絶望戦士は人生を捧げたい。
あまりの出来事にロンザもコーべニアも声が出ない。
「ちく……しょう……畜生ッッ!! 何だこれはっ!? ふざけるなぁぁぁぁっ!! 神よ! 見ているんだろう!? 出てこいッ!!」
『やれやれ……私としてはとても面白い見世物だったけれど……まさかこんな事になるとはね』
ロンザとコーべニアが突然現れた神に驚き、何かを叫ぼうとしたがそのままの姿で固まる。
『その二人は少々うるさそうだから黙ってもらったよ』
「そんな事はどうでもいい! これはどういう事だ説明しろっ!!」
納得のいく説明がなければ、俺は……俺は……ッ!!
『……ふむ。説明と言われてもね。自らの死の運命を受け入れた。それだけだろう? 私も驚いているんだ。やり直しの機会を与えてやったのだから文句を言われても困ってしまうな』
ふざけるなっ! 俺は、俺はこんな結末求めていない。
「もう一度だっ!! もう一度やり直させろ!!」
『無茶をいう物ではないよ。私を含めた全ての時間を巻き戻しているのならばともかく、私の力では限られた範囲内の因果を歪めるのが精一杯だったからね。既にほとんど力を使い果たしてしまったよ。なんとかしてやりたくても出来ないというものさ』
そんな馬鹿な事があってたまるか!!
俺はヒールニントを助けるためにやり直しを望んだんだ。それに……。
「お前が無条件と言い出した時点でおかしいと気付くべきだった。力を使い果たしているというのなら都合がいい。せめて……今ここでお前だけでもぶち殺してやる!!」
『ははは。それはいい。出来る物ならやってみたまえ。きっと君が全ての力を使い、なりふり構わず私を殺そうとするならばきっと殺せるはずだ。……しかし、本当にそれでいいのかい?』
……どういう事だ。
騙されるな。こいつの言う事なんて……。
『言っただろう? 君は自分の力の使い方を知るべきだ、と』
……何を言っている?
考えろ。まだ、俺には出来る事があるのか……?
もしかして……。
「そういう事かよ。お前は俺に天運操作を使わせたいという事か」
『当たり、ではないね。しかし外れでもない。使うかどうかは君次第だよ。そして、使うとしたらどのような効果を望むべきか、君には分かっているのではないか?』
「その為に一度お手本を見せたって事か……? 想像以上に趣味が悪いなてめぇ……」
『そうかな? 私はわざわざ自分の力を使い果たしてまで君に可能性を示唆してやっているんだよ。感謝こそされど恨まれる謂れはないね』
畜生。こいつは腹立たしいし今すぐに殺してやりたいが、そんな事に力を使っている余裕は無い。
今はとにかくヒールニントだ。
『ふむ。もう自分がすべき事は分かったようだね。一つだけ助言をしてあげよう。因果という物は原因と結果だ。彼女が死ぬ事になった原因と結果を捻じ曲げたまえ」
原因と、結果を捻じ曲げる……?
俺は天運操作を使った所で、具体的に何をどうするという指定までは出来ない。
それを可能な限り望む形にする為のイメージを固めておけという事か……。
くそっ。今はこいつの助言とやらに縋るしかない。
惨めだ。恥晒しだ。しかしそんな事は知った事じゃない。
必要なのは生存という結果。
要らないのは彼女の死に繋がる原因と死の結果だ。
「では私は摂理の外から君の奮闘を眺めさせてもらう事にしよう。では……健闘を祈るよ』
そう言って神は俺の目の前から姿を消した。
「ぷはぁっ!! い、今のはなんだったんですか!?」
「あれが神様……!? いや、そんな事よりもヒールニントが……!」
「うるせぇっ!!」
俺の吠えるような言葉に二人は沈黙する。
今の俺はお前らなんかに構っている暇はないんだ。
意識を集中させ、複合スキルを発動させる。
これにもいつ限度がくるか分からない。
本当に神の真似事ができるのかも分からない。
だが、やるしかない。
俺は、必ずお前を救ってみせるぞヒールニント!!
――――――――――――――
「……迷惑ですか?」
「おいお前らよく聞け。予定変更だ。今すぐ引き返すぞ」
俺は三人の不思議そうな表情を無視して今まで歩いてきていた筈の方向へ進みだす。
あんな所へ行かなければいいのだ。
このまま、どこか遠くへ……!
直接的な原因であるあの魔族との接触を潰す!
原因がそもそも存在しなければ死という結果は訪れない。訪れようがない!
「ハーミット様?? どうしたんですか?」
「なんでもない。……いや、ちょっと用事を思い出したんだ。俺と一緒に来てくれ」
「一緒に来てなんて言われるとドキドキしちゃいます♪」
三人は俺の突然の頼みを受け入れてくれた。
何も聞かずにナランへ引き返す事を了承してくれたのはとても助かる。
俺は気付いてしまった。
失って初めて気付くとはよく言うが、俺にとってそれほどまでにヒールニントが大きな存在になっていた。
「……このままナランへ引き返したらお前と結婚でもするかな」
「えっ、……えぇぇぇぇぇっ!? ほ、本気で言ってますか!?」
目を真ん丸にしてヒールニントが驚いている。
あぁ、俺はこのころころと変わる表情が好きなんだ。
「お前は、俺が守ってやるからな」
「えっ、えっ!? 嘘でしょ?? ロンザとコーべニアもなんとか言ってよ!!」
二人は俺の突然の発言に驚いていたが、少しすると優しい声で彼女に、「おめでとう」「君は幸せになるべきだ」そんな事を言っていた。
その通りだと思う。
彼女は幸せになるべきなんだ。
そこに俺がいようといまいと関係ない。
そんな事はどうだっていい。
ヒールニントが平和に、幸せに暮らせるのならそれでいい。
「私が……ハーミット様と……? ほ、本当に……? 私で、いいんですか?」
「お前じゃなきゃダメなんだ。お前は必ず守る」
「えっ、えっ……ど、どうしたら……あ、あのっ! その……ふっ、ふつつかものですがっ! よ、よろしくおねがいっ……し、まっ……えっ?」
ふと言葉尻に違和感を感じて俺の後ろを歩いていたヒールニントへ視線をやると、
丁度彼女の胸のあたりに、矢が深々と突き刺さっていた。
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