ぼっち姫、大人の階段をのぼる。


 私達は相変わらず馬車に揺られ、今度はナランって街にやってきた。


 リャナは露店やお店が沢山あって業者もお客も沢山いてすっごくにぎやかだったけど、ここはちょっと違う。


 凄く大きな街だしお店も沢山あるんだけど、街行く人達はリャナに比べたら少しお上品。


 身なりも綺麗な人が多いし、お店も少し豪華な感じ。


 視界の奥の方には寂れた住宅街も見えるけど。


 多分貧富の差が激しい地域なのかも。


 ここでも宿を取って、一泊する事にした。


 そういえばあの子はまだ私達の後を付いて来ているみたい。

 視線を感じるし、「おねーさまー!」みたいな声がたまに聞こえてくる。


 女の子二人組なのは分かるけど、どうやって馬車に付いて来てるんだろう?

 まさか走って追いかけてきてるのかな?


 あの子だったらそれくらいできそうだけどね。


 ナランの入り口でも許可証を見せたらあっさり通る事が出来た。

 カエルさんの事を警備の人が訝しんでたけど、王の発行した書類にケチをつけるような人は居なかった。


 私は宿を取ったあと、一人で街をぷらぷら散歩してみたんだけど、ここで私の事を知ってる人は見つからなかった。


 大きな街だけど、その分私の事を覚えてる、って人はなかなか見つからない。


 だけどちょっとだけ興味深い話を聞けた。


 以前この街では金融業してる人達が裏でやってた闇カジノみたいなのがあったんだって。

 そこで人身売買とかのオークションとかがあったんだけど、騎士団がその組織を摘発してお縄になったから平和な街になったとかなんとか。


 その一件に私も関わってるかもしれないなぁなんて思いつつ、騎士団の人が居る訳でもないから誰にも確認とれないし、勿論それ以上の情報は集まらなかった。


 仕方ないので情報収集は諦めて、いろんなお店を見て回ったりして一日を終える。


 宿屋に戻って部屋でくつろいでると、窓をコンコン叩く音が聞こえたので「どーぞ」と声をかけると、案の定あの子がにゅるりと部屋に入ってきた。


「なんで君はいつも窓からくるの?」


「私は忍。隠密は基本」


 ふ、ふーん。そうなんだ?


「うちのニンジャマスターは全然忍んでないけど」


「ししょ……あの人は特別。変人だから仕方ない」


 変人って……てかこの前もししょ……って言ってたけどもしかしてこの子って……。


「サクラコさんの弟子なの?」


「……答える義務ない」


 その反応だけで十分ですはい。

 彼女はそれ以上聞くなと言わんばかりに鋭く睨んできたので、追及するのは辞めておこう。


「どう? 何かメディファスを直す方法見つかった?」


「うーん。とりあえずサクラコさんはエルフに会いに行って話を聞こうとしてるみたいだね」


「エルフ……あいつらなら、大丈夫か」


 やっぱりこの子何か知ってるなぁ。

 聞いても無駄っぽいから聞かないけどさ。


「今のところそれしかないかもね。早く記憶取り戻してよ。そうじゃないと私もどうしたらいいかわからないから」


「だったら思い出す為に私の事いろいろ教えてくれたっていいじゃん」


 少女はちょっと困った顔をして、「それは無理」と言った。


「自分でなんとかして。出来るだけ早く」


 そんな無茶苦茶な。


 ガチャッ。


 急に私の部屋の扉が開いた。


 誰……?


「あ、なんだサクラコさんか。どうしたの?」


「いや、別に……話し声が聞こえた気がしたんだが……」


 鋭い。てかあの子どこ行った?

 一瞬で消えるとか凄いな。さすが忍者。


「気のせいじゃないかな? 窓開けてたから外の声でも聞こえたんじゃない? あと次からノックくらいしてよ」


「ん……そうだな。すまんすまん。……そうだ、あたしちょっと飲みに行ってくるからよろしくな」


 そう言ってサクラコさんはドアを閉め、街へ繰り出していった。まだ外は明るいっていうのに。


 お酒飲まないと死ぬのかな?


 とりあえず私はなんだか疲れちゃったから少し休もうとして布団に潜り込んだんだけど……。


「おい、こんなとこで何してんの?」


 布団に潜り込んだら、あの子が居た。


 え? 布団別に盛り上がって無かった気がするけど?


「急に師匠が入ってくるから慌てて隠れた」


 だからなんで布団の中に隠れるのさ。窓から出て行けばよかったじゃん。


「……くっ、我慢……」


 布団の中を覗き込むと、少女が何かうめき声をあげて苦悶の表情をしてる。


「ちょっとどうしたの? 具合悪いの?」


 そう声をかけると少女は仰向けになって服を捲った。


「ちょ、いったい何してるの?」


「持病が……我慢できないからさすって……」


 さすれって言われても……まぁ辛そうだしそれくらいでいいならしてあげたっていいけどさ。


「こうでいいの?」


 私は彼女のお腹のあたりを撫でてみる。


「う……もうちょっと、上……」


 はいはい上ね。


「この辺?」


「もっと上」


「……ねぇ、もっと上ってもう胸しかないけど?」


「それでいい」


 ……ん? んん??


「ぐ、具合悪いならお医者さんを呼んでこよう!」


 危険を察知した私は起き上がり、部屋を出ようとした……んだけど、急に腕を掴まれて変な方に曲げられて身動き取れなくなった。


「かっ、からだが……うごかない!?」


「……あぁ……もう無理」


「ちょ、ちょっと!?」


「我慢できない。貴女が悪い。全部」


 待て、待て待て待て私何も悪くないじゃん!


 何故か全く身体が動かせなくて逃げられない。

 彼女は私に覆いかぶさって、上から布団を被った。


「いただきます」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 キャンディママ。

 私は今日、大人になってしまうかもしれません。

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