ぼっち姫、情緒不安定。
その後私達は小さな村を二つほど経由してその都度休息を取りながら王都へ向かう。
あれから既に四日ほど経過しているけれどびっくりするほど魔物に遭遇しない。
ユーフォリア大陸の魔物もどこかへ行ってしまったんだろうか?
「あー暇だ。プリンなんか面白い話してくれ」
出たよ。こういう振りをする人ってされた人の迷惑完全に考えてない自己中な人の確率百パーセント。
こういう判断もロンシャンでの穏やかな生活で身に付いた事の一つである。
なんの役にも立たないけどね。
「私記憶ないから面白い話なんてないですよ」
「じゃあ蛙」
「あっしですかい……? そうですな……では若かりし頃、あっしが麗しのゲコ美さんに燃えるような恋をした話を……」
「あ、すまんその話は無し」
「なっ、何故……? 感動的な出会いからの一大スペクタクルの果てにまさかの結末が……」
「誰が蛙の恋愛話に興味あるんだよ……」
私はちょっと興味あるんだけどな。
そもそもカエルさんの言うゲコ美って人もどう考えてもカエルだよね。
カエルとカエルの恋愛……それはともかくとしてだよ。もしその二人が結ばれた場合ナニをどうするんだろう。
私だってロンシャンで近所のハゲ親父からろくでもないセクハラ話を沢山聞かされて多少の知識はあるけれど、その理屈で言うとカエルの場合……?
「まさか……たまご……!?」
「おいプリン。それ以上言ったら叩くぞ」
「ごめんなさい」
サクラコさんが凄い剣幕で睨んできたのでそれ以上考えるのを辞めた。
「しっかし暇だなー」
「うるさいネ。そろそろディレクシアが見えてきたヨ」
私と、暇を持て余したサクラコさん、そしてなんだかしょんぼりしてるカエルさんは荷台から顔をだして外を覗いてみる。
「おお、本当だ。王都なんか久しぶりだぜ……」
私としては来た事がある方が驚きなんだけど。ニポポンの人がここまで来た事があるって方が普通おかしい。
だって国交断絶してて存在認められてない国の住人だよ?
密航を何度繰り返してるんだこの人は……。
それともリンシャオさん繋がりで手配すればどうにでもなっちゃうんだろうか?
リンシャオさん本当に何者なんだろう。
「ん……? なんだかディレクシアの様子がおかしいネ」
リンシャオさんが声のトーンを落として訝し気に様子を伺うが、距離が離れているのでいまいち分からないようだ。
「確かに変だな。あちこち煙が上がってやがるぜ」
王都に煙? 何かあったのかな?
「よっし丁度暇してたところだ。あたしが先に様子見てきてやるよ」
「構わないガくれぐれも騒ぎを起こすナヨ」
リンシャオさんの注意を聞き終わる前にサクラコさんは荷台から飛び降り、馬車より数倍早いスピードでディレクシアへ向けて走っていってしまった。
相変わらず元気だなぁ。
面倒な事は絶対やらない主義だと思ってたけど、それだけ暇を持て余してたんだろう。
私達はそんなサクラコさんの後ろ姿をぼーっと眺めながらゆっくりと馬車で近づいていく。
「なんだカきな臭くなってキタヨ」
ふーん。
個人的にはあまり興味がなかった。
何故だか分からないけれど、私って結構情緒が不安定なのかもしれない。
絶対許せない! とか、ぶっ殺してやる!
みたいにヒートアップしちゃう事もあるんだけど、たまになんもやる気がなくなっちゃうっていうかめんどくさくなっちゃう。
自分の事を知りたい! っていう欲が薄れてしまっているからっていうのもあるかもしれないけど。
ママの為にもそんな事は言ってられないんだけどさ。
それでも今のサクラコさんみたいに自分から面倒事の中心に突っ込んでいくみたいなのが気分乗らない事もある。
魔物が悪さしてるとかそういう話だったら何とかしなきゃって思うけど、最近の流れからしてどうせ人が原因でしょ?
だったら私にはあまり興味ないなぁ。
ロンシャンに居た時は仕事だったし、自分が世話になってる所を荒らす人が許せなかったけれど……。
あぁ、自己嫌悪。
私って昔からこんなに酷い奴だったのかな。
困ってる人は助けたいと思うし、誰かを傷つけようとする奴は懲らしめないといけない。
それなのにどこか無気力な自分も存在してる。
私が私じゃないみたいだ。
まるで今の私と本当の私がぶつかり合って頭の中がブレまくってる感じ。
最近特にそんなふうに思う事が増えてきた気がする。
きっと不安なんだろうな。
元々の自分が男だったっぽいだけでもショックなのにさ、これからその自分を取り戻す為に動かなきゃいけない。
だからこんなに気力がわかないんだろう。
……そうであってほしい。
こんな気持ちになる理由が、他の事だったら私は……。
「着いたネ。降りるヨロシ」
さーって。王都に到着したからにはうじうじ考えててもしょうがないしなるようになるさー!
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