現魔王×元魔王=真魔王。
「それで? 帰ってきたはいいがこれからどうするつもりだ。アンタがこの国の王なんだぞ?」
腕組みしながらアシュリーが目を細めて言う。
問題はそこだ。
今頃他の連中や魔物のみんなもこの城を目指して帰還中だろうし、これから俺はいろいろ説明しなきゃいけない。
俺の事、この国の今後の事。
「めりにゃんは魔王に戻る気はないって言ってたよな?」
「むっ? ……確かに、そうは言ったが……」
正体が俺だと分かったからかめりにゃんも迷っているようだ。
だったら……もう一つの選択肢を提案してみようか。
断られたら俺が困る。
「めりにゃん。俺達二人で魔王やらないか?」
「へっ?」
めりにゃんはこの国の民にも信頼が厚い。
俺の変化に反感を持つような奴等も、彼女が一緒に居てくれたら多分大丈夫だ。
前魔王と現魔王、二人揃えばこの国はもっと豊かになる。
きっとめりにゃんも分って……って、あれ?
「ふ、二人で……魔王……」
めりにゃんは俯いて顔を真っ赤にしながら俺の指先を摘まんだ。
ん? ……ん??
俺は嫌な予感がして周りを見渡すと、機嫌が悪そうなショコラを筆頭に、俺を見る目が冷たい。
え、なんで? どうしてそうなる?
「こ、こんな人前でプロポーズされるのはさすがに恥ずかしいのじゃ……ばか」
そう言いながらめりにゃんが俺の胸にもたれかかってくる。
ちょっと待て。ちが、これは……!
しかし、俺に身体を預けて上目遣いで瞳をうるうるさせている彼女に、俺がこれ以上何を言えるだろうか?
しかし、ここで言っておかないと流石にもう引き返せないところまで話が進行してしまう気がするのだ。
「あ、あのな、めりにゃん」
「ふ、ふつつかものじゃが……よろしく、なのじゃ」
「い、いや……そうじゃなくんむっ!?」
俺の反論は途中で潰された。
正確に言えば塞がれてしまった。口で。
「ぷはぁっ……め、めりにゃん!?」
突然めりにゃんがつま先立ちして俺の頭に腕を回し、ぐいっと引き寄せキスをしたのだ。
「……式は、いつにする?」
めりにゃんはつま先立ちをやめ、俺の胸元に顔を埋めながら背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。
……俺はどうしたらいいか分からずアシュリーに助けを求めようとしたものの、目があった瞬間に「しっしっ」と雑に手を振られた。
ショコラを見れば「良かったね」と感情のこもってない声。
ナーリアならと思えば、いつからか彼女のそばに現れたステラと抱き合っていて、二人して俺とめりにゃんを見つめ恍惚の表情。
もう俺には君らが分かりません。
ロザリアは……。
にっこり笑いながらパチパチと手をたたきだした。
あの女は俺が困っているのを見てほくそ笑んでいる。
この国に連れてきたのは間違いでしたか? もう少し同じ顔した者同士協力しませんかね?
俺の無言の訴えに気付いたのか、ニヤァっと悪意のこもった笑顔を向けられた。
この世に悪という存在が居るというのであれば、それはきっとあの魔族王などではなく、きっとこういう種類の人間だと思う。
……いや、さすがにそれは言いすぎか。
こいつとアルプトラウムのどちらが悪か聞かれたら間違いなくあの野郎だろうし。
今のこいつには小悪魔という表現がちょうどいい。
ロザリアの拍手を切っ掛けにしてそれぞれ皆がつられて拍手をしてくる。やめろ、違うだろ!
よく見たら少し離れたところで親父まで涙を流しながら拍手してやがる。
「も、もしかして……嫌じゃったか? 儂……早とちりしてしもうたのか……?」
めりにゃんが、俺の様子がおかしいと気付き自分からそう言ってくれた。
そうなんだよ。分かってくれて助かった。
……って言えるわけねぇだろ。そんなに最低男になった覚えは無い。
「めりにゃん……き、き……」
「き……?」
「清い交際からお願いしますっ!!」
一瞬にして拍手が止まり、皆の冷たい視線が突き刺さる中……。
「相変わらず奥手じゃのう……まぁ、そういう所も好きじゃけどな」
めりにゃんがぴょんっとジャンプして俺に飛びついてきたので慌てて受け止めると、ちょうどお姫様だっこ状態になった。
両手の塞がった俺にもう一度キスをする。
これは本格的にもう逃げ場がなくなってしまった感がある。
しかし、よく考えてみれば嫌がる理由がどこにある?
めりにゃんは可愛い。
でも俺は保護者のつもりで居たんだ。
いわば、娘に手を出しているようなもの。それはちょっとまずいんじゃないの?
いや、でも出会った当時のめりにゃんはさすがにアレだったけど今は本来の姿を取り戻し、力も戻ってそれこそ魔王として相応しい実力者……立派な大人だ。
……なら問題ないのでは?
えぇい。もうどうにでもなれ!
「こ、こんな体でも良ければ……」
「……はいっ♪ 嬉しい。嬉しいのじゃ」
泣きながら笑うめりにゃんのその笑顔はとても可愛らしく、愛おしい。
……のだが、本当にこれで良かったのだろうか?
勢いでとんでも無い事になってしまったのでは……?
「儂等はこれからも……」
めりにゃんを抱き上げている俺の手にそっと掌を乗せ、何か続く言葉を待っている。
それに続く言葉は分かっていた。もう迷っていても仕方がない。俺も大事な物を守る為に覚悟を決めよう。
「ああ、俺達はこれからも二人で一人だ」
「……ふふっ。儂等は二人で一人の魔王、じゃな♪」
眩しい笑顔の彼女に、今度は覚悟の証として、俺の方からその小さく柔らかい唇を塞いだ。
そんな俺達を見てロザリアが再び拍手をし、心底楽しそうな声でこう言った。
「おめでとう。これで改めて、新たな魔王と魔王妃の誕生ね☆」
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