魔王様の最強バディ。


『おや、私と戦うというのかな?』


「当たり前だ! ナーリアちゃん酷い事して……メリーまでさらおうっていう奴を私が放っておくわけないだろが!」


 神様とやらはそんな私の様子をさも愉快そうにニヤニヤと眺めながら、


『阻止できるものならやってみたまえ。少し遊んであげよう』


 と嗤う。


「何がおかしいんだてめぇ……私達をここまで怒らせておいてただで帰れると思うなよ……」


 アシュリーも妹を傷つけられてかなり頭に来ているようだ。


「おい魔王。あんたがナーリアの事を本気で友達だと思っているなら、今だけ力を貸せ」


 私はそんなアシュリーの言葉に即答する。


「当たり前でしょ!?」


 アシュリーはふわりと私の隣に着地し、すぐに魔法の詠唱を始める。


 基本的に魔法と言う物はまどろっこしい呪文詠唱など必要ない。

 頭にイメージさえきちんと出来れば、あとは魔力をその形に整える事でそれぞれの効果を発動する事が出来る。


 しかし、それはごく単純な魔法に限る。

 高度な魔法になればなるほど構成を編むのが難しくなり、それを形にするために呪文という手段を用いる人、或いは専門の書物を使う人、或いは事前にある程度の構成を簡易的に形作って閉じ込めておく魔法具などを利用して素早く発動できるようにする。


 私はそんな知識は忘れてしまっていたが、ペリギーの長々続く講釈の中で学んだ。


 そして、私は自分の記憶は無くしているが、身体は覚えているので、多少の魔法は使う事が出来る。


 以前はもっともっと高度な魔法を沢山使う事が出来たのだろう。

 その当時に比べれば私はきっと弱い。


 だから、どちらかというと肉弾戦に訴えた方が今の自分に合っている。


 アシュリーは見たところかなり複雑な魔法を準備している最中のようなので、私のすべきことは一つだ。


 アシュリーの補助。

 魔法発動まで彼女を守る事。

 そして、可能ならば奴の手からメリーを助け出す事。


 身体がアーティファクトで出来ているというのならば生半可な魔法で傷つくとは思えないけれど、奴が小脇に抱えたままじゃアシュリーだって本気で攻撃する事は出来ないだろう。


『大賢者と魔王のコンビというわけか。実に面白い……お手並み拝見といこうじゃないか』


「そんな余裕も今のうちよっ!」


 私は転移魔法を起動させ奴の背後に飛び、現れると同時にその首筋へと思い切り蹴りを放つ。


 が、私の脚はその身体をとらえる事なく空振り。

 奴もまた空間を移動したのだ。

 相手がどこに現れるか待っていたら間に合わない。


 私は次の行動を予測し、蹴りが空振りした瞬間にはアシュリーの背後へと戻っていた。

 案の定、私の目の前には奴がいる。


『ほう、大したものだ。一瞬でこちらの行動に合わせた動きをしてくるとは』


 そう言って神はススっと空中をスライドするような妙な動きで私から距離を取る。


「私が合図したら奴に殴り掛かれ」


 アシュリーが、背後の私に囁いた。

 準備が整ったのだろう。


「三……二……一……今だ!」


 私は言われた通りに奴に向かって飛ぶ。

 転移などでは無く純粋に真正面から。


 地面を蹴り、加速しようとした瞬間、私の身体に異変が起きる。


 蹴った地面が抉れた。

 奴へ向けて握った拳が光り輝きうなりをあげる。

 そして、何が起きたのか全く理解ができないのだが私の拳は神のみぞおちあたりにクリーンヒットしていた。


『ぐっ……』


 奴も何が起きたか分かっていないらしく、抱えていたメリーを地面に落とし、自身は背後の壁に激突していた。


『……まさか、随分と面白い魔法を使う。大賢者の名に相応しい実力と、そして発想力だね』


 壁に激突し砂ぼこりをあげながらもまったくの無傷で神は現れた。


 今、何が起きたの?

 私は何をされた?

 殴り掛かろうと思ったらもう攻撃が当たっていた。


「ちっ、あれでもダメかよ……」


 アシュリーはギリギリと歯をきしませながらもメリーの身体を球状の障壁で包む。

 泡のような物に包まれたメリーはふわりと浮かび上がり、まだ意識の無い彼女をアシュリーは自分の背後まで移動させた。


『私は君たちの攻撃など簡単に防げるが、予期せぬ突然の衝撃にはさすがに驚いたよ』


 神にも認知できない攻撃?

 攻撃自体は私が行ったのだろうからアシュリーが何かしたのは明白だ。


『しかし今のは……人の身で行うには随分とリスクのある魔法ではないか? 原理的には可能だとしても連発出来る類の物でもないだろう。次はどう出る?』


 この神は、本当に楽しそうだった。

 メリーを奪い返されている事などどうでもいいように、ただただこの瞬間を楽しんでいるようだ。


「確かに、私のタイムロストは何度も使える物じゃない。だがな、他にも手はあるぞ? やり方次第でお前に攻撃が届く事が分かったのは大きな収穫だ」


『ふむ……タイムロストとは随分安直な名前だが、時間を飛ばしたように誤解させる為の名前かな? その実その魔法の効果はどちらかというと一定範囲内の時間感覚を狂わせる魔法……といったところかな?』


「……ちっ」


 アシュリーの反応を見る限り奴の言った事が正解なのだろうが、それをやる方も見破る方もどうかしてる。


 私も神も、時間感覚を狂わされて、まるで私が殴り掛かった次の瞬間、ヒットまでの時間が消し飛んだみたいに錯覚させられていた。

 つまりはそういう事なんだろう。


『ふふふ……さぁ、次はどのように私を楽しませてくれるのかな?』


「あんたの悪い所はそうやって余裕かましてるところだって思い知りな」


『私は面白ければ何でも構わな……ん?』



 この場で一番驚いたのは神だろうか。

 それとも、私だろうか?


 私の足元に、ゴロゴロと……


 不思議そうな顔をした神の頭が転がっていた。


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