第六章:明と暗。

魔王様と幼女ともふもふ。


 結局のところ何がどうなったんだろう。

 状況を整理してみよう。


 神が現れて私達は戦ったけれど完敗だった。

 手も足も出ないとはまさにこの事だろう。

 そしてアシュリーの……という言い方は辞めよう。

 私達の仲間だったメリーがさらわれた。

 そして、私の中に取り込まれていると思われていた姫という人が現れた。


 私の中には居ない?

 ちょっとその辺の事はよく分からない。


 ショコラが持っている鏡は、所有者が見たい相手の姿を投影する事が出来る為居場所が分かる筈だったのだが、どうやらそれは機能していないらしい。


 もしかしたら神が何かしたのではないか、とアシュリーは言っていたけれどそれだとあの時神が不思議がっていた理由が分からない。


 ショコラは何かを私達に隠しているような気がする。


 どうせ聞いたって教えてくれないだろうから気にしないようにするけれど。


 私にとってそこまで必死に知るべき事でもないんだろうけれど。


 けれどけれど。


 でも、何かひっかかる。

 あの姫って人。


 私は、確かに見た事がある。

 自分と同じ顔だから、とかじゃない。


 姫を、見た事がある。

 きっとこの予感は本物だろう。


 胸の奥で何かがざわめくのを感じた。

 あの顔、あの髪、あの身体、あのドレス、あの剣。


 全て、見た事がある。


 戦ったから?

 そうかもしれない。


 私の中にそれだけ強く焼き付いている。

 記憶が無くなっても未だ、間違いなく知っていると感じれる程の存在。


 私は今更ながら姫という人に興味がわいた。


 プリン・セスティ……。

 ショコラ・セスティの兄であり、姫としての外見を持つ。

 アーティファクトと同化した精神を宿している……。


 それ以上の情報は知らないけれど、もっと知りたい。


 ヒルダさんやナーリアちゃんがあそこまで必死に取り戻したいと願う相手。

 会って話がしてみたい。


 叶うなら少しばかり戦ってみたいというのもあったりする。


 みんなは、とくにナーリアちゃんは反対するだろうけれど……きっと相手を一番良く知る方法だって気がする。


 頭がだんだん筋肉になってきてるんじゃないかと心配になったけど、私が魔王だって事を考えるとこの本能は自然なのかもしれない。


 神と戦ったあといろいろな事が起きた。

 何から整理していくべきか……。


 とりあえず時系列順で考えていこう。


 まず、私達はそれぞれ別行動をする事になった。

 といっても今までみたいなバラバラじゃなくて、アシュリー特製の通信アイテムを持たされているから連絡を取る事は容易い。

 そして、これもアシュリー製なのだけれど転移アイテムも配られた。


 アシュリーが各地で何やらよく分からない粉を撒いてきてるとの事で、ある程度の主要都市には一瞬で移動できる。


 これで連絡をとりながらすぐに合流する事も可能だ。


 その上で、各自が各自の思惑で動いている。


 まずショコラが私達から離脱した。

 調べたい事があるからと言ってどこかへ行ってしまった。


 慌ててシリルは後をついて行ったけれど。


 そしてナーリアちゃん、聖竜、ヒルダさん、アレクさんは魔物フレンズ王国へ。

 これは私も案内をしに同行した。

 私は他にやる事があったのですぐに出てしまったけれど、今頃王国でゆっくりしている頃だろう。


 そして私とアシュリー、ライゴスさんはここ。

 ライゴスさんが出会ったという病に侵された少女の元へやってきた。


 別れ際にアシュリーがショコラから何かを借りて来たらしく、それがあれば少女を治せるかもしれないというので三人でやってきたわけだ。


「それで? あそこに見える家にその子供がいるの?」


「そうである。しかしアシュリー殿、本当に治す算段がついたのであるか?」


 ぬいぐるみがそわそわする様子というのはっ結構楽しいというか可愛らしいというか。

 誇り高き元幹部の戦士にそんな事言っちゃかわいそうだけれど。


「その可能性がある道具を手に入れた。あとはメア次第だよ」


 えっ、私??


 ……そっか。そうだったそうだった。

 その少女の身体の病に侵されている部分とまったく同じ物を複製して体組織を入れ替える。


 その重要な仕事を私がするんだった。


 今更緊張してきた……。


「わふっ! わふっ!!」


「うっうわぁぁぁぁっ! やめるのであるっ! やめるのであるぅ~っ!!」


 突然わふわふ言いながら現れたしろいもふもふにライゴスさんが襲われて連れ去られた。


 まぁ、犬に持ってかれただけだけど。


 その犬は私達が目指していた家に先に到着してこちらを待っていた。


 賢い子だなぁ。

 口に咥えられたままぬいぐるみがばたばたもがいてるのはやっぱり愛らしい。


「しかしシロ、よくぞそこまで元気になったものだ! 我も安心したぞ」


 ライゴスさんはこの白いのとも知り合いらしく、そう言うとなんとか口を逃れ地面に着地した。


 シロと呼ばれた犬は嬉しそうにライゴスさんを舐めまわしている。


「うああっ、やめろやめるのであるっ!」


 そんな微笑ましい光景を眺めていた時だ。



「シロ~? 誰か来てるの?」


 家のドアが開いて、小さな少女が現れた。

 この子が……。


「らいごす君!! らいごす君だぁっ♪ らいごす君らいごす君らいごす君っ♪」


 少女に拾い上げられたライゴスさんは再びジタバタともがくが、少女はお構いなしに思い切り抱きしめると、激しく……激しく、えっと……、うわぁ……。


 私こういうの初めて見たかも。


 でもちっちゃい女の子とぬいぐるみじゃあなぁ。


「やっ、やめ……るので、ある……っ」


「再会のキスはそれくらいにして、お嬢ちゃん、あんたに朗報だぞ。私達がその病気治してやるぜ」


 断言されてしまった。

 私がやるんだよそれ?

 プレッシャーかけないでほしい。


「らいごす君~っ♪ ちゅっちゅっ☆」




「……聞けよ」

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