絶望戦士は信じたくない。
どうして……?
どうしてこうなってしまった?
俺は何を間違えた?
いったい、何を間違えたらこんな事に……。
俺達は高原を抜け目的地である村へ到着するが、そこは既に焼け野原だった。
建物は半壊している物がほとんどで、無事に残っている建物があったとしても生存している人は誰も居ない。
村中に焦げた臭いが漂い、そこら中に血が飛び散っている。
あちこちに幾つもの遺体が倒れ、千切れた四肢が転がっている。
その中にはロンザ、コーべニアも……。
そして、今俺の目の前には……。
『やぁ、こうして話をするのは初めてかな?』
――――――――――――――
「ひ、ひどい……誰か、生存者は……!」
「待て! ヒールニント!!」
村に着くなり目に入ってきた惨状に、ヒールニントが走り出す。
どこかに居るかもしれない生存者を探しに行ってしまう。
まだ、敵が居るかもしれないのに……!
「ハーミットさん! こっちは俺達が調べておきますからヒールニントを追って下さい!」
「あの子をお願いします!」
「……お前ら! すまん。任せた!」
辺りを警戒しながら身構える二人を残し、俺はヒールニントを追った。
あいつは確か……そこの家の角を曲がって……。
どこだ? どこへ行った?
まだ燃えているあの家の中か?
それとも今にも崩れそうなこっちの家の中か?
もしくはもっと先へ行ってしまったのか?
その時、俺の耳にガラガラと瓦礫が崩れる音が聞こえてきた。
一番危険なのはここか。
優先度を考えて俺は倒壊しそうな家の中へと飛び込んだ。
崩れ落ちる瓦礫の中に少女の姿が見えた。
「ヒールニント!!」
目の前で崩れた屋根に潰され、一瞬でぐちゃぐちゃになる少女の身体。
……くそっ。ここじゃない!
その少女は既に遺体だった。
おそらくその家の住人だろう。
俺は家が完全に崩れ去る前に飛び出し、次を目指す。
まだ火が消えずに煙をあげている家へと飛び込んだ。
煙で何も見えない。
確率操作でヒールニントの居場所へたどり着けるように……。
出来ない。
なぜか、ヒールニントの元へたどり着く事が出来ない。
煙を避けるように身を屈めて探してみるが、どうやらこの家も外れだ。
外へ飛び出した所で、戦闘音が聞こえてきた。
ロンザとコーべニア達の方角だ。
最悪のタイミングでの敵襲。
おそらくこの惨状の原因……魔族だろう。
あの二人に任せておいて大丈夫だろうか?
しかし、俺はどうしてもヒールニントが心配で、思考が纏まらなかった。
今思えば、何かしらの決断をすぐにする事が出来たら、あんな事にはならなかったのかもしれない。
結果的に、俺はいつまでもヒールニントを見つける事が出来ず、もしかしたら既にロンザ達と合流しているかもしれないと思い彼等の所まで戻った。
そして、ロンザとコーべニアは今俺の目の前に転がっている。
無残な遺体として。
「……お前がやったのか……?」
「なんだ貴様は……貴様も死にたいのか?」
こんな奴が、今までどこに居たのだろう?
いや、それは姿を見れば明白か。
上空だ。
この村の上空に居たのだ。
真っ赤にギラギラと光る鱗。
大きな翼。
鋭い牙と爪。
そして、獰猛な瞳。
……巨大なドラゴン型の魔族。
「お前がやったのかと聞いてるんだ」
驚くほど、二人が殺された事に対しての怒りはわいていなかった。
ただ、二人を守る事が出来なかった自分だけはどうしても許せそうにない。
強い物が弱い物を殺すのがこの世界の常だというのであれば、死ぬ事は仕方がない。
だけど……、守ってやりたかった。
こいつらだけでも俺が守ると決めたのに。
それすらも叶わなかった。
「やった、というのはこの村の事か? それとも今殺した二人の事か?」
腹の底に響いてくるような汚い低音。
あぁ、耳が腐りそうだ。
頭がおかしくなりそうだ。
「その、両方だ」
「見て分かるだろう? 俺様がこの村を焼き払った。俺はな、上空から火を吐いただけさ。そして無様に転げまわりながら逃げ惑う人間たちを見るのが大好きなんだ」
あぁ、そうだろうな。
心底楽しんでなければそんな愉快そうな笑みはできないだろうぜ。
外に逃げれば焼き殺され、家に籠れば蒸し焼きになる。
空からの巨大な襲撃者に村人はなすすべ無く殺されたのだろう。
こいつにとっての最高の見世物として。
かろうじて無事だった人達もこいつに弄ばれた上殺されたのだろう。
「気が付いたら何人か新しくここにやってきたのが見えてな、ちょっと遊んでやったらすぐに死んじまったよ。そこの鎧野郎は誰かが助けに来てくれるって信じてたみたいだがもしかしてお前の事か? 傑作だな! 時間を稼ぐんだ! って必死だったぜ? 十秒ともたなかったけどな」
「黙れ」
「もう一人のひょろっこいのは何がしたかったんだ? なにやら魔法を使いたかったみたいだけどいつまでたっても攻撃が飛んでこないから尻尾でぶったたいてやったら死んじまったよ」
「黙れと言ってる」
「あぁ……そうそう、そう言えば……」
やめろ。
黙れ。
「こいつらと遊ぶ前に……」
黙ってくれ。
「もう一人居たなぁ?」
俺は、こいつらを守ってやれなかった自分に対しての怒りを完全に棚に上げてしまった。
やはり俺と言う人間は自分勝手なもので、奴のその言葉を聞いた瞬間に初めて……あの日から感じていた虚無感が、完全な怒りへと変わっていくのを感じた。
奴の口には。
その牙の隙間には。
綺麗なブロンドの髪が数本、絡みついていた。
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