ぼっち姫、悲しい現実に嘆く。


 バァァァン!!


 と、凄まじい勢いで私の部屋のドアが開け放たれる。


「やべっ」


 私を拘束する手を放し、少女が慌てて布団から飛び出すが、部屋への闖入者はそれを見逃さない。


「おっとぉ……最近プリンの様子がおかしいとは思っていたがこういう事だったのか。張ってて正解だったな。もう逃がさねぇぞ」


 部屋に乱入してきたのはサクラコさんだった。


 彼女は、逃げようとする少女の腕を素早くつかみ上げ地面に組み伏す。


「どういう事なのか聞かせてもらおうか……ショコラ」


 ……ショコラ!?


 え、ショコラって言ったらあれだよね?

 確か、ショコラ・セスティ。

 ……私の妹じゃん。


 てか、え? どういう事なの?

 なんで私妹に襲われてたの??


 そうか、考えてみればサクラコさんの弟子って時点で気付くべきだった。

 私の事も知ってたみたいだし、十分気付く事は出来た筈だ。


 あまりにこの少女が私に対して距離を取ってたからその可能性を頭から除外してた。

 とはいえ、やっと距離を縮めて来たと思ったら一気に縮めすぎで私はあやうく大人の階段上っちゃうところだった。あぶないあぶない……。


「ぐぅ……」


「おい、うめいてないでちゃんと説明しろ。お前今までどこに行ってた? それとここで何してやがった」


「ぐ、ぐぬぬ……言えない」


「いい度胸だ。ちょっとこっちこい」


 サクラコさんはショコラの襟元を掴み、引き摺って部屋から出て行った。


 そうだった。サクラコさんはショコラを探しに出て来たんだもんね。


 目当ての彼女を見つけたらもう帰っちゃうのかな?

 でも私もショコラには聞きたい事いっぱいあるんだよなぁ。教えてくれないみたいだけど。


 そもそもなんで私の妹だったら私を襲うの?

 その時点でちょっとおかしくない?

 それに妹だったら尚更いろいろ教えてくれたっていいじゃん。私の記憶戻った方が都合いいよね?


 自分で思い出せって言ってたけど……分からないなぁ。


 ほどなくしてバタン! と他の部屋のドアが閉まる音。サクラコさんが自分の部屋に連れ込んだんだろう。


 その後はなんていうか耳を塞ぎたくなる感じと言えばわかりやすいだろうか。


 いろんな意味で凄い声が宿中に響き渡って、三十分くらいした頃サクラコさんが再びショコラを引きずって帰ってきた。


「まったく手こずらせやがって……」


「く、薬使うのは……卑怯」


 ショコラは目と口からだらだらとだらしない液体を垂れ流しながら私の部屋に放り出されて転がっている。


 何があったのかは考えたくないけれど、一歩間違えば私がこの子にこうされていたのかと思うと恐怖しかない。


「卑怯も糞もあるかお前が暴れるから仕方なかったんだよ。お前を自由にしてたらあたしの方が危なかったぜ」


 この二人の歪んだ師弟関係とかはどうでもいいんんだけどさ、私にもちょっと説明してほしいよね。


「で、サクラコさんは何か聞けたの?」


「んー? あぁ、まぁな」


 急に歯切れが悪くなって顎をポリポリやり始めた。

 なんだか言いたくない事だったのかなぁ。そういう態度とられると気になるし、ある意味怖いからやめてほしいんだけど。


「あたしとしてもよく分かんねえんだよ。とにかくこいつが言うにはプリンの記憶さえ戻ればいろいろはっきりするって言うんだけどよ」


「でもそれをショコラ本人は私に教えてくれないんでしょ?」


「……うぅ……」


 返事するのも無理なくらい大変な有様のようだ。

 ちょっとだけかわいそうになってくる。

 けど、私にあれだけの覚悟をさせたのだからこのくらい当然の報いだと思う。


「結局のところプリンの記憶取り戻さないと何も始まらないから、予定は変わらずエルフの森に行くって事でいいだろ」


 どうやらサクラコさんは私の記憶が戻るまでは付き合ってくれるみたいだ。


「お前にも来てもらうからそのつもりで居ろよ?」


「……わかった」


 ショコラがゆっくりと身体を起こし、まだすこしとろんとした目でそう言った。


「結局のところさ、このショコラって本当に私の妹なの?」


「……プリン・セスティは私のお兄ちゃん」


 どうやら間違いないらしい。


「じゃあお兄ちゃんなのになんでこんな外見になってるのか教えてもらえる? それも教えてくれないの?」


「……それくらいならべつにいい」


 ショコラは立ち上がって、私の部屋のベッドに腰かけるとゆっくり話し始めた。


「お兄ちゃんは神様に喧嘩売ってお姫様と身体を入れ替えられました。おわり」


「……はい?」


 私の聞き間違いかな? というか説明短すぎない?


「おいプリン……お前ってやっぱり男だったのか……」


「サクラコさん、ちょっと待ってちょっと待って! お姫様ってどこの!?」


「ローゼリア」


「神様に喧嘩売ったって……あぁ! あの時のあの野郎か!?」


「この前貴女が神と戦ってる時、私達は結界に閉じ込められてた」


 なんてこった。あの時すぐ近くに私の仲間が居たらしい。


 ローゼリアの姫の身体……それって、あの神様が言ってたのはそういう事だったのか。


 あの時、奴は言った。

『ここはローゼリアという国でね、君はここで生まれたんだ』


 それと、ローゼリアが私の故郷であるとも言えるし違うとも言える。


 そんな曖昧な言い方だったのはそれが原因か。

 私の身体の生まれ故郷。

 中身の生まれ故郷は別の場所……やっぱり中身の私はキャンディママの息子で、女の子の身体に入ってるだけなんだ。


 確定すると結構凹む。

 いや、かなり凹む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る