魔王様とどっぺるげんがー。
「お姉様? どうかしたんですの?」
おっ、私以外にもショコラの様子がおかしい事に気付いた人が居たか。
彼女になら話すかもしれないからちょっと聞き耳を立ててみよう。
「……ううん。なんでもない」
シリルに対しても同じように言葉を濁している所をみると誰にも話す気がないのかもしれないなぁ。
私の期待は見事に崩れ落ちた。というかただの好奇心だけれど。
「そうですの? でも……あっ、そうですわっ!」
シリルが何かに気付いたように大声を上げた事で、他の皆がショコラの方へ注目する。
「おい黙れ」
「至宝を使えば外の方の事を見る事が出来ますわよね!?」
「……ちっ」
どういう事だろう? なんだかやっぱり違和感を感じる。
ショコラは自分に注目が集まるのが嫌だったようで、手鏡を床に置いてその場から離れた。
皆がバタバタとその手鏡を囲むように集まり、我よ我よと覗き込む。
私もちょっと気になったので鏡の近くに魔法で空間に穴を開ける。
私の目の前にも同じサイズの小さな穴が生まれ、その中を覗くと空間が繋がっており、鏡に映っている物が見えるって寸法だ。
それにしても私は随分いろんな魔法の知識があるんだなぁ。
全然まったくこれっぽっちも覚えているわけじゃないんだけど、そういう魔法ないかな? って思うだけで、身体の中のアーティファクトから引き出しを開けるみたいな感じで情報が降りてくる感覚。
多分いろんな事を記録しておくようなアーティファクトなんだと思う。
これに登録されてるって事は私は以前よほど多彩な魔法を使える魔王だったのだろう。
と、自分の事は今はどうでもよくて、姫って人の事を見てみた。
「やはり姫です!」
「マリスのドレスとメディファスまで持ってやがるって事は間違いなく姫だろうな……」
鏡には可愛らしい赤いドレスを身に纏った金髪の女の子が映っていて、その顔は……。
「……は? 私じゃん」
どういう事??
私とこの姫って子の顔が一緒??
は? え?
似てるってレベルじゃないんだけど。
ドッペルゲンガーかなって勢いで同じ顔してる。
私より胸は貧相だけど。
胸は貧相だけど!
私と関係ある人なのかな?
でも皆そんな事言ってたっけ?
「どういう事だ? その姫とやらはそこの魔王と同じ顔ではないか」
聖竜さん! 偉い! せいちゃん偉い!
私が聞きたくても聞けない事をさらっと聞いてくれてめっちゃ助かる!!
「あぁ……それか。気にするな、と言いたいところだが……」
アシュリーはなんだかあまり言いたくないみたい。
こっちをチラチラ見ながらどうしようか迷ってるようだった。
「あぁ、それなら元々その身体を使ってたとかなんとか言っておったな。今のメアの身体はセスティの物じゃが、以前使っておった身体の外見に作り直したと言っておったのじゃ」
ヒルダさんも鏡の方へ歩み寄りながらそんな説明をしてくれた。
私が、以前はこの女の子の身体の中に?
どういう事?
悩む私を見てアシュリーが軽く舌打ちをした。
どうやらあまり私に聞かせたくない類の話だったらしい。なんでか知らないけど。
あ、もしかして私の記憶が戻るような展開を危惧してるんだろうか?
そんなに心配されても今のところまったく思い出せないんだけど。
でも、思い出せなくても知ってる。
それだけは分かるよ。
「めりにゃん、結界の方は……!?」
「うむ。もう大体終わったのじゃ。あとは少しすれば勝手に崩壊するじゃろう……もう少し待っておれ」
「流石です! 先ほどは急かすような事を言ってすいませんでした」
「よいよい。それより、話は聞いておったぞ。これは……どうやら本当にメアとセスティは分離しておるようじゃな」
私の中に居ないっていうなら良かった。
ちょっとだけ気が楽になる。
それで許された訳じゃなくても、ちょっとは気が楽になるの当然でしょ?
アシュリーは私に対してちょっと気まずそうにしてるし、ショコラは何か隠してる気がする。
その様子をシリルは不思議そうに見つめていて、ナーリアちゃんとヒルダさんはとにかく姫って人に会いたくてそわそわしてるみたい。
ヒルダさんの上のライゴスさんはもそわそわし始めた。
聖竜さんは冷静にただ時を待っているような感じ。たまにアレクさんと軽い会話をしてるみたいだけど、聞き耳を立てたらなんだか駒とかなんだかを使うボードゲーム? みたいな物の話をしててつまんない。
皆それぞれの思惑が入り乱れてる感じしてなんだかなぁって感じだ。
今一番気持ちが一つになってるのは間違いなくナーリアちゃんとヒルダさんだろう。
「もういいでしょ? 鏡返して」
そう言ってショコラが皆の中心から鏡を回収するのとほぼ同時に、結界がバリン! という音と共に砕けた。
「姫! 私です! ナーリアです!!」
「セスティ! わしじゃっ! どこにおる!?」
崩れ行く結界からいち早く飛び出た二人が姫を探す。
私達も少し遅れて辺りを見渡すが、私の視界には……。
神様以外の人影は見つからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます