絶望戦士は燃やしたい。
まずはロンザが、重たそうな鎧が出来る限り音を立てないように忍び足で進む。
これは最初聞いた時俺も驚いたのだが、奴のスキルの中には消音という物があり、自分から発する音を外部に漏らさないという内容だった。
自分の身体の外側に薄い膜のような物を張り巡らせ、それ以上外に音が漏れないようにするのだとか。
それは自分が踏んでしまった枯れ木にすら適応される。
その膜の内側で発生した音は、外に広がらない。
しかしその膜を張る範囲というのはかなり狭いらしく、油断すると鎧の隅の方から音が出てしまう事があるらしい。
だったらそんな鎧脱いでしまえと思うのだが、あの真っ赤な鎧は奴のトレードマークのような物らしく、他の物にする気はないらしい。
そういえば姫の妹のショコラも隠密というスキルがあった気がする。
あちらの性能を詳しく知っている訳ではないが同じような効果なのかもしれない。
盗賊か暗殺者向けのスキルをこんな戦士が持っているというのは不思議だが、確かに奇襲作戦にはもってこいだろう。
少し離れた場所からロンザがこちらに手を振るのが見えた。
ターゲットを確認した合図だ。
そして、ロンザの姿が見えなくなる。
おそらく魔族に飛び掛かっている所だろう。
「よし、俺達も行くぞ」
小声で二人に告げ、俺達も音を立てないようにゆっくりとロンザの居た方向へ向かう。
すぐに聞こえてくる戦闘音。
どうやら一撃で始末する事には失敗したようだ。
油断していたとはいえ相手も魔族。そう簡単にはいかなかったという事だろう。
ならば次は俺達の番だ。
「……!」
ヒールニントが俺に無言の合図をする。
木々の向こうでぶよぶよとした半透明のムカデがいた。
「キサマ何者だ! 俺の縄張りを荒らす不届き者め! 容赦はしないぞ!」
「お前は魔族だな? 成敗してくれる!」
そんなやり取りが聞こえてきた。時折身体をくねらせている様子が木々の隙間から見える。
「いかにも! 俺は魔族のセンチペイド様よ! 俺様の縄張りに入ったからには生きて帰れると思うなよ……!」
「センチだかインチだか知らねぇが紅の聖騎士ロンザ様が引導をわたしてやるぜ!」
「人間の癖に生意気な……しかし丁度いい。俺も産卵後で腹が減ってたんだ」
「うげっ、それ卵かよ……てかお前メスか!?」
「どう見ても女だろ失礼な奴め! お前はまずそうだから俺が食ってやる。……この子らにも早く食わせてやりたいぜ」
……なるほど。
目撃証言はあるけれど実害が無かったのは産卵の為だったのか。
しかしもう少し遅かったらこんな奴がわらわら増えて、あの村なんて一瞬で潰れてしまうだろう。
「残念だがお前の子供は生まれてくる事は無いぜ! くらいやがれ!」
ロンザが両刃の剣を振りかぶり、思い切り振り下ろすが、ぶにぶにの表皮に弾かれてしまう。
「畜生、なんなんだお前! だったらこれでどうだ!」
今度は切る、のではなく突く攻撃に切り替える。
「いでっ! キサマ……俺の肌に傷を付けたなぁぁぁっ!!」
センチペイドとかいう魔族が長い身体でロンザに巻き付き、その身体を締め上げ始めた。
「ハーミットさん! ロンザのやつヤバいですよ!」
コーベニアが焦りだすが、奴のタフさは知ってる。まだ大丈夫だ。
「ヒールニント、ロンザに魔法防御をかける準備だ」
「え、物理じゃなくて魔法の方ですか?」
「早くしろ」
「は、はい!」
「コーべニアは魔法の準備。高火力の方だ。準備が出来たら教えろ」
「ま、まさかロンザごとなんて言いませんよね?」
「早く!」
ロンザの限界が来るまでに準備を終えないといけないのにこいつらときたら……。
俺達は準備をしつつロンザ達との距離を詰める。
ロンザがバカでかい声で「ぐあぁぁぁぁっ!!」と悲鳴を上げてくれているおかげで俺達の事はまだ気付かれていない。
しかしこの魔族、ローゼリアに山ほどいた奴等よりよほどデカい。
ロンザの身体をぐるぐると締め上げながらもまだまだその身体は余っていてうねうねと蠢いている。
ロンザの鎧はよほど丈夫なのか、かなり持ちこたえてくれているがミシミシと嫌な音が聞こえ始めた。
「準備できました!」
「僕も大丈夫です!」
「よし、コーべニアは待機、ロンザとムカデ野郎が離れたらぶちかませ!」
「ヒールニント、今すぐ魔法防御の加護だ!」
「はい! かの者に耐魔の祝福を!」
ヒールニントが祈りを捧げるとロンザの身体がぶわりと光る。
これでロンザは身体強化、ダメージ軽減の加護と魔法防御特化の二種類の加護を受けた状態になった。
よし、準備が整った! もう少し待ってろよ!
センチペイドはヒールニントの祝詞でこちらに気付いたようで、身体の余っている部分を振り回しこちらを攻撃して来た。
俺が木の影から飛び出し注意を引き付け、迫りくる奴の身体を魔剣の腹でじゃりじゃりと受け流しながら懐まで飛び込む。
そして、ロンザに巻き付いた奴の身体に思い切り魔剣を突き刺した。
ぶにっとした体に押し返されそうになりながらなんとか切っ先だけは突き刺さる。
「いっでっ!! キサマぁぁぁっ!!」
「ダメですハーミットさん! こいつ剣の攻撃じゃ……」
ちょっと刺されば十分なんだよ!!
剣先から全力で炎をまき散らすと、センチペイドとロンザが同時に悲鳴をあげる。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」
お前まで騒ぐなよ。センチペイドよりもロンザの声が耳と頭に突き刺さった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます