魔王様と神様の迷惑な期待。
「姫……姫はどこへ……?」
「あいつに聞いた方が早いだろうぜ」
ナーリアちゃんはアシュリーに促されて神を睨む。
「姫を何処へやった!?」
『おやおや。何を怒っているのかな? 君達が頑張ったからご褒美をプレゼントしたというのに』
「うるさい! 何がどうなってるのか全然分からないですが姫が先ほどまでここに居たのは間違いない……今はどこに居るのですか!? 教えなさい! 教えろ!!」
姫の事になるとナーリアちゃんは物凄く感情的になりやすい。
それはよく分かったけれど、ここに居ないって事はどこかに転移させられたって事でいいのかな?
『ふふ……それでこそ彼女をここへ呼んだ甲斐があるという物だよ』
「貴様……ッ!」
「ナーリア!! お前は少し落ち着け。怒りに任せて聞いた所で奴を楽しませるだけだぞ」
『ふむ……君はアシュリーと言ったか。よく分かっているじゃないか。君に免じて少しだけ教えてあげよう。彼女は今までずっと海の向こうの島国にいたのさ。しかし……今はこの大陸に来ているよ。探したければ探すといい』
「随分簡単に教えてくれるんじゃのう……何を企んでおる?」
『君は……元魔王、だったかな? 教えるのは君らにお詫びとお礼……と言った所だよ』
「お詫び……とお礼??」
つい神の言葉に反応してしまった。私は当事者ではないから様子見に徹しようかと思ってたのに。
『……本来このMDはこちらが先に回収する手はずだったのだがね、不手際でこんな事になってしまった。お詫びというのはその件だね。しばらくこれを預かってもらった事と、なかなか楽しませてもらった事のお礼さ』
何を言ってるんだこいつ。
MDっていうのがメリーの事なのは分かるけれど、預かってもらったお礼? ふざけてる。
『まさか回収より先にそちらの大賢者がMDを見つけてしまうとは思わなかったものでね。様子見でしばらく預かってもらった訳だ』
「だったらそのままこちらで引き受けてやってもいいんだぞ?」
アシュリーがそう言って笑う。
でも目は全然笑ってない。
『残念だけれどこれはこの先必要になるのでね。そろそろ回収しておかないとやりたい事も出来なくなってしまうのさ。これに関しては諦めてもらうしかないね』
「これこれこれこれうるせぇなぁ。そいつはもうMDなんてつまらない名前じゃなくてメリーって名前があるんだよ」
『君が付けた名前、だったね。道具に型番以外の名称が必要とも思えないけれど……いいだろう。ではメリーは私は貰い受ける。そして、これは既に私が所有した。短い期間ではあったがメリーとはこれでお別れだと思ってくれたまえ』
「てめぇそいつをどうするつもりだ?」
『残念だがまだ教えられないな。ではメリーとしては最後だからね、お別れの言葉でも聞かせてやるといい』
神が、小脇に抱えたメリーの額に手を当てると、彼女がゆっくり目を開けた。
「ま……ま、すたー?」
「おい、お前はそれでいいのか!? マスターが私だっていうなら言う事を聞け! 帰ってこい!」
「マスター、わた、しを……必要と、してくれる、ん……ですか?」
「うるせぇ! つべこべ言わず言う事を聞け!」
アシュリーが神に向かって杖を振りかざし、何かしらの魔法を唱えようとしたが、再び神が何かをしたらしくまったく身動きできなくなってしまう。
「マスター。私はメリー。マスターのメリーです。また、いつかお肉……食べさせて、くだ……さ……」
『さぁもういいだろう。なに、すぐに再会できるさ。きっとね』
再会って……メリーを洗脳でもして私達にぶつける気なの?
『少なくとも……再会した時はメリーなどといいう名前ではないだろうが』
「ふざけやがって……」
『それと、ナーリアと言ったね、君は姫と呼ばれる彼女に随分ご執心のようだから一つアドバイスをしてあげよう。そこのショコラという人間が持っている至宝を使えば探し人などすぐに見つかるさ』
「それは無理」
意外な事に神の言葉に返事をしたのはショコラ本人だった。
「どういう……事です?」
一瞬パっと明るくなったナーリアの表情は再び曇る。
「私のこの鏡、もうおにいちゃんを映してない」
『む……? そんなはずは……いや、なるほど。そういう事か……そうだね。確かにそれでは彼女の行方を探すのは難しいかもしれないね。ふふふ……では仕方ない……ゆっくりと自力で探してみるといい。また面白い事になりそうだよ』
「待ちやがれ!!」
『いいや、待たないね。またしばしのお別れだ。次に会う時を楽しみにしているよ』
私達はこの途方もない相手に勝てるだろうか?
現に今は手も足も出ずに神を見つめる事しか出来ない。
こんな相手に対してどうしたら??
『そうだ。一つ言い忘れていた事がある。君にね』
そう言って神は私の方へ視線を向けた。
「私に何か用?」
『……用、という程の事でもないがね、彼女は私に想像をこえた楽しみを提供してみせた。君もよくやったが……まだいけるだろう? もう少し頑張りたまえ。……期待しているよ』
そう言って目を細め、笑いながら……。
神は私達の前から姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます