お姫様とおじさんの正体。


「……すげぇな」


 おじさんがボソリと呟く。

 私の耳元で。


「もっと離れてよほんとにぶっ殺すよ!」


「すまんすまん。そんなに怒るなよカルシウム足りてるか? いや、足りてねぇからその胸……お、おい本気にするな謝るからっ!」


 私の本気の殺意に気付いたのかおじさんはそれ以上言うのを辞めた。


 でも確かにあの二人は凄い。


 犬猿の仲みたいに見えるのに一度共闘を始めたらお互いの事を良く知っているかのように動く。


 一人が大技を繰り出せばそのカバーに自然に入り、一人が囲まれれば自然とその背後に居る魔物を切り伏せる。


 そして、自分の背後にいる魔物は相手が倒してくれると分かっているかのような……。


 お互いの実力を認めているからこその振舞いだろう。


 たまにサクラコさんがどさくさに紛れて切りかかり、アレクが脂汗をかいている様子も見れたが、中央に待機している防衛隊もその戦いに見とれていた。


 しかし、多勢に無勢というのは有る物で、二人の所へ近寄らず、遠回りをして国内に入ろうとしてくる魔物も多い。


 そこでやっと防衛隊、魔物フレンズ王国の民たちの戦いが始まる。


 下級な魔物達の戦力は敵とほぼ同等なのか、倒したり倒されたり。

 だけど幹部の人達はさすがに強い。


 あんな雑魚魔物達では相手にならなかった。


 それがぐるりと円を描くように防衛ラインを築いているのだからそう簡単には切り崩す事はできないだろう。


 どこかに強力な魔族が現れてもすぐにサクラコさんとアレクがそれを見つけ撃退に入る。


 あの二人の連携に敵うような魔族はそういないだろう。


「この調子なら体力が続く限りは大丈夫そうね」


「いやいや、その体力が問題なんじゃないか? おじさんだったら三十分もしたらへとへとだよ」


 三十分は戦えるのか。

 このおじさんって結局何者なんだろう?


 私の訝し気な視線に気付いたのか、おじさんが自分の事を少しだけ語り出した。余計な言葉も含めてだが。


「そんなにおじさんの事が気になるのかい? だったら今夜部屋でたっぷりと可愛がって……うそうそごめん睨むなって。……おじさんはね、昔それなりに有名な冒険者だったんだよ。もう隠居した挙句に息子は家を出て行くし娘は行方不明になるし。嫁はそんなおじさんに愛想を尽かせてね。おじさんは家を追い出され一人寂しくここに流れ着いたってわけさ」


「それ自業自得なんじゃないの? どうせそこら中の女の人にセクハラしまくってたんでしょ?」


「いやいや、そんな見てきたように言わないでよ」


 ちょっと待って。それどっかで聞いた事ある。


 それとショコラの事知ってるって……まさか。



「ショコラ・セスティ」


「な、なんだい急に……」


「プリン・セスティ」


「お、おい……お嬢ちゃん?」


「キャンディ・セスティ」


「待て待て待て!! なんでお嬢ちゃんがおじさんの家族構成を知ってるんだ!」


 ……やっぱり。


「おじさんがキャンディママの元旦那なの……? こりゃ愛想尽かしても仕方ないかな……」


「なんか酷い事言われてないか? てかキャンディに会ったのか?」


「うん。今ライデンで娼館の女将やってるよ」


「な、なんだと……? なんだってそんな仕事を……」


 私はその言い草を聞いてかなりイラっときた。


「そんな仕事って何? キャンディママはね、おじさんが残した借金返す為に家も失って一人で頑張って自分の店を持つまでになったんだよ。もう関係の無いおじさんがとやかく言う事じゃないよね?」


 おじさんは驚いて、そして、とても悲しそうな、寂しそうな顔になった。


「そ、そうだね……。確かにその通りだ。お嬢ちゃんの言う通りだよ」


 ……その様子を見てたら少し言い過ぎたような気がしてきた。

 なんで私がこんな気持ちにならなきゃならないのよ。


 本当にらしくない。


「言っておくけど、キャンディママは女将やってるだけだから」


「え、それって……」


「客取ってるわけじゃないって言ってんのよ分れ」


「……そ、そうか……あいつにも苦労させちまったな……」


 まったく。その後悔と反省をなんで一緒に居る時にできないのかな。


「本気で悪いと思ってるならいつか詫びでも入れに行きなよ。より戻そうとか言い寄ったらぶっ殺すから」


「はは……そうだな。考えておくよ。嬢ちゃん、ありがとう」


 そう言っておじさんは深く頭を下げた。


「別にお礼言われるような事じゃないよ。それと、おじさんはショコラがここに居るの知らなかったの?」


「あ、あぁ……魔王の嬢ちゃんが他にも人が居たけどどっか行ったって言ってたんで……多分それがショコラだったんだろうな」


「ショコラはその後私と一緒に居たからね。後でショコラとも話してみれば? あとついでだけど、プリン・セスティも生きてるから」


「な、なんだって? 勇者のパーティに入ったのは風の噂で聞いていたけれど、もうめっきり姿を見せないって聞いたんだが……お嬢ちゃんは何者なんだ? プリンは今どこに?」


「プリンがどこに居るかはまだ言わない。そのうち分かるよ。でも、親なら少しは親らしい事しな。キャンディママが私にしてくれたみたいに……子供の為に出来る事をさ」


 ショコラはきっと大丈夫。強いからね。

 でも、おじさんにはもう少しだけヒントをあげよう。


「おじさんに出来る事……」


「この国を守る事がショコラにとっても……そしてプリンにとってもいい結果に繋がるから。だからおじさんは命がけでここを守るんだね」


「それってどういう……」


「これ以上は教えてあげない。あとは自分で考えて自分で動くんだよ……ほら、私達にも出番がきたよ」


 空を覆っていた魔物達の一角が、城を目指して突き進んできていた。


「そうか。なら……おじさん頑張っちゃおうかな!」

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