魔王様の対神様戦。
私の、「えっ?」という言葉と
足元から『おや?』という言葉はほぼ同時だった。
私は絶句してしまってその後しばらく固まってしまったのだが、生首が自動的にふわりと浮かび上がって、本来あるべき場所にストっと接着されたのを見て軽く絶望した。
首を切り離されても死なないのかこいつ……。
『今のは少々驚いた。確かショコラとか言ったかな?』
「……首落としても死なない生き物って居るんだね」
どこからともなく私の隣にショコラが現れる。
どうやらアシュリーが彼女にも、私の時と同じ魔法をかけていたようだ。
「アレでも死なねぇとかどうすりゃいいんだ」
心なしかアシュリーの声も覇気が失われている。
『今のが切り札だった、という所かな? それなら残念だったね。私は君達と違ってこの程度では死なないよ。私を殺したかったらもう少し細切れにでもしないと……』
「それを聞いて安心しましたよ」
ほんの一瞬。
目の前がギラリと強い光で埋め尽くされ、たまらず目を閉じる。すぐに瞼を開くが、そこで目にしたのは奴の身体がバラバラになって地面に落ちていく光景だった。
「アシュリー殿も人が悪い。私にこんな大役を回すなどと……少々緊張してしまいましたよ」
細切れになったアルプトラウムの肉片を見下ろすのは双剣の剣士。
彼は両手にうっすらと輝く剣を持ったまま、掌の付け根の辺りでクイっと眼鏡を上げてため息をついた。
「油断するな! 元に戻る前に焼き尽くせ!!」
そ、そうだ。これで勝ちとは限らない。
私とアシュリーは、アレクが退避するのすら待たずに魔法をぶちかます。
「ちょ、ちょっとは避難の時間を下さいよ!!」
アレクが慌てた様子でその場から退避、ゴロゴロと地面を転がる。
服の端に火がついているのをショコラが駆け寄り踏みつけて消してあげていた。
「あ、ありがとうございます。しかしもう少し優しい消し方は無かったのですか?」
「男に優しく、なんて私の辞書には無いから」
そんなやり取りを横目に見つつも私達は攻撃の手を休めたりしない。
やがて、アシュリーが肩で息をし始めたのを切っ掛けに攻撃を止めると、そこには瓦礫と灰しか残っていなかった。
「やったのか?」
入り口の方からヒルダさんを肩車した聖竜がゆっくりと現れ、「よいしょっ」とご老人的掛け声とともにヒルダさんを地面に降ろす。
少し離れていた場所から様子を伺っていたぬいぐるみ……もといライゴスがヒルダさんに駆け寄り、彼女はライゴスを頭の上に乗せた。
そして私の所までゆっくり近づいて、先ほどまで奴が細切れになっていた場所を見つめる。
「……神と言えどあれだけ小さな欠片にされ燃やし尽くされたならば……死んだじゃろうか?」
『ふむ……同じ事の繰り返しとはいえ短時間であの規模の魔法をこの人数分とは……。君個人の力量には驚かされるね』
私達は誰一人として、その声の方へ振り向く事が出来なかった。
正確に言うのならば、誰も振り向く事すらできなかった。
「てめぇ……何しやがった……」
アシュリーがなんとか反抗しようとしているが、私の力で振りほどけない以上アシュリーでは無理だろう。
いや、この場合腕力は関係ないかもしれない。
だが、精神力でどうにかなるような類の物ならばアシュリーがダメな時点で恐らく皆だめだろう。
『君達と戦うのも楽しいけれど、こちらが攻撃に転じてしまったら手加減がしにくいんだ。だから一時的に拘束させてもらったよ』
「ぐっ……」
本当に動かない。瞳くらいはかろうじて次のチャンスを伺いながら、あちこち観察してみるがそれで何が変わる訳でもない。
『さて、これで私はいつでも君達の命を奪える状況にある訳だ。勿論私の目的は君達を殺す事ではないからそんな事はしないがね』
「……なぜ我を拘束しなかったのだ?」
少し離れた所で聖竜が神に問う。
こちらからその姿は見えないが、どうやら自由に動けるらしい。
『なに、単純な話だよ。君からは私に対する悪意も殺意も感じなかったからね。戦う気がそもそもないのだろう?』
「それは半分当たりで半分間違いだな。我はヒルダちゃ……おほん。ヒルダに危険が及ぶようなら命がけで戦う。しかし貴方の言葉を借りるのであれば、神よ。貴方からは殺意は感じなかった。……悪意はあるかもしれんがな」
『ふふふ……よく分かっているじゃないか。ここに居る全てが私が楽しむ為の役者だからね。私自ら危害を加えるような事はしないさ』
「なるほどな。では我が悪意も殺意も無くそちらへ近づいてヒルダを回収する事には異論ないな?」
『何が言いたいのか分かりかねるが……そうだね。それは好きにするといい。私としては少しばかり楽しい展開を期待してしまうが』
「ご期待に沿えるように善処しよう」
そんなやり取りの後、聖竜の足跡がだんだんと近くなって私の近くにいたヒルダさんを抱き抱えた。
「せいちゃん……? いったい何をする気なのじゃ」
聖竜は何かをヒルダさんの耳元で呟き、彼女を私の目の前に連れてきて私達の手を握らせた。
何がしたいのか分からなかったが、今度は聖竜が私に一言呟いて、その場を離れた。
そうか、そういう事か。
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