ぼっち姫、規格外の連中。


「セスティ……セスティ! やっと、会えたのじゃぁ……」


 黒髪少女が私の服を涙で濡らす。


「ずびずびー」


 あと鼻水。


「ちょ、ちょっと君、喜んでくれるのは嬉しいんだけど……角がめっちゃ刺さってる……!」


 服が有る場所にだったらこの子……服が弾いてくれたんだろうけど、ちょうど片方の角が二の腕にざくっと……。


「す、すまんのじゃ……すぐに治す……必要はなかったんじゃったのう」


 少女が慌てて私から離れると、すぐに私の傷が修復されていく。


 この子は私の体質の事についてもちゃんとわかってるらしい。


「ところで……やはりセスティは記憶がないのかのう? 儂の事もわからんか?」


 これだけ私との再会を喜んでくれる子の事は思い出してあげたいけれど……。


「うん、ごめんね……申し訳ないけれど全然思い出せないわ」


「……そうか、仕方あるまい。女性かも完全に進んでしまっておるようじゃのう。……いや、どちらかというと今は記憶がないから自分を女性と認識してしまっている状態という事じゃろうか?」


 この子はかなり賢いみたいで、こちらの少しの言葉で多くの事を理解してくれる。

 こんな子が仲間だったなら以前の私は安心できた事だろう。


 なにより、他の連中よりかなりまともである。



「それで……そこの蛙が一緒にいるのも疑問じゃが、見ない顔も一人おるのう?」


「あぁ、この人はサクラコさんと言ってショコラのお師匠さんだよ」


 その言葉を聞いて少女は顔を歪めた。


「そ、そうか……ショコラの師匠と言う事は、その……アレじゃな」


 ショコラの師匠というだけでこの人も要警戒人物だと分かってくれる。あぁ、まともって素晴らしい。


「感動の再会ってところ悪いけどよ、そろそろ本題に入ろうぜ」


 サクラコさんの言葉に少女は疑問符を浮かべた。


「そうじゃ。儂だけを呼んだのはいったいどういう訳じゃ? 大変だったんじゃぞナーリアが大騒ぎでのう……言われた通りナーリアを振り切って一人で来たのじゃぞ」


「めりにゃん、メディファスをどこで見つけたか教えて」


「メディファスを……? それならニーラクの近くにある遺跡の奥じゃが……」


「遺跡の中に行けばどこか分かる?」


 彼女、めりにゃんは少し考えてから

「おそらく分かると思うのじゃ。道を忘れていたとしても魔力源を辿る事で案内する事はできるじゃろう」

 と言った。


「それなら話は早い。ニーラクに行くよ」


 ニーラク……って、どこ?


 サクラコさんの方を見ると、彼女も顔を横に振っていた。


 カエルさんも同じく。


「なんじゃお主らニーラクの場所わからんのか? だったら儂が転移で連れていってもいいんじゃが……」


「転移って転移アイテムをこの人数分用意できるのか?」


 それは有りがたいけどちょっと気が引けるなぁ。転移アイテムっていったらかなり高額だよね? 通信アイテムとかも常備してるような人達だからお金はあるのかもだけど……。


「んにゃ? このくらいの人数ならまとめて転移魔法で移動できるじゃろ」


「なん……だと?」


 サクラコさんがめちゃくちゃオーバーリアクションで驚愕してる。


「そんなにすごい事なの?」


「プリン……お前世間知らずとは思っていたが……まぁいい。転移魔法を使える人間というのは基本的に自分、及び手荷物を運ぶのが精いっぱいなもんだ。高名な魔法使いでも二人、さらに言うならどんなに才能に溢れた人間でも五人が精いっぱいだろう」


「そうなの? でもアシュリーだって十人くらいいけると思うけど」


 サクラコさんの講釈にショコラがぼそっと相槌を打ったが、それに再びサクラコさんが顔を歪める。


「アシュリー……? それは大賢者アシュリーの事を言っているのか? お前の交友関係いったいどうなってやがんだ……いや、そういえばアシュリーも勇者の仲間だったか……つくづくプリンがとんでもない奴だったってのが分かるぜ……」


「セスティが凄いのは当然なのじゃ♪ ……わしとアシュリーに関して簡単に説明するならあやつはハーフエルフじゃから人よりも魔力量が明らかに高い。それに儂は魔物の王族じゃから右に同じ、というところじゃな」


 めりにゃんが魔物の王族……?


「待て待て。魔物の王族ってなんの冗談だよ。このお嬢ちゃんいったい何者なんだ?」


「え、魔王だけど」


「ばっ、馬鹿言うなよ! この子が魔王だと!?」


 魔王めりにゃん。響きが可愛すぎてなんていうかもう。


「誤解じゃ。わしは元魔王じゃよ。今は儂よりももっととんでもないのが魔王やっておる」


「そーいう事」


 ショコラのダメ押しにサクラコさんが完全に沈黙した。


「とりあえず話はまとまったかのう? だったらニーラクまで転移するのじゃ」


「まって、その場合馬車はどうするの? こんな所に放り出すのはかわいそうだよ」


 御者の人にもお世話になったし、さすがにここに一人取り残すのはなぁ。


「セスティは優しいのう。しかしそれなら問題ないのじゃ。馬車ごとニーラクへ行くのじゃ♪」


「馬車事だと!? そんな非常識な……」


 サクラコさんってば自分があんなに非常識なくせにそういうとこだけ真面目なんだよなぁ。


 そして、次の瞬間、私達は小さな村の入り口に転移していた。

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