絶望戦士は聞かなかった事にしたい。


「……さぁ。もう、何度目だろうな……五十回までは覚えてるけどな……」


 俺は血まみれのヒールニントを抱き上げて泣いていた。

 彼女が死んだ事に対しての涙じゃなかった。

 どうしたらいいのか分からなくて、自分の力の無さに対しての涙だった。


『呆れたな。既に三百回をこえているというのに……』


 数えたって意味が無い。

 何度やっても同じように彼女が死ぬ。

 何十回、何百回繰り返しても、同じように彼女が死んでしまう。


「……まだ試してない事がある。すっこんでろ」


『やれやれ……。頑固も極まると面倒だねぇ』


「うるせぇよ。まだ、まだだ……何か、方法が……」


『まぁせいぜい頑張ってくれたまえ。しかし君が何度も繰り返してくれたおかげで私は君に対する情報を収集する事ができたし君がなぜそんな力を使えるのかも大体分かったよ』


 ……俺が、こんな力を使える理由?

 そんな物に理由なんかあるのか? 偶然変なスキルを二つ持って生まれたから……では無い?


『まぁ君がそれを知った所で何も変わらないだろう?』


「……どうでもいい。次だ……」



 ――――――――――――――


「……迷惑ですか?」


「……お前らそこから動くな。ちょっと待ってろ」


 俺は三人をその場に留め、再び天運操作を使う。

 この三人を守れるような結界を、と思いながら発動させると、ほぼイメージ通りの現象が起こる。


 三人の足元からドーム型の光が立ち上り、包み込む。


「は、ハーミットさん。これは……?」


「なんだこれ! でられねぇぞ!!」


「……ハーミット様、待って……」


「悪いけど、お前らはそこから動くな。すぐに戻って来る。俺を信じろ」


 俺は背後で騒ぐ三人を放置して一人村へ向かう。


 村へたどり着くと一直線に村の中央まで向かう。


「……天運操作」


「うぐっ、ぐぉあぁぁぁぁぁぁっ!?」


 薄汚い悲鳴をあげてドラゴンが村の中央へ錐揉みしながら落下し、俺はそれを真下で待ち構えて一気に切り払う。


 左腕と尻尾を切り落とした。


「ぎゃぁぁぁぁっ!! な、なんだ!?  何が起こった!?」


「お前が知る必要はねぇよ」


 地面に転がってのた打ち回るドラゴンの両羽根を切り落として空中へ逃れられないようにした後、まだ状況を把握してないノロマの右腕を切断する。


「ギっ、ギザマァァァッ!! 俺を、誰だと……」


「……うるせぇよ」


 立ち上がって俺に襲い掛かってきた奴の胴体を真っ二つに切り離し、覆いかぶさるように倒れてくる巨体をかわす。


「ゴハァッ!! な、なんだお前、は……しかし……俺様には奥の手がッ」


「知ってる」


 上半身だけになったドラゴンが口から炎のブレスを吐く。

 炎、と言うよりは超高温のブレスといったところか。


 俺は最大火力で魔剣の炎をそれにぶつけて相殺する。

 不思議な事に、この繰り返しを初めてから魔剣の威力が上がっているように感じる。


「馬鹿め! それで勝ったつもりかっ!」


 二人の間に爆炎が立ち上り、それがまだ消えないうちに奴が光線を放つ。


「それも知ってる」


 何度もその目から発せられる光線にヒールニントを殺されたんだからな。


 ただその光線は本当に奥の手。

 人体を貫く威力はあろうと剣で簡単に防ぐ事ができる。


「死ねよ」


 爆炎を抜け、頭を真っ二つに切り分けて戦闘終了。


 もうこいつを殺すだけなら五分もかからない。


 相手の戦力、攻撃方法、行動パターンが分かっているとこんなに戦いというのは簡単なものなのか……。


 よし、あいつ等の所に戻ろう。


 村を出て三人の元へ戻ると、何事もなくその場で待っていてくれた。

 結界を解除し、ヒールニントを抱きしめる。


 野党の襲撃に備えてヒールニントを完璧に守る布陣でナランへ引き返した。


 ……やった。

 やったぞ!


「ヒールニント! 俺は……俺は!!」


 ナランはもう目と鼻の先、という所まで戻ってくる。


 油断はしない。

 確実に、ナランに入るまで……?


 いや、街の中で何かが起きるかもしれない。

 翌日まで?

 いや、寝ている間、翌朝、そして明日その明日さらにその明日……。


 いつまで守り切れば彼女を生存させられるんだ……?


『やっと気付いたようだね』



 ――――――――――――――



「神……教えろ。何故だ? 何故何をどうやってもヒールニントは死ぬんだ」


 結果を言うならば、ヒールニントは死んだ。

 魔族からも野党からも本人の自殺からもその他多くの障害からも守り切ったつもりだった。


 彼女が寝た後も傍らでずっと寝ずの番をした。


 いつ何があっても対処できるように。

 彼女を守れるように。


 ……だが、彼女が再び目を覚ます事はなかった。


『正直言うと私も疑問なんだよ。因果を捻じ曲げるというのは確実にその余波が揺り戻しとして起こる物ではあるが……だからと言って確実に死を繰り返すなどと……』


「神の癖に分からねぇっていうのか?」


『私だって分からぬ事はあるさ。推測は出来るがね。……彼女は何か特別な出自の者だったりするのかい?』


「……聖女。そう呼ばれている。ローゼリアの教会に捨てられ……」


『なんと……ふむ。それはそれは……これは面白い。どうやら間違いないな……なるほどなるほど。ふふっ』


 奴は自分だけ何かに気付いたらしく必死に笑いを堪えていた。


『これはなんという因果。彼女はまさに特別だよ。なにせ……』


 俺は耳を疑う。

 どうしてそんな結論になるんだ?


『彼女、ヒールニントと言ったかな? 彼女は……ローゼリア王族の血を引いているね』



 ……ヒールニントがローゼリアの王族だと!?


「王族の誰かが教会に子を捨てたと言うのか!?」


『何とも言えないがね、恐らくそういう事だろう。どうせ本来関わってはいけない相手との子供ではないかな? いつの世も人間は愚かで面白い』


 事実は分からないが、確かに王が女中などに手を付け子をなしたなどとなれば王国内で騒ぎになるだろう。捨てられる事も考えられる。



『そして……ローゼリアの王族出身だとするならば』


 なんだよまだ何かあるのか……?


『私の血も引いているね』


 不覚にも一瞬、気が遠くなった。

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