絶望戦士は勘弁してほしい。


「おい、お前大丈夫なのか?」


「だ、だひびょうぶべふ」


 全然大丈夫に見えねぇんだが……。


「乙女の大事なワンシーンを邪魔したんだらこれくらい当然の報いなのです!」


「あ、あの……何かあったんですか?」


「コーべニア、知らなくていい事もあるんだ。聞かないでやってくれ」


 本当にこいつらにぎやかだなぁ。

 不思議と昨日までの嫌悪感みたいなのは消えてしまった。


 むしろ懐かしさすら感じる。


 あの後この村、ドードリーという村の村長に会い、握り飯を恵んでもらった。

 一応この恩は魔族討伐という形で返してやろう。


「聞かないでやってくれ、じゃないですよハーミット様! もとはと言えば貴方がすぐに言ってくれなかったからこんな事になったんですからね!」


「お、おう……すまん」


「まったくです! ……これはもう本当に勇者様になってもらうしかないですね!」


 それはお前にとってって意味だった筈だろう?


「俺が勇者になるなんて……」


「いやいや。王都の奴等はきっと今頃新しい勇者の誕生に湧き上がってる頃ですよ」


「ちょっと待て。どういう意味だ?」


「それが、ロンザのやつ王都でハーミットさんが魔族やっつけた時に周りの人達に言いふらしてたんですよ。彼こそ新しい勇者だ! って」


 おいおい、勘弁してくれよ……。


「俺が勇者ってガラかよ」


「いいと思います! 私、絶対ハーミットさんみたいな人が勇者をやるべきだと思ってますから!」


「俺もそうです! こんな根性無しの俺達をここまで引っ張ってくれたハーミットさんが勇者に相応しいです!」


「……確かにボクもそう思います。あれだけの魔族を討伐しているのですから間違いなく人々に貢献している筈ですしね」


「……お前らなぁ……。そもそも勇者ってのはさ、自分で言うんじゃなくて周りが自然にそう呼ぶようになるもんじゃねぇのか?」


 そういえばあの勇者リュミアはどうだったんだろう。

 姫が勇者だって呼ぶくらいなんだから勇者としての素質に溢れていたんだろう。


 だとしたらいったい今どこで何をしてるんだよ。

 今こそ立ち上がる時じゃないのか?


「だったらやっぱりハーミット様が勇者だと思いますよ♪」


「なんでだよ」


「一番近くにいる私が……いいぇ、私達がそう思っているからです」


 ああいえばこういう理論でこいつらの中では俺が勇者として出来上がってしまっているらしい。


「……もういい、勝手にしろ」


 こいつらに付き合っていたら本当に勇者にされてしまいそうだ。


 だけど俺が反論したところでこいつらの考えは変わらないんだろう。

 だったら放置が一番いい。


 そのうち飽きるだろうし、そもそもこんな奴等のたわごとをいったい誰が信じるっていうんだ。


 放っておいてもおれが勇者になんてなる筈がない。


「下らねぇ事言ってないで飯食い終わったら森へ行くぞ」


「「「はい!」」」



 俺達がドードリーの村を出て、近くにあるランディの森へ踏み入れる。


 村からはほんの数百メートル程度の距離で、村人はここで山菜を取ったり動物を狩ったりして生活しているようだ。


 それが魔族の出没でここに来る事がなかなかできなくなってしまうのだから死活問題だろう。


 ここはかなり辺境の地なので恐らく他の街や村などと交流、物流などを行う事自体が少ない。


 早めになんとかしてやらないとな。


 ……そこで自分の違和感に気付く。


 俺は自分の為だけに戦っていた筈だった。

 それが今何を考えていた? 早めになんとかしてやらないとな?


 ……本当にどうかしてしまったようだ。


 姫の夢にほだされたのか。

 それとも馬鹿共の能天気さにやられてしまったのか。


 それは分からないけれど、自分でも特に意識せずに何かが変わりつつあるのかもしれない。



 それがいい変化か悪い変化かは分からないけれど、流れに身を任せよう。


 無い頭で考えたってしょうがない。

 そうだろ? 姫。



 俺達は周囲に警戒しながら森の獣道を進む。

 一応ある程度人の通る道は整備されているのだが、それを通っていたら襲って下さいと言っているような物なので、気配を消して敢えて獣道を進む。


「お前ら、常に周囲の物音、気配を警戒しながら進めよ」


 一度振り向き、俺の後ろからついてくる三人に小声で告げると、皆無言で頷いてそれぞれが別の方向を確認する。


 わざわざ言うまでも無かったな。


 こいつらは本当に出会った頃に比べると成長したと思う。

 まだまだ個人の戦力自体は未熟だが、三人揃えばそれなりの結果を出せるようになっているし、本当に当時の俺よりは余程役に立つだろう。


「……ハーミットさん、前方斜め右方面、およそ四十メートルほどの位置に強力な魔力反応があります……ボクの予想では……」


「魔族、か?」


 ほら。

 コーべニアはこういう俺には絶対分からない事を気付ける力があるし、意外と器用なのだ。


「奇襲を仕掛けるぞ」


「だったらまず俺一人で行かせて下さい」


 ロンザも、以前は虚勢の度胸だったが今ではそれがきちんとした勇気になっている。


「まず俺が奇襲しますんで、それで仕留めればよし、ダメなら俺が注意を引き付けている間に皆がさらに奇襲してください」


「だったら私が皆さんに加護を……」


 ヒールニントが口早に呪文を……というよりも祝詞に近い言葉を唱え、俺達の身体が軽くなる。


 彼女の加護は身体能力強化全般に加え、ある程度のダメージを無効化する障壁を身体の周りに張り巡らせる事が出来る。


 命のやり取りになってくるとこの微々たる差が大きな決定力になったりするものだ。


「よし、お前ら……戦闘開始だ!」

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