お姫様は思い切り楽しみたい。


 とりあえずごちゃごちゃ言ってた魔族が私に飛び掛かってきたのをひょいっとかわして距離を取る。


 どうやってこいつらをぶっ殺してやろうかしら。


 ここはローゼリアに張られた結界の外だからどれだけ暴れても問題は無いんだけれど、ゆくゆくはこの辺りも開拓して田畑を作る事を考えるとあまり土壌にダメージが残るような戦い方はしない方がいいだろう。


 そんな事を考えている間にも数匹の魔族が私に向かって攻撃を仕掛けてくるのが鬱陶しい。


 別に一匹ずつ殴り殺してもいいんだけど、そういうスマートじゃないやり方は私らしくないというか、もう少し楽しみたいというのが本音だった。


 現魔王、元魔王、大賢者達のグロテスクな闘いを見せられて私も自分の中から沸き上がるなんとも言えない衝動に身を委ねたくなってしまったのだ。


「どうした? 避けるだけで精一杯か? そんなものでよく全員まとめてなんて言えたもんだな」


「うーん。どうやってぶっ殺そうか考えてただけなんだけど」


「口だけなら何とでも言える!」


 確かにその通りだ。

 口だけなら何とでも言える。


「口だけならば私に生意気な事を言っても大丈夫って思ってるのかしら? ならまずはその騒がしい口を無くしてみましょう」


 この魔族のメイン武器は肘から伸びている角のような形の刃。

 切るというよりは突く攻撃がメインのようなのでその自信を砕いてあげよう。


 肘をこちらに向け、その刃で貫こうと突進してくる魔族の攻撃を私は指一本で受け止めてあげた。


「なんだと!?」


「何を驚いてるのかしら?」


 そんな物理攻撃のみに頼った戦い方が私に通用するはずないじゃない。


「なるほど防御には自信ありという事か! それならばひたすら一点のみを攻め続け、その自慢の障壁に穴を開けてやろう!」


 別に障壁なんて張ってないんだけど。

 指先の一点にのみ魔力を集中させて弾いてるだけなんだけどなぁ。


「ほんと、口だけならなんとでも言えるわね」


 ちょっと笑いがこみあげてしまった。


「笑って居られるのも今のうちだぞ! 俺の骨刃はそのような防御壁など……!」


 それ骨刃って言うんだ? 肘から骨で出来た刃が出てるって所かな?


「受けてみろ! 俺の必殺……」


「うるさいって」


 私は喧しい魔族の背後に転移すると、腕をそいつの顔に回し、口を塞ぐ。


「なっ、貴様何をしもがががっ!!」


 もがもが言いながら魔族が暴れたのでひょいっと後ろへ下がる。


「うふふふ……どうしたのかしら? さぁ先ほどまでみたいに口で何とでも言ってみなさいよ」


「もがーっ! もががっ!! むぐぅ!?」


「びっくりした? ねぇびっくりした?? 貴方もう、口なんてついてないわよ?」


「むぐぁっ!?」


 何をしたのか、それはとても単純で、私はあいつの口を塞いであげたのだ。

 その口元に触れ、その周辺の造形を作り替えて口そのものを塞いであげた。


「鼻はついてるみたいだから呼吸はできるでしょう? 私ったら優しいわよね。……ね?」


「も、もが……っ」


 明らかに戦意を失ってしまっている。

 私を見る目が恐怖に歪む。


「あぁ……いいわね。貴方とてもいいわ。別に貴方一匹殺してもこちらとしては大して意味があるとも思えないし……このまま見逃してあげましょうか?」


「も、もがっ! もがっ!」


 必死に首を縦に振っちゃってかわいい♪


「でもよく考えたら見逃してあげる意味もないのよね」


「も、もが……」


 恐怖に歪んだ瞳が、更なる絶望に落とされていく様子に全身が震える。


「最っ高。 たまんないわこの感覚……ほら、逃げたければどうぞ、逃げてごらんなさい」


 周りの魔族は手を出さずに、私とこいつの結末がどうなるかを見守っている。


 単なる興味本位か、それとも恐怖からか……。


 どっちでもいいんだけれど、邪魔してこないのは偉いわ。


「もっ、ぼがぁっ!!」


 口無し魔族は意外にも私に突進してきた。

 再びあの骨刃を向けて。


「あらあら。まだ楽しませてくれるの?」


 再び指一本でそれを受け止めると、魔族は小さく唸り声をあげながら、私に膝蹴りを入れてきた。


 本当につまらない奴。

 そう思った。


 だが、今回私の見立ては間違っていたらしい。

 仮にも魔族。

 隠し玉の一つや二つ持っていても当然だった。


 私に向けられた膝から、物凄い勢いで第二の骨刃が伸び、私の顔面へ……。


「むぐっ!? もががっ!!」


「あなは……おもっへいはよりたのひまへてくれるはね……」


 うーしゃべりにくい。

 膝から伸びた骨刃は思ったより長く、私の顔面を正確に捉えていたのでつい歯で噛むことで受け止めてしまったのだ。


 えいっ。

 ばぎごりっ!


 バリボリ……ごくん。


「まっず」


「……もがっ……むぐぁぁぁぁぁっ!!」


 今度こそそいつの表情が完全に絶望に染まり、私の前から逃げ出した。

 空を飛んで逃げていく。

 すかさず風魔法をその背中へぶち込む。


 着弾直前で少しだけ軌道を操作して羽根だけを切り落とし、落下地点までスキップしながら向かった。


「~♪~♪」


 鼻歌を歌いながらぴょんぴょんとそいつの落下を待ち受け、両手を広げて受け止めてあげた。


「もがっ! もががっ!!」


「ちょっと何言ってるか分からないわ。せっかく熱い抱擁をしてあげたっていうのに。ほら、これでもう喋れるでしょう?」


 私はもう一度口を作り直してあげた。


「た、たすけて……」


「あぁ素敵。その絶望に歪む顔、震えた声。とてもいいわ……じゃあ貴方は助けてあげましょう。本当に生きていたいと思えたらね?」


 そう告げて私はそいつの右腕を三枚におろした。

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