魔王様の抱く殺意。
「ん? 今何か音聞こえなかった?」
私が姿を整えてあげた女性は何やらボソボソと、喘ぐような声で何かをしゃべりながらどこかへ行ってしまった。
何か探している物があるような……そんな気がする。
私、やっぱりあの人の事知ってるんだ。
それも、かなり身近な人だったように思う。
「何か聞こえたかのう? せいちゃんはどうじゃ?」
「……確かに、城の方で爆発音が聞こえてきたようだ」
せいちゃんにも聞こえたなら間違いないだろう。
「ちょっと城の方行ってみようか? 皆も探索終わってる頃じゃない?」
「そうじゃな。戦闘が起きてるならそちらも気になるしのう……様子を見に行った方がいいやもしれんのじゃ」
「ヒルダちゃんがそういうなら行こう行こう♪ すぐ行っちゃおうね~♪」
せいちゃんが甘々な声を出しつつ巨大な竜の姿に戻る。
「さあ、魔王よ……我が背に乗るがいい。あとヒルダちゃんもね♪」
そんな飛んで行くほどの距離じゃないでしょうが……。それに私自分で飛べるし……。
なんなら転移できるし……。
でもせっかくだからお言葉に甘えて乗らせてもらう事にした。
「わしはな、お主が以前した事を許す気にはなれんし、そこまで好きにもなれぬよ。じゃがな、今のお主は嫌いじゃないし、出来れば……万が一記憶が戻ったとしても今の気持ちや思いを忘れないでほしいと切に願うのじゃ」
ヒルダさんが、聖竜の背中の上で私にそんな事を言うもんだからちょっと感動してしまった。
感動と、そして……記憶を取り戻した時の不安と恐怖。もろもろのせいで軽く泣きそうになる。
「私……誰も傷つけたくないよ」
「うむ。その気持ちを大事にしてほしいのじゃ……そうすればきっと、あの時わしらが戦った事にも意味が生まれよう」
その時の戦いで私が記憶を失って今があるというのならば、確かにそうなんだろう。
でも一つ気になる事がある。
「私と一緒に居たっていう神様って……どうなったのかな?」
「それじゃ。実際何もわからん。わしは当然のようにお主と一緒にいるものと思っておったからのう……もしかすると魔族の背後にはそやつがおるのかもしれぬぞ」
もしそうだったとしたら、今まで私の味方だった人かもしれないけど、許すわけにはいかなくなっちゃうなぁ。
……そもそも人じゃないんだっけ。
神様か……。
どうしてだろう。自分の中に謎の嫌悪感がある。
以前その神様との間に何かがあったのかもしれない。
「そろそろ着くぞ。入り口前で降ろそう」
せいちゃんが城の前に着陸し、城の中を覗くとなんだか石畳がべりべりにはがれて、地面も抉れてそこらじゅうごっちゃごちゃになってる。
魔物や魔族の死骸もその中に紛れてるけどいったい何があったんだろう……。
「ナーリア!?」
その時、城の中からアシュリーの叫び声が聞こえてきた。
何が起きたのかと慌てて城に飛び込むと……。
『おや、随分と久しぶりじゃないか。どうだい? その後かわりないかな?』
声の主は光沢の無い銀色の長髪を腰のあたりで一つに縛っていて、幾つも重ね着したみたいな不思議な服を纏っている。
そして、ふわふわとホールの上空に浮かんでいて……腕には意識の混濁したメリーを抱えていた。
「……貴方が、神様?」
『うむ。その様子だと思った通りに機能しているようで何よりだ』
「全然意味が分からない。とりあえずその子を返してもらえるかな。出会ったばかりだけど友達の一人なんだ」
『くくくっ。友達……? これはこんな外見をしているがただのアーティファクトなのだがね?』
「知ってるってそんなの。アーティファクトかどうかなんて関係あるの? ちゃんと自分の意思を持ってる相手ならどんな存在だって友達になれるでしょうが!」
目の前の神は、笑いを堪えられない様子で口に手を当てて身体を九の字に曲げた。
「なにがおかしいのよ」
「いやいや。現在の君がとても……期待通りの状態になっている事が確認出来てついね、嬉しさのあまり笑ってしまったよ」
期待通りってなんだ? こいつもしかして私が記憶をなくしてる事分かってたって事?
「とりあえずメリーを置いていってもらおうか」
地面に開いた穴の中からアシュリーが現れた。
この地下に居たのか……魔法で浮遊してきたから少し驚いた。
しかし、そんな事よりもアシュリーの怒りがこちらにまで伝わってくる。
メリーを奪われそうだから? ううん、それだけじゃない。
先程ナーリア! と叫んでいたのを思い出した。そういえばナーリアちゃんはどこ?
彼女も下に……?
「てめぇよくも私の妹に怪我させてくれたな……絶対に許さねぇ」
「ちょっと待って。ナーリアちゃん怪我したの!? こいつのせい?」
「……ここから下に叩き落されたんだよ。下にあった剣が腹にぶっすり。傷は塞いだがまだ意識は戻ってない」
……は? え? ナーリアちゃんのお腹に剣が刺さった?
あの子は普通の人間だよ?? 私と違って勝手に治ったりしないんだよ?
「神様だかなんだか知らないけど、私の仲間に何してくれてんだこの野郎!」
ぜってー許さないからな!!
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