絶望戦士は悪魔と向き合う。


「……どういう、事だそれは」


『何、簡単な話さ。私は大昔に人と関りを持った。その時の子孫がローゼリア王族、というだけの話だよ』


 ……ヒールニントの謎の力、加護の力……それらは神の力を受け継いでいたという事なのか?


 ……待てよ?

 と、いう事はだ。


 ローゼリアの王族が神の子孫だと言うのであれば、姫の身体はヒールニントの……。


『気付いたかい? 君が姫と慕う者……その身体は彼女の身内という事さ。相手が王だったとしたら……そこのヒールニントという少女は腹違いの妹と言った所かな』


「……それは分かった。理解した……だがそれとヒールニントが死に続ける理由の関連性が分からない」


『定められた運命という物があるとする。それを捻じ曲げるという事はとても大きな余波を生む……が、それは対象によって様々だ』


 ……運命を捻じ曲げる対象によって余波の大きさが変わる……?


『考えてもみたまえ。その辺の虫けら一匹の運命を捻じ曲げたとする。それがこの世にどんな影響を与える?』


「……特に何もねぇだろうな」


 神は薄気味悪くにこりと笑って手を叩いた。


『正解だよ。つまり、存在が世界に与える影響が大きければ大きいほどその運命を捻じ曲げた際に修正力という物が発生する訳だ。そこの少女は余程影響力が大きいらしい。神の力を色濃く受け継いでいるのかもしれないね』


「……修正力? 世界が、歪みを修正しようとしているとでも言うのか? 馬鹿々々しい」


『それがそれほど馬鹿な話でもないんだよ。その世界は誰が管理していた?』


 ……神、か?


『今は神などという存在は私以外生き残ってはいないけれどね、以前はもっと多く、そしてこの世界をきちんと管理していた訳だ。そして人間達も全て、管理されていた。つまりだよ? 何か困る事象が発生した時にそれを修正する為のプログラムを用意していた、という訳だ。特に因果に手を加えるような神の領域に踏み込んだ者に対しては尚更ね』


「この世界の摂理までもお前らの手の上なのかよ」


 くそったれが。結局、何もかも神の手の上じゃねぇか。



『勘違いしてもらっては困る。我ら神も、この世界に生きる生き物の一種だよ。ただ他の生き物達よりも力があり、命を生み出した存在であり、それらを管理しようと思った暇人だというだけさ。人から見るとそれが【神】という訳だが、世界を全て思う通りに出来るほど優れた生き物ではないのさ』


 知るか。神がどんな生き物なのか、何が出来て何が出来ないのかなんて知った事じゃない。

 問題なのはその神とやらが作り上げたよくわからん物のせいで何度ヒールニントの運命を捻じ曲げても、結果的に死に繋がってしまうこの現状だ。


「なんとかならないのか?」


『ふむ……ならない事も、ない』


「回りくどい言い方は辞めろ。何とかなるならその方法を教えろ今すぐにだ」


 神は、一際口角を上げ、厭らしい笑みを浮かべる。


 これは、どうせろくな事にならない。

 分かり切ってる。


 だけど、なんだって構わない。

 俺がどうなろうとヒールニントさえ生存させる事ができるのならばそれでいい。


『君が私を受け入れればよい』


 ……俺は奴の言葉の意味を計りかねていた。


「どういう、意味だ……?」


『そのままの意味だよ。言っていただろう? 元々私が条件として出した内容は、君に強力してもらう事……それが結果的に必要になってきたわけだね』


「何度も言わせるな。俺は回りくどいのは嫌いだ」


『せっかちだな……何度となく愛する人の死を見て大分心が荒んでいるね』


 うるせぇ。荒まない方がどうかしている。

 俺はヒールニントを生き残らせる為に実験としてロンザやコーべニアすら手にかけた。


 藁にもすがる思いで、泣き叫ぶヒールニントの目の前で二人を虐殺した。


 なんとも思わなかった。

 俺の目的はヒールニントを助ける事だ。

 本人がどう思うかなんてどうでもいい。俺がどうしたいかが全てだった。

 彼女に生きていてほしい。それだけの為にならば、俺は鬼にも悪魔にだってなる。


 俺の心は既に壊れている。


『さぁ、決断の時だよ。君は、神になる気はあるかい?』


「何が神だよ……お前なんかどう考えたって悪魔だろうが」


『残念だけれどそれは当たっているね。神も悪魔も人からどう語り継がれるかの違いしかない。どちらも同じ物なのさ。つまり……私は神であり、そして……悪魔だ』


 はは、そりゃあいい。


「いいぜ。神になろうなんて馬鹿らしくてまっぴらごめんだが、悪魔にだったらなってやる」


『随分と思い切りがいいね。こちらとしては話が早くて助かるが』


「実際何をどうするのか、それによってどんな結果を生むのか教えろ。話はそれからだろ?」


『いいとも。これでやっと交渉の場に立つ事が出来たね。まずは何をするのか、そしてその目的から話そうか』


 ついにここまで来てしまった。

 ここまで落ちてしまった。


 だが、因果とは【原因】と【結果】である。

 その言葉に当てはめるのならば俺が俺として存在する全ての【原因】、物事の発端は生まれた環境などよりも……姫と出会った事だろう。


 しかし俺はその【原因】を変えたいとも思わないし恨む事もない。

 姫との出会いには感謝しかないからだ。


 そのせいでこの【結果】を避けられないというのならば俺は全てを受け入れる。


 それでヒールニントが救われるというのであれば尚更だ。


 思えば、きっと彼女にとっての死につながる【原因】は俺と出会ってしまった事だろう。


 彼女がそれを知ったら俺を恨むだろうか?


 そんな分かり切った事を考えて、笑ってしまった。


 きっとヒールニントはこういうだろう。


「私は貴方と出会えて幸せでした」


 まったく……笑えない冗談だ。

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