魔王様の異議申し立て。


「……何故?」


 私の身体は焼けただれてぐちゃぐちゃのどろどろになってしまった。


 悲しい。


 世の中には恐ろしい人が居るもんなんだなぁ。

 ちょっと目も霞んじゃってよく見えない。


 だけど、私の友達を傷つけるような、人は……許せない。


「何故だ。答えろ。何故お前がその女を庇おうとした?」


 相手の女性は、とても怒っている様子だ。

 私が何かしただろうか? いや、もしかしたらただ単に魔物に恨みがあるだけかもしれない。

 それか、以前の私に恨みがあるのか……。


「ナーリアちゃん、は……私の、友達……だから」


「ふざけるなよ。ナーリアがお前の友達だと? いいか、そんな下らない嘘が通用しないって事教えてやるよ。私はアシュリー。大賢者アシュリー。その、あんたの友達だとかいうナーリアの姉だ」


 ナーリアのお姉ちゃん?

 そうか、この人もきっと……私を恨む理由のある人だ。


「答えろよ。お前がなぜナーリアと一緒にいた? 何を企んでいたんだ!」


「ひーっ! ひーっ! ちょっとマスター置いてかないでくださいよぉー」


「ちょっとお前は黙ってろ。それ以上こっちに近寄るな。今大事な話してんだ」


 段々私の身体の修復も進み、視界もクリアになってきた。


 私を攻撃していたのは、まるで子供のような姿をした……エルフ?


 そして、後からやって来た綺麗な女の子は……何かがおかしい。人の気配がしない。


「早く答えろ。時間稼ぎしたって無駄だ」


 アシュリーと名乗った女の子が、いつの間にか杖を再び手に握っていて、一振りすると私の手足を銀色の輪っかが拘束した。


 ……多分思い切り暴れればこれくらい引きちぎれると思うけど……本当にナーリアちゃんのお姉ちゃんだっていうならここは抵抗しない方がいい。


「貴女が、ナーリアちゃんの姉だっていうなら、どうしてエルフなの? 腹違いか何か?」



「そんな事はどうだっていいだろ。……いや、答えてやるよ。私もナーリアもハーフエルフだ。妹にはその特徴が出てないだけ。自称お友達のアンタはそんな事も知らないのか?」


 そっか。そうだったんだ……余計な事聞いて不信感を煽っちゃったなぁ。

 でも、私だってここまでされたらちょっとはカチンとくるんだから。


「貴女こそどうして妹がいるのに平気であんな魔法を撃つのよ。ナーリアちゃんが怪我してもいいの?」


「バカな事言うな。あの程度の魔法で壊れるような保護の仕方してない」


 保護? これが?


「そう、なの? それ早く言ってよ……私一回どろどろになったんだよー!? ちょっとナーリアちゃん出てきてこのお姉さんに説明してあげてよー!」


「なっ、アンタ何を言って……」


「マスターマスター。とりあえずこの人の話聞くべきだと思いますよー? 一緒にお肉食べれば分かり合えると思いますー。だからお肉を」


「お前は黙ってろ!! それより、アンタ一体なんなんだ? 私が知ってるメアとは……」


「だからその辺の事はナーリアちゃんが説明してくれると思うからさ、早く出してあげてよ。もし心配なら私ちょっと離れておくからさ」


 バキバキッと拘束具を壊してぴょんっと距離を取る。


「あっ、逃げるな!」


「逃げないってば! 早くナーリアちゃん出してあげて!」


「そうだそうだー! マスターのわからずやー!」


「ぶん殴るぞてめぇ!!」


「ふぇーんぼうりょくはんたーい!」


「ぼうりょくはんたーい!」


 なんだか変な展開になってたからつい混ざってしまった。


「おっ、お前ら……。マジでなんなんだよ……わけわかんねぇ……」



 アシュリーは顔をしわくちゃにしながら、諦めたようにナーリアちゃんを取り込んでいた氷の塊を消した。


「うわっ、おっととと……お姉ちゃん! ちょっと待って下さい! この人は、メアは敵じゃないですよ!!」


「お前まで……ちょっと私に分かるように一から説明しろ」




 私はとりあえず余計な口を挟まないようにして、現状の説明はナーリアちゃんに任せた。


「それを信じろって言うのか?」


「私だって飲み込むまでに時間がかかりました。でも今のメアは私達が知ってるメアじゃない。これは確かです。それに、ディレクシアと同盟を結んでいる以上、私達が勝手に彼女に危害を加える訳には行きません」


「しかし……状況は分かったが……それなら姫の事はどうする? ナーリアはそれでいいのか?」


「良い訳がないです。でも今は争う時ではありませんし、メアも出来る限り手を尽くしてくれると言っています。私は、今の彼女は信じるに値すると判断しました」


 ちらりと二人がこちらを見る。

 アシュリーは私を値踏みするみたいに上から下まで嘗め回すように見て、一言だけ言った。


「私今十九歳なんだけどどう思う?」


 ……? なんだその質問。


「どうって……? 十九なのに凄い魔法の才能ね。魔法をいろいろ教えてほしいくらいよ」


「……確かに、知ってる魔王じゃないわね。分かったわ。とりあえず、今は休戦と言う事にしましょう」


 今の問答にどんな意味があったのか分からないけれど、納得してくれたようでよかった。


「お姉ちゃん、そういえば魔物フレンズ王国にジービルさんが居ましたよ!」


「なんだと? あの木偶の坊魔物の国なんかに隠居してやがったのか? ……というかなんだその国名」


 木偶の坊って……。

 いや、それよりなんでみんな国の名前にケチつけるの!?


「ジービルさんはすっごく良くしてくれるし、奥さん想いの優しい人よ? それに国名……」


「あいつ結婚したのか!? そういえば心に決めた相手がいるとかなんとか言ってた気がするなぁ……。あのヘタレ野郎がよくもまぁ……」


 ヘタレ……? 私が知る限りジービルさんは寡黙だけどとてもしっかりしていたし、心も身体も強い人だと思うのだけれど……。


 恋愛って人を変えるものなのかもね。


 って、そんな事より


「ちょっと国名の事だけど……」


「みつけたのである!!」


 その時、凄まじい風を巻き起こしながらでかい鳥が目の前に降り立った。

 そして、その背中から……何やら可愛らしいぬいぐるみがぴょんと飛び降りて叫ぶ。


「我が名はライゴス! イオン・ライゴスである! アシュリー殿さがしたぞ! ……ってうわー! 魔王ー!?」


 ぬいぐるみにまで知られてるなんて意外と私顔広かったんだなぁ。


 ってか、だから国名!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る