絶望戦士は絶望したくない。

「……おい、ヒールニント? 返事をしろ」


 彼女に問いかけるが、ヒールニントは目がうつろな状態で……ゆっくりと前に倒れ、そのまま動かなくなった。


「……おい、これはなんの冗談だ? ふざけるなよ。なんだ、なんなんだこれはっ!! 早く傷を治せよ! そのくらいどうにかなるだろ!?」


 思い切りヒールニントの身体を揺さぶる俺を、ロンザとコーべニアが必死に止める。


「コーべニア! お前が治せ!!」


「か、回復魔法は使えません……それに……うぅっ……ヒールニントぉ……」


「なくな! 今はそれどころじゃない! ハーミットさん、一端離れましょう!!」


 分かってる。分かってるさ。

 どこからか飛んできた矢が彼女の心臓を貫いている事くらい、分かっているんだ。


「ハーミットさん! 僕達は誰かに狙われています! ……僕も辛いです……でも、でも今は逃げないと!」


「ここは俺に任せて二人は逃げろ!!」


 何をごちゃごちゃと……!


「誰だ。誰がやった? コーべニア! 近くの敵を探せ! 今すぐにだ!」


「で、でもヒールニントの事もあります! ここは一度引いた方が……」


「うるせぇ黙って言う事を聞け!!」


「はっ、はい! ……分かりました! あの崖の上にかなりの数の反応があります! おそらくただの人間でしょう」


「分かった」


 俺がそちらへ向かおうとすると二人が止めに入る。


「待って下さい! 相手は人間ですよ!? いったいどうするつもりなんですか!?」


「殺すに決まってるだろうが!」


「確かにヒールニントがこんな事になって……俺等だってどうしたらいいか……だけどこいつは絶対そんな事望まな……」


「うるせぇっ!!」


 こんな奴等と話をしているだけ無駄だ。


 気が付けば俺は二人を振り切り、自分でも信じられないスピードで崖の下まで辿り着いていた。


 怒りに任せて振るった魔剣は、俺の怒りと絶望に応えてくれる。


 剣先に見えない刀身が現れたように、俺が剣を振るうと崖の出っ張りごと真っ二つになった。


 それが衝撃波による物なのか、先程感じたように魔剣が刀身をひたすら伸ばしてくれたのかは分からない。

 とにかく、なるべくしてそうなった。


 自分達が居た足元が崩れ落ち、俺の居るところまでヒールニントを殺した奴等が降ってくる。


 俺はそいつらを瓦礫の中から引きずり出し、一人ずつ手足を切って回った。

 全部で十五人。ただの野党だろう。


 喚き散らし、泣き叫び、許しを請う。

 見苦しい。

 人を殺しておいて今更何を言うのか。

 俺の大切な物を奪っておいていったいどういうつもりで命乞いなどしているのか。


 俺は出来る限り意識を削がないように、出来る限り苦しむように剣を突き刺していく。


 遅れてやってきたロンザとコーべニアがその光景を見て吐いた。


 邪魔だからどっかいってろクズどもめ。


「……ちっ。もう死んだか。……次はお前だ……」


 そうして、全員が命尽きるまで同じ事を繰り返した。

 それでも俺の心は晴れる事がなかった。


 本当ならこんな事している場合ではない。

 すぐにでももう一度やり直さなければ……。


 だが、ヒールニントを殺した人間を出来る限り苦しませて殺さないと俺の気がすまなかった。




 ――――――――――――――


「……迷惑ですか?」


 どうしたらいい?

 このまま村へ行けば全員死ぬ。


 ここを離れたらヒールニントが矢に倒れる。


 もう一度矢に十分警戒しながら元来た道を戻るか……?


 それとも、三人協力してあのドラゴンを殺すか……。




 ――――――――――――――



 ダメだ。

 ドラゴン型の野郎を倒そうとして戦略を練っても……なんどやり直してもどこかでヒールニントが死ぬ。

 俺を庇って死ぬ。

 それを繰り返し庇おうとする彼女を跳ね除けて違う展開を続けても、今度は戦闘の中で自然に殺される。


 仮にドラゴンを倒す事が出来たとしてもどこかに潜んでいた野党が彼女を刺し殺す。




 ――――――――――――――



 もう何度繰り返しただろう。

 彼女が生き延びる事ができる方法が何かある筈だ。


 それを俺は見つけなければならない。




 ――――――――――――――



 何をどうやってもヒールニントが死ぬ。

 何故だ?

 どうしてこんな馬鹿な事が起こる……?

 もしかしたら誰かの死を引き金にしているのか?

 誰かが死ななければこの現状を乗り越える事が出来ないという事か?


 俺はそこまで落ちなければいけないのか?




 ――――――――――――――



「ハーミット様! いったいどうしちゃったんですか!? お願いです。やめて下さい!!」


「ヒールニント……ごめんな。嫌な思いさせて……でも、もしかしたらこれが必要な事かもしれないんだ」


「お、おねがいっ! やめてぇぇぇぇぇっ!!」




 ――――――――――――――



 ダメか。

 ちょっとした実験をしてみたが意味は無かったらしい。

 結局ヒールニントは死んだ。


 ……今回はどうやって死んだんだっけ?


 ……もう分からない。

 今が何回目でさっき彼女がどうやって死んだのかもよく分からない。


 何をどうやっても死ぬなら考えるだけ無駄だ。


 ……いや、それを言ったら全てを諦める事になってしまう。

 どれだけ俺が落ちようとも、彼女を助ける事だけは諦めちゃいけない。




 ――――――――――――――


 あれから更に何度か試しては死んでを繰り返していた時にふと気付く。


 ……ロンザとコーべニアは村に近付かなければ死なない。


 それ以外で死んでもやり直した際、村から離れれば基本的に死ぬ事は無い。


 どういう事だ?


 どうしてヒールニントだけが何をしても死んでしまうのだろう。


 ……教えてくれよ。

 ヒールニント。お前は、いったい……?




 ――――――――――――――



『いったいそれで何度目だい?』


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