絶望戦士は己を証明したい。
話を聞いただけでも胸糞悪くなる話だった。
ロンザとコーべニアはずっと村の外れに隔離されていた為無事だったのだが、村に立ち上る煙や炎が見えたので脱出を試みる。
やっとの思いで岩に取り付けられた金網を破壊し村に駆け付けた時、彼らが見た物は……。
自分が助けた村人に囲まれ、身体中から血を流して倒れているヒールニントだった。
彼女は抵抗しようとはしなかった。
石を投げられても木材で頭を殴られても、倒れた所に思い切り蹴りを入れられても。
やがて自分の力で立ち上がる事も出来なくなるまで、一切抵抗しようとはしなかった。
ロンザとコーべニアはそんな村人に激怒し、咄嗟に村人がもっていた木材を奪って殴り掛かった。
いくら子供とはいえ、彼らは本気で村人に殺意を剥き出しにしていた。
そして、乱闘の末その場に居た大人五人を叩きのめし、ヒールニントを助け起こす。
すると彼女は、薄れゆく意識の中で、倒れている人達に手を伸ばし、祝福を与えた。
それを見ていた二人は、もう彼女を止めようとはしなかった。
虚ろな目、感情を無くした彼女は……ただ人々に救いを与える為に存在している人形のように見えた。
自分の役割、自分のすべき事……母親の教え通りに困っている人を助ける為に動き続ける。
そんな人形のようだった。
目を覚ました村人たちに、ロンザとコーべニアはこう言ったそうだ。
「こいつのおかげで生きていられるんだから感謝しろ。分かったら早くどっか行け」
二人はきっと、すぐにでも目の前の村人を殺したかっただろう。
それでもそれをしなかったのは、ヒールニントがこんなになってまで救った命だから。
だから必死に我慢した。
そんな彼らの迫力に負け、ほとんどの村人は村を捨てて逃げた。
既に復興が可能な状態では無かった。
……ただ、村人の中でただ一人。
ヒールニントの母の友人だけが逃げずにその場に留まった。
「お前さえ居なければあの子は死ななかったんだ!」
彼女の言う『あの子』というのが、ヒールニントの母親の事だったのか、もしくは自身の娘の事だったのかは分からない。
彼女の娘もまたその騒ぎで犠牲になっていたかもしれないからだ。
その女性は、最後の最後に……ロンザとコーべニアが抱えているヒールニントへ歩み寄り、その顔面に思い切り拳をぶち込んで逃げていった。
あまりの光景にロンザもコーべニアも反応できなかったそうだ。
三人ともに、よく世話になっていた女性だったというのもあったかもしれない。
彼女が他の村人に隠れてヒールニントにこっそり優しく接してくれていた事も知っていた。
だからこそ、目の前で起きた事は信じられなかったし、今度こそヒールニントの心は完全に砕けてしまった。
重傷を負っていたヒールニントだったが、その傷は一週間程で完治してしまったという。
二人はその様子を見て、確実にヒールニントには不思議な力がある。だが、それは不浄の物や、魔女に繋がるような物では無いと信じる事ができた。
だからこそ、ヒールニントの悲しみをどうにかしてやりたいと思い、三人で冒険者になる事を選んだのだという。
この世界に彼女が聖女だと認めさせるために。
その話を聞いて、俺は今のヒールニントからは考えられないなと思った。
その話が本当ならば、この二人はヒールニントにとって非常に重要な存在だっただろう。
一度壊れた心をここまで回復させてくれる人が周りにいるというのはそれだけで幸せな事だと思う。
……それは俺にとってのヒールニントだろう。
ロンザもコーべニアも、何故かヒールニントと俺をくっつけようとしているようなので、彼女に対して恋愛感情の類は持っていないのかもしれないが、どうにもこうにも……似た物同士というのは引き合うものなのかもしれない。
いや、俺なんかよりも彼女の方が酷い境遇だ。
しかもヒールニントは自分に出来る事は全てやった上で、環境のせいで酷い目にあっている。
その点俺なんて環境に恵まれていながら力不足で全てを失った。
似た者同士、なんて思ってしまったが……よく考えたら似ているようで全く違うかもしれない。
俺は彼女の隣に立っていいのだろうか?
俺は、彼女のこの直接的な好意を受け入れてしまっていいのだろうか?
彼女の好意はとても嬉しく思うし、おそらく俺も……。
いや、確実に俺もヒールニントの事をただの仲間以上に想う様になってしまっている。
認めるしかないだろう。
だからこそ俺は怖いし、もっと強くなりたい。
守りたい物が増えてしまうのならばその全てを守れるほどに、今度こそ。
今度こそ……。
デュクシでも勇者でもなんだっていい。
俺は俺だ。
どんな名前で呼ばれようと、どんな事を期待されようと、俺は俺の心に従う。
俺が俺である為に。
己の、証明の為に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます