ぼっち姫、勇者パーティ。
「何これ。魔物?」
「……いや、魔物じゃなさそうですぜ」
私達がディレクシアの外壁まで到着すると、四体くらいよく分からない化け物の死体が転がっていた。
カエルさんは魔物じゃないって言うけど、だったらなんなの?
「これほんとに魔物じゃないの?」
「……違うでしょうや。少なくとも、あっしはこんな姿の魔物には会った事がないですぜ」
姿? 魔物とこいつらの違いなんて私にはよく分からないんだけど……。
魔物の姿に規則性とかあったのかな?
っていうか魔物かそうじゃないかなんてどうでもいいんだよ。
こんな奴らが街に来てるってなったら気が乗らないとか言ってる場合じゃない。
ここにも沢山人が住んでて、こんな奴が襲ってきてたら絶対被害も出てる筈だ。
早く何とかしないと……。
「おかしいネ」
リンシャオさんが難しい顔で呟いた。
「何が? こいつらが魔物じゃないとかそういう話ならもういいんだけど!」
「違うネ。この王都、ディレクシアには外敵を排除するアーティファクトが存在するのヨ。外壁にこいつらが居るノハまだ分かるとして、中に被害が出る訳がないネ」
「そんな事言ったって実際被害出てるじゃん! 何かトラブルがあったんじゃないの?」
「……残念ナガラそうとしか考えられないネ」
だったら早く中の応援に行かないと……!
「うぃー。お前らやっと到着したかー」
やっぱり私は精神的に不安定になっている気がする。
さっきまでどうでもいいやって思ってたのにこの街の状況を知って一気に慌ててしまった。
そんな私を笑うかのようにサクラコさんが手を振りながら街の中から帰ってくる。
「サクラコさん! 街の中は今どうなって……」
「あー。全部終わってるよ」
終わってる? どういう事?
「結論から言えば街に入った化け物共は魔族って言うらしいぜ。でもそれももう全部討伐済み。あたしらは特にする事ねぇよ」
魔族……って?
「姐さん! これが魔族というのは……本当の事で……?」
「なんだお前魔族の事知ってんのか?」
カエルさんは、「ええ……まぁ、一応は……」と魔族という奴等について教えてくれた。
大昔に魔物の中から生まれた突然変異体。それらが魔物達から離れ、独立した集まり。それが魔族という【種族】の始まりなのだそうだ。
実際カエルさんは伝えられている話しか知らないので、事実かどうかは判断できないらしいけど、魔族って連中は大昔にここではない世界に飛ばされて全て居なくなったって事になっているらしい。
「それが今になって現れたってぇのは……こちらに残って生き延びていた連中が居たのか、それとも……」
「こちらの世界を侵略しに帰って来たか、って事か?」
サクラコさんが顎に手を当てて「うーん」と悩んだか思うと、急にとんでもない事を言い出した。
「そうだそうだ! そんな事よりも街の中に勇者が居たぞ! 奴等が魔族を倒したらしい」
勇者!? だったら確実に私の事を知ってる筈だ。
「勇者が居たならすぐそこに連れてって! まだ居るんでしょ!?」
「いや、それがなぁ……。あたしもちゃんと姿を見たわけじゃないんだよ。すぐに転移してどっか行っちまってさぁ」
……転移? 転移魔法を使ったって事だよね?
だったら私の仲間は全員一緒に居るって事かな? 勇者が転移魔法使えるとか転移アイテム持ってたなら別だけど……。
「とにかく中に行ってミルヨ。話はそれからネ」
リンシャオさんは御者に軽く挨拶だけして王都の街中へ歩き出す。
もう危険が無いとはいえさっきまで魔族が居たというのに気にしなさすぎじゃないだろうか?
とにかくぼーっとしててもしょうがないので私達もその後を追うように王都へ。
普段はもっと綺麗な街並みなのだろうけれど、今は所々建物が崩れていて、住んでいる人達が瓦礫の撤去なんかをしている所だった。
私は瓦礫撤去なんかを手伝ってあげながら、先ほどまでここに居たという勇者の情報を聞いてみる事にした。
どうやら四人パーティで、男三人女一人の組み合わせらしい。
そして、一つ重要な事実が判明した。
皆が口をそろえて勇者と呼んでいたのは、世間的に勇者と呼ばれている人物では無かった。
……という事は、私と一緒に居た人達では無いという事。
それだったら私とは無関係じゃないかとがっかりしたけれど、それよりどうしてその人たちが勇者って呼ばれてるのかが気になったのでそれも聞いてみた。
もともとこの国は魔物の類は入ってこれないようになってて、住民は全く対策など考えていないし、騎士団もわざわざ防衛に力を入れてない。
だから被害と住民のショックは大きく、多くの人が死を覚悟したんだそうだ。
そこに颯爽と現れて、ほとんど一人で魔族を倒した男性が居た。
人々からしたら、最近まったく噂も聞かなくなってしまった勇者よりも、実際目の前で自分たちを助けてくれる強者の方が勇者に相応しい。
……という事らしい。
仲間の一人が男の名前を呼んでいたのを聞いた住民が居たらしく、王都ディレクシアの城下町は新たな勇者の誕生に沸き立っていた。
その名を
勇者ハーミット。
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