姫の帰還。


「ひっ、姫っ! ひめぇぇぇぇっ!!」


「ぶわっ!! ちょっとなんなの!? 貴女の探してる姫はこっちじゃないわよ!!」


 ロザリアを説得し、俺達は城に帰ってきたのだが……。

 一歩城内に入った所で弾丸のように突っ込んできたナーリアに抱き着かれてロザリアが喚き散らしつつ地面を転がっていった。


「へっ? でも姫が帰ってきたって……」


「おう。久しぶりだなナーリア。お前はなんていうか……相変わらずで安心したよ」


「めっ、メア!? 嘘でしょう!?」


 ナーリアがロザリアに抱き着いたまま俺とロザリアに視線を行ったり来たりさせて口をあんぐりさせた。


「それがよ、俺も驚いた事にこっちだったんだわ。っつー訳でこれからもよろしくなナーリアちゃん?」


「……ッ!! ちょっ……えぇ……?」


 ナーリアはどう反応していいか分からず無意識に腕に力が入ったらしく、押し倒されたままのロザリアが苦しそうだ。


「わ、分かったんなら離しなさい……! 殺すわよ!?」


「ご、ごめんなさい! えっと、ロザリア……でしたね。すいませんでした」


「分かればいいのよ分れば……。ほんとキャンディママのハグとは大違いね……」


「何か言いましたか?」


「な、なんでもないわよ!」


 この調子ならロザリアもうまくやっていけるだろう。

 自分を偽っているツケがいつか回ってこない事を祈るばかりである。


「おぉ、お嬢ちゃんたち。頑張ったからおじさんにもハグさせてくれよ」


 ……出やがったな。


 見たところ大きな怪我とかはなさそうなのにやたらとよろよろしながら親父が近付いてくる。


「あーおじさんお疲れ様。ハグしたければどーぞ♪」


「えっ? そんな素直な反応されると困っちゃうけれどおじさん据え膳はちゃんと食べる主義だよ?」


 そう言いながらセクハラ親父が俺の身体に手を回そうとしてきたので一言告げてやる。


「久しぶりだな糞親父。俺はプリン・セスティだがそれでもハグしたいか?」


「……」


 親父が目を真ん丸にして慌てて周りをきょろきょろ見渡し始めた。誰かに説明を求めているらしい。


「そういう事だから、今後ともよろしく頼むぜ」


「じ、冗談……だろ……? おいそっちのお嬢ちゃん! プリンもここに居るって言ってたのはまさかこういう事だったのか!?」


「ええそうよ? 嘘は言ってないでしょう?」


「な、なんてこった……」


 急に全身の力が抜けてしまったように親父がその場にぐしゃりと潰れた。


 さて親父の事はほっといていいとして、魔物連中にどう説明すっかなぁ……。


 前途多難というか個人的にすっげー話し辛い。


 特にろぴねぇだよなぁ。

 だって女同士だと思って仲良くしてくれてたのにそれが中身男でしたなんてなったら普通嫌だろ……。


 あ、そういえば風呂にも入ったな。

 俺大丈夫かな……。


「セスティ!」


「お、おぉめりにゃん。どうだ? ちゃんと帰ってきただろ?」


 これ以上この子を悲しませないようにしないとなぁ。

 俺はこの子の保護者みたいなもんなんだからさ。


「遅いのじゃっ! でも……ちゃんと帰ってきたから……ゆ、ゆるしてやらんでもないのじゃ……」


 そう言いながら服の裾を掴んできたので頭を撫でてやる。

 本来の姿を取り戻しためりにゃんをこうやってしっかり見る機会はなかなか無かった。


 長く綺麗な黒髪は相変わらずだが、頭の角は少し大きく、心なしか以前見た時よりも羽根が大きくなっているような気がする。

 尻尾は相変わらずぴこぴこ動いててめっちゃ可愛い。


「よしよし。大丈夫だよ。さっきも言っただろ? もうどこにもいかないから」


「むーっ! おぬし儂を子ども扱いしとるじゃろ?」


 答えの代わりに、頭をわしゃわしゃと撫で続けると、むくれてはいたものの満足そうな表情だったのでまぁいいだろう。


「ほんとややこしい事になってたみたいね……ちゃんと説明しなさいよ?」


 今度はアシュリーか。


「説明って言ったってよ……」


 俺は遠目にこちらを見ていたショコラも呼び、その場に居た以前の仲間達……デュクシ以外の皆に今までの経緯を説明した。


 デュクシが運天を使ったあと、魔王メアの身体をロザリアがぶち破った事や、その後アルプトラウムと戦った事。


 ……あれは戦いなんて呼べる代物じゃなかったが。

 俺はまったく歯が立たなかった。


 とにかく、メディファスが壊れ、俺はアルプトラウムに何かされて意識を失って……気が付いたら記憶を無くして魔王城に居た。

 魔王メアの身体で。


 ロザリアはそれを複雑そうな表情で聞いていたが、やがて自らも口を開く。


「私もそうね。あの戦いの後気が付いたらニポポンで倒れてたのよ。壊れたメディファスと一緒にね」


 彼女は自分が持っていた身分証を頼りに、ニポポンで協力者を見つけて自分の正体を探った。

 そして道中、ショコラと合流し、メディファスを直す事が記憶の回復に繋がると分かってニーラク近くの遺跡でメディファスを修復した……。

 ここでメディファスの中からメイディ・ファウストという神が現れたのだそうだ。


 そして……記憶が戻って初めて彼女は自分がプリン・セスティじゃないと知る。


 俺はさっきの魔族王戦中にメディファスに記憶の封印を解いてもらった事も説明した。


 俺達の話を聞いて驚いていたのはめりにゃんだけだった。


 ナーリアは、説明してもよく分かってないみたいで驚く以前に頭にはてなが浮かんでいた。


 アシュリーは「そんな事だろうとは思ったけれど」とか言ってるし、

 ショコラは「私は全部気付いてた」と呟く。


「むーっ!」


 むくれながら袖を引っ張るめりにゃんは、なんていうのかな……ちょっとキュンとくるものがある。


 保護者として、あくまで保護者としてな!!

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