絶望戦士は殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺し尽くして死にたい。


『やぁ、こうして話をするのは初めてかな?』



「……あぁ、何しに来た? 無様に死んでいく俺を笑いに来たのか?」


『いやはや大したものだね。彼はギルガディアと言って魔族の中でも五本の指に入る程の実力者だったのに一人で撃破してしまうとは……』


 俺は怒りに任せて暴れた。

 もう何がなんだか分からなかった。

 目の前が真っ暗になったり、真っ赤になったり、真っ白になったりしながら無我夢中であいつを殺す事だけを考えた。


 こいつの話を聞く限り俺は奴を殺す事ができたのだろうか?


 もしそうだったとしても、俺も……もうすぐ死ぬだろう。


 自分の身体だ、それくらい分かる。


 もう立っているのが精いっぱいだ。


『君は魔王や例の姫のようにアーティファクトを持っている訳でもない普通の人間だ。……まぁある意味特別ではあるかもしれないがね。それなのによくぞギルガディアを単騎で退けてみせた。彼は騎士団の部隊を一人で壊滅に追い込むほどの猛者なのだから、誇っていい』


 何が誇っていい、だよ……。退けたと言ったな。それは俺が奴を殺し損ねた事を意味する。


 結局俺は命がけでも、心の底から殺したい相手を殺す事すら出来なかったという事だ。


『君には楽しませてもらったよ。君の以前の仲間達よりも上だと言っていい。あの姫君程ではないが』


 そう語る神の顔も、視界がぼやけてよく見えない。


「……姫君って……姫の事か?」


『ああ。彼女とは先日再会したのだがね。とても楽しかったよ。正確に言えばまたいろいろ語弊もあるがね』


 ……なんだって?

 姫と、再会した?


「姫は……生きて、いるのか?」


『あぁ……君はまだそんな事も知らずに戦っていたのか。本当に、皆が君程私の掌の上ならばもっと予定通りに進んだのだろうがね……いや、むしろ君がイレギュラーなのか』


「何を、訳の分からねぇ事を……」


 姫が生きていた。

 俺がこんな思いをしなくても、姫は生きていた。


 怨みなんてこれっぽっちも感じない。

 ただ、心から安堵した。


 姫さえ生きているなら……この世界は大丈夫だ。

 それに、あの時俺がした事にも少しくらい意味があったのかもしれない。


 そう思えた。


『君は充分に私を楽しませた。何かお礼をしてあげないといけないね?』


 俺に礼だと……?

 ふざけやがって。


 姫が生きているというなら俺にもう未練は何もない。


 ヒールニントも死んだ。

 だったら既に俺が生きている意味なんて何もないんだ。


 だから……。


「てめぇだけでも道連れにしてやるよ」


 確率操作、そして

 運を天に任せる。


 融合スキル


 天運操作!


 どこまで当てになるか分からない。

 現にあの時は思っていたような効果が得られなかった。

 だけど、こいつを始末出来ればそれでいい。

 何がどうなろうと知った事か。

 世界ごと消し去ろうとは思わないが、こいつさえ居なくなればその後の世界はきっと姫がどうにかしてくれる。


 だから、俺はここで全ての力を使い切って構わない。


「ここが……俺の、死に場所だァァッ!!」


『それは違うね』


 パキィィィン!!


 何か、ガラスが割れるような高い音が響いて俺の中から沸き上がった力が霧散する。


「て、めぇ……何をしやがった」


『君の力は本当に脅威だ。以前私が対処しなければこの世界が滅んでいたんだよ? もう少し君は自分の力の使い方、恐ろしさを理解したまえ』


 くそが。あの時もこいつが何かしてたって事かよ!


『その力は私を殺し得る物だ。だから予め対策を練らせてもらったよ。長い期間を経て準備さえすれば……対策を用意したこの場に限ってなら無力化も容易い』


 俺達はこの神様野郎に誘い込まれたって事か。

 ここに、俺達をおびき寄せて皆殺しにするために……。


『君は何か誤解をしているかもしれないが……私は、楽しませてもらった相手には本気で敬意を表するし褒美も与えるつもりだよ』


「何が、褒美だ……俺にもう、欲しい物なんて……」


『ふむ。それが君の大事な人の命だとしてもかい?』


 俺は絶句した。

 こいつは、何を言ってるんだ?


 姫は生きているらしい。

 ならばその事ではない。


 俺の頭の中はヒールニントでいっぱいになった。

 あのいたずらっぽい笑顔。

 俺を包み込んでくれた優しさ。

 俺を覗きこっむくすぐったい髪。


「し、死者を……生き返らせる事なんて……出来る筈が……!」


『できないさ。だから私は自分の力の大半を使ってでも君に褒美として……』


 耳を疑った。

 そんな馬鹿な事があるか。


『時を巻き戻してあげようと言っているんだよ』


「……そんな事が、出来るのか?」


『私は力のほぼ全てを使い果たすだろうね。それでも気にする事はない。君に対する正当な報酬と言ったところだね。正確には時間を巻き戻すわけではないのだが……君に言ってもわかるまい』


「お前になんのメリットがある」


『私は損得で動いたりはしない。気が向くか向かないかが全てだよ。それとね、無論条件もある』


 だろうな。もしそんなバカげた事が可能だったとしても無条件で出来るような事じゃない。



「……聞かせろ」


『ふむ……。簡単な話さ。……君が私に協力さえしてくれればそれでいい』


 何が神様だふざけやがって。


 そんなの、誰がどう聞いたって……。







 悪魔の囁きじゃねぇか。

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