魔王様とアシュリーちゃん。
「うわっ、君たちは誰だっ!? リナリーから離れろっ!!」
家の中から男の人が出てきてリナリーと呼ばれた少女を抱きかかえると数歩後ろに下がる。
「随分なご挨拶だな。その娘の病気を治してやろうっていうのに」
「嘘だ! そうやってまた騙すつもりなんだろうが!!」
なんだこの人……初対面なのにめちゃくちゃ疑ってくるんだけど……。
「おねえちゃん……ほんと? 本当に私のからだ、治る?」
「リナリーは黙ってなさい! こいつらはどうせこの前の連中と同じだ!」
うーん。さすがにちょっと私もイライラしてきたぞ。
アシュリーなんてこめかみに血管が浮き上がってきてる感じあるし。
「パパとやら。シロの命を無事につなぎ止め、そしてリナリーをずっと守っていたのだな。だが安心するがいい。この者達は本当に彼女を救える」
「こ、この声はっ!?」
パパって人が慌てた様子でリナリーの抱えたぬいぐるみを見た。
「あ、あの時の化け物!」
「ばけものじゃないもん! らいごす君の悪口言ったらパパの事嫌いになるよ!?」
「り、リナリー……いや、しかし……」
「お主がリナリーの事を大事に思っている事も、我らを信じられない気持ちもよく分かるのである。であるが、彼女を救うために、どうか我々に任せてもらえないだろうか?」
パパって人はライゴスさんとリナリーの顔を交互に見つめ、大きく息を吐いた。
「実は……あの後リナリーにこっぴどくしかられましてね……。しばらく口をきいてもらえなかったんです。……いいでしょう、貴方達を信じる事は難しいですが、娘を信じてみようと思います」
「それなら早くしろよ。私達の気が変わらねぇうちにな」
えぇー? このタイミングで悪態つかなくてよくない? この大賢者さん絶対コミュニケーション能力に問題あるよ。
「……この人は有名な大賢者である。人格にはある程度問題があるが信用できる人物なので安心……できんかもしれんが、まぁ……その……信じてくれ」
「……ほ、本当に……大丈夫、なんですよね……?」
パパさんがすっごく不安そうにしてるので仕方ないから助け船を出す事にした。
「大丈夫ですよ。私達に任せて下さい」
「ま、まともそうな人がいてくれてよかった……」
私がにっこり笑うと、パパさんは少しだけ安心してくれたみたい。
普通私みたいな女が娘の病気を治すって言っても信じられないだろうけれど、ヤバい奴と喋るぬいぐるみの中に混ざった事で心の拠り所が私だけになったって訳だ。
人ってなんと悲しい生き物なんだろう。
憐憫の情を禁じ得ない。
私達はリナリーの部屋に通され、アシュリーがパパさんとライゴスさんを部屋から追い出した。
「な、なぜ我まで追い出されるのであるか!?」
「うるせぇ変態ライオン。そんなに幼女の裸が見たいのか?」
「な、なんだって!? 貴様私の娘をそんな目で……」
「ち、違うのである! 誤解である!! ……くっ、分かった。それならば我はパパさんと別室で待機していよう」
ライゴスさんはしぶしぶ部屋から出て行った。
パパさんはどっちにしてもどうしたらいいのか分からず困惑していたけれど、男同士交流でも深めていておくれ。
「ほら、これショコラから借りてきた勾玉だ。たしかニーサの勾玉とか言ったか。視たい物を見る事が出来る……らしい」
らしいって……じゃあ確認してないの?
そんな曖昧な情報で私に治させようとしたの?
行き当たりばったり感が凄いなぁ……。
まぁ、これでも私魔王ですから?
なんとかしてみせるけどね!
「リナリーちゃんって言ったっけ?」
「うん。おねえちゃんは?」
「私の名前はメアって言うの。こっちはアシュリーね。私達に任せてくれればきっちり治してあげるからね」
「メアおねーちゃんとあしゅりーちゃんね?」
「おい、なんで私だけアシュリーちゃんなんだよ」
「?」
「ちっ。まぁいい……早く診てやれ」
ぷーくすくす♪
って音が出そうなくらい私は今愉快でたまらなかった。
あの偉そうなアシュリーが、お子様に子供だと思われてちゃん付けで呼ばれるとか皮肉が効いてていいじゃないか。
……っと、アシュリーがこっちを睨んでるのでそろそろ始めよう。
「じゃあ始めるわ。リナリー、少しの間おやすみなさい」
私はスリープの魔法でリナリーを眠らせた。
その身体を支え、ゆっくり床に寝かせる。
アシュリーが私の手元に注目しているので少しやり辛いけど、集中しなきゃ。
私はアシュリーから受けとった勾玉に意識を集中させる。
もしかしたらショコラしか使用できないなんて事があるんじゃと心配したけれど、問題無く起動した。
そして、私の目の前は内臓でいっぱいになる。
あまりに突然だったのでかなり吃驚した。
確かに彼女の身体を調べようとしたけれど……確かにこれは、視たい物が視えるようになる道具だ。
私はじっくり時間をかけて病の病巣を調べる。
臓器の一部が機能していない箇所、大きな腫瘍。私が聞いていたよりもはるかに彼女の身体はボロボロだった。
そして、何よりも……これは人間じゃ治せないはずだ。
これについては後でみんなに相談しよう。
私は彼女の身体のデータを詳細に記録、私の中の引き出しに保存していく。
その記録をベースにクリエイトで修正を加えながらを複製。
パーツごとに彼女の身体を入れ替えていく。
作り替えているという方が正しいかもしれない。
二時間程で全ての作業が終了した。
人体にはおそらくなんの負荷も無かったはずだが……。
「ん……私寝ちゃってた? 本当に病気、なおる?」
「安心しな。もう治ったからな」
そう言ってアシュリーがリナリーの頭を撫でた。
「ほんとに……? ありがとうアシュリーちゃん♪」
「だからちゃんは辞めろって……まぁ、別にいいけどよ」
喜ぶリナリーを見てアシュリーが優しく微笑んだ。
いいとこ、あるじゃん。
知ってたけどね。
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