姫魔王は妻の純心を守りたい。

 数日後、俺はめりにゃんを連れてあちこちを回る事にした……のだが。


「んでまずはどこ行くん?」


「……なんでお主まで来るんじゃ。呼んどらんぞ」


 うーん。今回は家族サービスのつもりでめりにゃんと二人のお出かけだった筈なんだけどなぁ。


「なんや楽しそうな事しようとしてるやろ? うち分かるで! そんなんのけ者にしようったってそうはいかん。無理矢理にでも付いてったるからな」


「はぁ……まぁいいのじゃ。じゃが勘違いするでないぞ? お主はあくまでも愛人一号じゃぞ?」


「わかっとるって正妻様♪」


 なんだこれ。

 俺がモテ期をこじらせている。


 そもそもめりにゃんはどうして愛人を受け入れてるの? 魔物の認識ってそういうもんなの?


「なぁ、聞きたいんだけど前の魔王って愛人とかいたわけ?」


「儂の前の魔王って意味かのう? 父は……そうじゃなぁ、愛人が一〇八人おった」


 ……あー。俺の知ってる常識と違うやつだ。

 だからめりにゃんは相手が増えるのは構わないって言ってたのか……。

 親がそういう魔王だったなら小さい頃からそれが当たり前みたいになってるもんなぁ。


「じゃあうちは愛人一号でおっけーやで♪」


 そう言いながらろぴねぇが俺にひっついてきて胸をわざとらしく押し付けてくる。


「一緒に風呂にも入った仲なんやし仲良くしてな?」


 お、おいその話は……。


「なん……じゃと……?」


「いや、めりにゃん聞いてくれ! それは俺が記憶なくして自分を女だと思ってた時の事だから!」


「一緒に風呂に入ったんじゃな」


「だからそれは……」


「入ったんじゃな?」


「……はい」


「ぶぇぇぇ……」


 めりにゃんが急にだらしなく顔の筋肉を崩壊させて涙を噴き出した。


「め、めりにゃん! だからあれは違うんだって!」


「一緒に入ったのはほんとやろ? 何を今さら」


「ろぴねぇ黙っててお願いだから!」


 これ以上話をややこしくしないでくれ。


「儂だってそんな事してないのに……ずるい……ずるいのじゃぁぁぁぁ」


「わ、わかった! わかったから! 今度一緒に入ろう! な? それでいいだろう?」


「……うむ」


 なんとか泣き止んでくれたが、俺は勢いでとんでもない約束をしてしまったような気がする。


 というかめりにゃんはそれでいいんですか?



「じゃあ三人で一緒に入るのもありやね♪」


「お主は一度入っておるんじゃろうが! 自重せい!」


「え? 一回だけじゃないけど……?」


「ぶえぇぇぇぇ……」


 お前らいい加減にしろマジで!!

 全然話が進まないんだけど……。



 めりにゃんが落ち着くのに小一時間ほどかかり、やっと出発する準備が整った。


「んー。やっぱりうちはええわ。今回はめりにゃんに譲ったる」


「……なんじゃ? 儂に気を使っておるのか?」


「うちの方がこの国で一緒に居た時間がある分めりにゃんがした事ない事もしてるやろ? だからこれは穴埋めや。本妻が愛人より先にいかんでどうする?」


「お、おぬし……」


 ちょっと、勝手に話を進めないでくれませんか? 本妻とか愛人とか、わりと不穏な話してる気がするんだけど。


「だからさ、二人で出かけてくる間にいろいろかましてきいや」


「わかったのじゃ! ロピア! お前という奴は……本当はいい奴だったんじゃのう……」


「や、やめてや、照れるやんか」


 めりにゃんがろぴねぇの手をぎゅっと握って感謝を告げる。


 しかし、この道中で俺はめりにゃんになにされるの? ちょっと怖い。


 何が怖いって勢いでこっちが変な事しないかが怖い。


 ついてない体になってて良かった。


 ちょっともったいない気もしてるあたり俺はダメなんだろうなぁ。


 めりにゃんの人生に責任をもつ覚悟はしたくせに、めりにゃんと一線を越える覚悟はしてないって……彼女に対して失礼な気はする。


 めりにゃんがそこまで気にしてないから救われてるけれど。




 ……彼女は俺の顔を見て「二人だけのおでかけじゃな♪」とにっこり。


 意外と気にしてるんだろうか?

 すまんが今の俺じゃ応えられる事と応えられない事があるんだ許してくれ。


「じゃあろぴねぇには悪いけど二人で行ってくるよ」


「まぁ気にせんと楽しんできたらえぇよ」


「ロピア……お前は必ずセスティの愛人一号にしてやるからな」


 なぁめりにゃんさんや、そういう大事な事を約束する時は相手の了承を得てからにして下さいよ。


「そっかそっか♪ じゃあうちは期待してまっとるで。セスっちも出来れば早めに下生やしてきてな」


「下? 生やす?」


「めりにゃん、ろぴねぇの言う事を真面目に考えなくてもいいから」


 できればめりにゃんは純粋なままで居てほしいもんだ。

 というか今の会話の流れで分からないもんかね?


「なんでじゃ? なんの事じゃ! 儂にも教えるのじゃっ!!」


「めりにゃんにはまだ早い! ろぴねぇも変な事を吹き込むんじゃない!」


「はーい。じゃあその事についてはまた後で二人の時に教えるわ」


「うむ! よろしく頼むのじゃ!」


 頼むな頼むなそんなもん。


 めりにゃんだってある程度分かるはずだけど……なんの事を言っているのかを理解してないだけだろう。


 ……だよね?

 さすがにそっちの知識ゼロとかはないよね?

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