絶望戦士は駆逐したい。


 俺の剣から噴き出す炎はそれなりの威力があるが、それは炎と剣の合わせ技あっての事で、炎だけで攻撃する場合致命傷とまではいかない事が多い。

 特に相手が魔族であればなおさらだ。

 だから少しでも効果が出るように突き刺した剣先から体内に向けて炎を出したのだ。


「い、痛いっ!! いだいぃぃぃっ!! 焼けるぅぅぅっ!!」


 思わずロンザを放し、身体をぐねぐねと激しく悶えさせながらセンチペイドが暴れ狂った。



「ぎゃああっ!! 燃える! 燃えるぅぅ!!」


「ロンザ、落ち着け。お前は何ともないだろうが!」


「えっ? ……あ、ほんとだ」


 気付くのがおせぇんだよ! 


「コーべニア!」


「了解です! くらえっ! 最大火力爆炎上等ビッグメンチっ!」


「キサマ……許さん、絶対に、ゆる……えっ?」


 センチペイドが気付いた時にはもう遅い。


 コーべニアのこの魔法だけは本物だぜ?


 奴が空を見上げて呆然としている間に俺はロンザを思い切り蹴り飛ばし、俺自身もそこから退避して木の陰に隠れた。


「えっ、えっ!?」


 それがセンチペイドの最後の言葉だった。


 奴の頭上五メートル程度の場所に、コーべニアの魔法で巨大な火球が現れ、まるで圧殺するかのようにセンチペイドの身体は押し潰され、焼かれるというよりも蒸発して消えた。


 火の勢いはそれだけでおさまらず地面を抉り、大地の水分までも蒸発させカピカピのクレーターを作っていた。


「ま、まさか俺ごと燃やすなんて……」


「お前には加護かけてもらったから別に熱くなかっただろうが」


「熱くなくても怖いもんは怖いんですよ!」


「……結果オーライってやつだよ」


 ロンザは一瞬とても情けない顔をしたが、すぐにいつもの元気を取り戻しケラケラと……いや、ゲラゲラと大声で笑った。


「ハーミットさまぁっ!!」


「ぐおっ!?」


 急に俺の背中にヒールニントが飛びついてきたので足がもつれてぐしゃっと地面に倒れた。


 村の中でやられた時と状況は似ているかもしれないが今回は俺が顔面から地面に突っ込んだ。


「ぶはっ! ……おい、さっさとどけ」


「わ、私ったらごめんなさい!」


「それにコーべニアはどうした」


 コーべニアの使う高火力魔法は、完全に身の丈に合わない威力の魔法であり、その代償が長い詠唱と、使用後しばらく身体が麻痺する事。

 しかも広範囲系と言えるほど範囲が広いわけではないので複数の敵がいる時に使ったら完全に自殺行為だ。


 なので、今頃麻痺して動けないはずなのだが。


「コーべニアならあっちの木の影で倒れてます」


「おい。さすがにその状態の仲間を放置してくるなよ……」


「あっ、それもそうでしたね!」


 まるで盲点だったと言わんばかりに眩しい笑顔を向けられて思わず目を逸らしてしまった。



 まったく、こいつらは……。


 ロンザがコーべニアの身体を支えながら木陰から連れ出してきた。


「おいお前ら」


 俺の言葉に皆がキョトンとした顔で振り向く。


 う、そんなにまっすぐ見られると言いにくいんだが……。


「ハーミット様どうしました?」


「まぁ、その……なんだ。……これからも、よろしくな」



「今の、聞きましたか……?」


 驚いたようなヒールニントはまだいい方で、残り二名は目玉が飛び出そうな感じになっていた。


「聞き間違い、じゃないよな?」

「ロンザの耳が悪いわけじゃないみたいです。ボクにもちゃんと聞こえました……」


「なんだお前ら……俺がよろしくって言ったのがそんなにおかしいのかよ」


「いえいえ♪ みんな嬉しすぎて困惑してるだけですわ♪」


「……まぁいい。とりあえず村へ戻って報告するぞ。それと……」


 俺はムカデが最初に居たあたりの草を剣で切り払い、注意深く探してみると、ぽっかりと地面に穴があけられ、その中に産み付けられた大量の卵を発見した。


やはり腹に抱えてたので全部じゃなかったんだな。


「こいつも処分しておかないとな」


 剣先でつつくと卵は柔らかく、ぷるぷると震えた。中で何かが蠢くような気配がある。


「うっわ……マジでもう少し遅かったらこいつらが……」


 俺の背後から覗き込んだロンザが顔を青くして呟く。



 俺達は奴の卵を焼き払い、村へと戻って森にいる魔族を討伐し、卵も始末したと報告したところ、村長が報酬を出すと言い出した。


「おいおい。見たところこの村はそんなに裕福なわけじゃないだろう。俺等に報酬出す余裕があるならてめぇらの食いぶちをどうにかする事を考えとけ」


「なんと……この村の脅威を救って下さったばかりか今後の事まで心配して頂けるとは……」


「別にそういう訳じゃ……」


 まったくこのジジイは妄想癖か何かなのか? こっちは好きで魔族を殺してるだけだっていうのに……感謝なんかされるとその為にやってるみたいで気分が悪い。


 ……というより、感謝される事に罪悪感を感じているだけかもしれないが。


「本当に大丈夫ですよ♪ 私達の勇者様は皆が幸せならそれでいいんですから☆」


「おい、何を勝手な事を……」


「そうだぜ! 勇者ハーミットさんはちょっと口が悪いけど困ってる人を見過ごせないだけだからな!」


「この赤鎧のいう事はあまり本気にしないでほしいところですが、ボクも彼が勇者である事は保証しますよ。この村はもう大丈夫、安心してください」


 おいおい。そうやって俺を勇者に担ぎ上げるつもりなのか……?


「……なんと! 最近勇者様の話はとんと聞こえてきませんでしたが……なるほど、確かにそういう事ならば納得ですな。新たな勇者様が誕生していたとは……勇者ハーミットに祝福あれ! 我々はこの御恩を忘れる事はありません! どうか、せめてお食事だけでも出させてください!」


「いや、俺達はそういうんじゃ……」


「ハーミット様、こういう時は相手の面子ってのも考えてあげるべきですよ♪」


 そう言ってヒールニントがにっこり笑う。また俺の顔を覗き込む形で。


 ……はぁ。


 俺は頭をかきながら大きなため息をつき、諦める事にした。


「仕方ないな。簡単な物でいい。朝もらった握り飯も美味かったからな」

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