絶望戦士は聖女に勝てそうにない。
「次の目的地はそろそろのはずですよ」
「ロンザに地図係を任せたのは間違いじゃないですか? 今までに何度迷った事か……」
今俺達はナランから街道を逸れ、高原を渡った先にある小さな村へ向かっているのだが、確かにロンザに地図を預けたのは失敗だったかもしれない。
よくよく考えたらコーべニアに任せるのが正解だっただろう。
「いやいや、大丈夫だって。ちゃんと到着するってば!」
ロンザがブツブツ言っているが……どうやらちゃんと彼の案内は正しい方角を示していたようだ。
ちゃんと高原の向こうにうっすらと建物が見えてきた。
「ほ、ほらほら! ちゃんと合ってただろ!? ねぇハーミット様!」
「あぁ、そうだな。助かるよ」
そう返事してやった途端ロンザとコーべニアは目を丸くして俺の方を凝視した。
「……なんだよ」
「いや、ハーミット様ってやっぱり変わりましたよね。以前よりこう、暖かくなったというか……僕の勘違いではないと思いますよ」
「そうそう! 今までは恐ろしく強い尖ったナイフって感じでしたけど今はこう、切れ味のいい魔剣が鞘に納められてる感じがします!」
コーべニアはともかくロンザの例えは全く理解ができないな。
いったいどういう意図があるというのか。
鞘……?
「それだけハーミット様のお優しい面が周りに理解されるようになったという事です♪」
そう言うのはヒールニントだが……。
「なぁロンザでもコーべニアでもいいからこの状況をどうにかしてくれないか……?」
「「無理です」」
綺麗にハモりやがって……。
「なぁ……そろそろ離れろよ」
「嫌ですぅ~♪」
……はぁ。
何故だかヒールニントが俺の腕にしがみ付いて離れないのだ。歩きにくくてしょうがない。
「……迷惑ですか?」
「……迷惑、だな」
「やめてほしいですか?」
「やめてほしい」
「どうしても、ですかぁ……?」
「……好きにしろ」
「はいっ☆」
……はぁ。
こいつもこいつだが……うるうるさせた目で覗き込まれただけで許してしまう俺もどうかしてるなぁ。
「それにしてもヒールニントのやつもう俺達に隠そうともしねぇな」
「まぁ元から分かりやすかったですし何度もロンザに邪魔されてイライラしてましたしね」
「なんだよ俺のせいだっていうのか?」
「まぁいいじゃないですか。ヒールニントが自分の気持ちに素直になれたんですから」
「まぁ……確かにそうだな」
そんな二人の言葉が聞こえているのかいないのか、俺の腕にからみつくヒールニントの手にぐっと力が入る。
いまでこそこうやってニコニコと天真爛漫なヒールニントだが、昔はそれはもう酷かったらしい。
ヒールニントがぐっすりと寝てしまった夜、二人に彼女の過去を詳しく聞いた事がある。
ヒールニント本人が話したくなったら、というのが本来の筋なのだろうが、二人が俺には知っておいてほしいと言ってきた。
彼女はローゼリアの近くにある村で育ったらしいが、既にその村は滅んでしまったのだとか。
ローゼリアの教会前に赤ん坊の状態で捨てられていたのを、当時そこでシスターをやっていた母に拾われ養女になった。
幼い頃より不思議な力があり、主に傷を癒す事に長けていたため聖女と言われていたが、ちょうど後に住む事になる村へ母と一緒に出掛けている間にローゼリアに事件が起きる。
謎の青白い光の壁がローゼリアを取り囲み、家に帰る事が出来なくなった。その件もありそのまま知人の家にやっかいになる流れで移り住んだらしい。
その頃ローゼリアには魔女が居るという噂が広がり、不思議な力を使うヒールニントは魔女の関係者なのではないか、という話に発展してしまった。
現にローゼリアがどうなっているか分からず、滅んでしまったというのが通説であったため、ただの噂といえどヒールニントは恐れられた。
ロンザとコーべニアもその村出身であり、大人の身勝手な発言に大層腹を立てて彼女を庇った。
しかし、大人達はロンザとコーべニアがこれ以上感化されないよう村外れにある大岩の窪みに作った簡易的な牢屋へと隔離。
ヒールニントの母親は迫害を受けつつもヒールニントを庇い続け、心労からくるものなのか病に伏せってしまう。
ヒールニントはその病すら治してみせた。
それがさらによからぬ噂になり、ヒールニントは魔女の娘だと、誰かが言い始める。
その村の住人もヒールニントの力で助けてもらった人々が沢山いたというのに、その話は小さな村中に真実として一気に広まった。
結局のところ彼女が何者なのか、その力はなんなのか……それについては分からない。
だが、人々を癒し、助け続けたヒールニントの事をロンザとコーべニアは聖女だと信じている。
現に、村はその後野党の群れに襲われ壊滅するのだが、ヒールニントはひたすら生き残りを助けて回った。
魔女の助けなど要らない。
こんな事になったのだって魔女のせいに違いない。
そんな暴言を受けながらも彼女は人を助け続けた。
しかし、その騒動の中で母親も殺されてしまった事を知り彼女の心は壊れてしまう。
いくら彼女の力でも死人を蘇らせる事は出来なかったのだ。
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