お姫様と魔族達。


 ……どうやら敵さんが本気で狙っていたのは城らしい。


 勿論沢山の飛行系魔物がわらわらと向かってくるが、その中に気持ち悪い姿の魔族が大量に混ざっているのが見えた。


「おいおい……冗談だろ……? おじさんだってそれなりに強いけれど前線に居る奴等ほどじゃないからな!?」


 確かに数で押し切られるといろいろ面倒だなぁ。


 それなら当初の予定通り動くしかないか。


「おじさん、城の中で避難してるのと魔物共と戦うのどっちがいい?」


「おいおい……随分意地の悪い質問する嬢ちゃんだぜ……親らしい所見せろって言ったばかりだろうよ」


 そう言っておじさんが剣を取る。


 そっか。それなら父親の意地ってやつを見せてもらおう。


「城から少し離れて。結界を張るから」


「ん? お、おう……」


 おじさんが城の入り口から少し離れたのを確認し、城全体に強力な結界を張る。


「これで万が一があっても城の中は無事よ。酸素があるうちはね」


「あっれ……これってもしかして中に居た方が良かったのかな」


「こら! 戦うって決めたなら覚悟決めろ! 父親らしいところ見せるんでしょ? がんばんなさい。力を貸してあげるから」


 私は可能な限り、思いつく限りの戦力増強系の魔法をおじさんにかけてあげた。


 体力アップ、腕力アップ、自動回復、剣には耐久力アップと私の魔力を付与。そしてついでに飛行も出来るように。


「うおぉぉぉ……なんだこりゃぁぁぁ!! おじさんも昔は魔法使いの仲間が居て、バフっていうの? こういうのかけてもらった事あったけど……こりゃあそんなチャチなもんとは違うのが分かるぜ……」


「これで死ぬまで戦ってね♪ 飛行は慣れないと危ないけど、戦いながら自分で感覚掴んで。手練れの戦士だったならそれくらい出来るでしょ」


 おじさんはおそるおそる自分の身体を宙に浮かせはじめた。


「お、やっぱり筋がいいね。それならすぐに出来るようになるよ。あと……言い忘れたけどこれ相当体に無茶がかかってるから、効果が切れた時死ぬほど体痛いと思うけどいいよね」


「お、おい……それは最初に言わなきゃダメな奴じゃないのか?」


「大丈夫。父親の意地ってのに期待してるから。ある意味で私の父親みたいなもんなんだからさ。頑張ってよ」


「そりゃどういう……?」


「キャンディママが私のママだってことだよ」


「なんだと!? あいつ俺の知らないところでお嬢ちゃんみたいな子供を……!? いつだ!? おい!」


「煩いなぁ。その辺もいつか説明してあげるよ。機会があったらね。それより、そろそろ戦闘開始だよ?」


 おじさんは面白いくらい顔を青くしたり赤くしたり忙しい感じになりながら、覚悟を決めたように魔物の群れを睨む。


「この戦いが終わったら、いろいろ説明してもらうからな!」


「はいはい。少なくとも心配してるような事じゃないから大丈夫だよ」


「そ、そうか! それだけ分かれば十分だ。よっしゃおじさん頑張っちゃうからね!」


 これでおじさんは効果が切れるまで……大体二時間くらいはもつかな? それまでは一騎当千の戦士として活躍してくれるだろう。


「おじさんさ、この魔物達全部相手に出来る?」


「えっ、これ全部??」


「魔族は全部私が相手するからさ、この雑魚の群れを全部相手に出来るかって話」


 おじさんは額に汗を浮かばせながらも、期待した通りの返事をくれた。


「や、やってやるさ。今の俺ならどんな奴が相手でも、どれだけの数が相手でも負ける気がしないぜ!」


「よしよし。じゃああとは任せるよ? 私ここの魔族ども連れてちょっと離れた場所で戦ってくるから」


「よく分からんが承知した! この城の警備はおじさんに任せろ!」


 いや、たとえおじさんが死んだってこの城は大丈夫なんだけどね。

 私が死なない限りは守り続けられるはず。


「おっけー。じゃあ後は宜しく」


 私は、こちらに向かってくる魔族、魔物の群れのすぐ目の前に転移。


「うおっ! 急に目の前に出てきやがって……お前が俺の相手してくれるって言うのか?」


 どこに口が付いてるのか分からないような造形の魔族がそんな事をのたまう。


「違うって」


「……なんだ。戦うんじゃねぇなら許して下さいって詫びでも入れにきたのか? それで生きて帰れると……」


「馬鹿なの? 私はお前を相手にするんじゃなくてお前らを相手にしてやるって言ってるんだ」


「な、何をふざけた事を……な、なんだこれはっ!?」


 目の前の魔族がごちゃごちゃ言ってるうちに私は大群の中から強力な魔力を持つ者達をピックアップして強制的に転移させた。


 ローザリアの東、ここはまだ開拓が進んでいないから多少大暴れしても大丈夫。


 えーっと、敵の数はっと……。


「おいお前ら動くなよ数えにくいだろ」


 状況が把握できずうろうろする小物も混ざってるなぁ。

 これならおじさんの所に置いて来てもよかったかもだけど、まあついでだからいっちょ揉んでやろう。


 数は……大体三十五から四十って所かな?

 よくもまぁこれだけの魔族を連れてきたものだ。


 しかも相当強力なのも数匹混ざってるな。

 あれ、でもさっきの奴居ないや。あんな事言ってたくせに魔族の中では相当弱かったみたい。おじさんに任せよう。


「お前一人で俺達全員を相手にするつもりか? ふざけるなよ」


 そう言ってきたのはツルッとした皮膚で人形の魔族。


「おーおー。小物はよく吠える。貴様らこそよくもそんな人数で私を倒せると思ったもんだな。纏めてかかってこい。貴様ら全員薄汚い地獄の海に沈めてやるわ」


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