な調度品、一際目立つ王座。
そして、顔色の悪いげっそりした王様。
「……ディレクシア王? まだ具合が悪そうに見えるんだが……」
「あぁ、ちょっと無理をしてもらっているので……ですが情報交換は必要ですからお気になさらず」
王の代わりに、隣に立っていたアレクが説明してくれた。
「じゃあ遠慮なく、一応前に話はした事あるけどこの状態では初めてだよな。俺はプリン・セスティ……魔物フレンズ王国で今は魔王やってる」
「お、おぉ……あの時の魔王はセスティ殿であったのか……。そして、その姿は……確か城に訪れた時のセスティ殿……いったい何がどうなっているのだ?」
王がプルプルしながら疑問を口にした。
本当に大丈夫かこの人……今にも死にそうな爺みたいになってるぞ……。
俺は自分が魔王の身体に入っていた事、記憶を無くしていた事、そしてメア……王にはロザリアと説明したが、ロザリアが俺の身体に入って記憶をなくし王都へ来ていた事、今は俺が元々使っていた体に入っている事などを順序だてて解説した。
我ながらややこしい。
だって本当はロザリアじゃなくてメアだし、今の現状メアは本来の姿に戻った訳だけどそれは本当は俺の身体で……。
メアじゃなくてロザリアと説明してしまう場合今俺が使ってる体がロザリアの物だから、ロザリアは自分の体に戻って記憶をなくし旅をしてた事になる。
俺はメアに改造されてはいるが自分の身体に戻っていたわけで……。
だったらなんでその身体を再び入れ替えたのかって問題になっちゃうんだけど、それは頼むから誰も突っ込まないでくれ。
もし聞かれても俺が今の身体が気に入っててこっちがいいとゴネた事にするしかないのだ。
それはそれで問題があるんだよ。
この身体が気に入ってるってかなり変態に聞こえてしまう。
「いろいろあったけれどそういう訳だから、俺がセスティで魔王だ。以前来た時の記憶もある。細かい事は気にしないでくれ」
「そ、そうか……よく分からぬ点もあるが……納得しておく事にしよう。それと、新たにアーティファクトの身体を得たメアリー・ルーナが……魔物の国を襲撃、撃退した事はアレクより聞いたよ」
「撃退って言ったって完全に逃げられたから今はどこでどうしてるか分からないんだけどな」
あれからずっとおとなしいのは気になる。
特に何もしてこないのが逆に気持ち悪い。
「その時のダメージを修復する為に今は大人しくしているのであろう……それより、ずっと気になっている事があるのだが……」
そこでディレクシア王は、言ってはいけない事を言ってしまった。
「そこのちびっ子は誰だ?」
「……私は今、とても機嫌が悪いんだが」
「あ、あのな王様、こいつは……」
「いやぁ可愛らしいお子様だね。特別に私が好きな飴を分けてあげよう」
「お、おいアシュリー落ち着け!」
アシュリーは鬼のような形相をぴたっとやめて、「うふふ」と気色悪い声をあげた。
彼女は、にっこりと
満面の笑みで静かに手に持った杖を振り上げ、
「ぶっころ♪」
膨大な魔力を杖の先に集中し、解き放った。
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