第五章:廃都ローゼリア。

魔王様の自己犠牲。


 すぐに出発しようかとも思ったんだけど、ナーリアちゃんがステラちゃんとて……テロア? とかいう人の説得に時間がかかってるみたい。


 あの民間人の女の子はナーリアちゃんの事が大好きみたいで、一緒に行くってゴネてるようだ。


 さすがに危険だから連れていけないし、今回はナーリアちゃんだけって伝えてあるからしっかり説得してもらわないとね。


「あ、おじさんもお留守番しててね。すっごく強いみたいだし、何かあったらジービルさんと一緒にこの国をお願いね♪」


「んー。おじさんちょっと疲れちゃったんだけど……」


「お・ね・が・い・ね♪」


「……わかったよぅ。仕方ないからおじさんっもう少し頑張っちゃおうかな。でも誰か攻めて来た時だけだからね?」


 それで充分。ジービルさんとおじさん、それに幹部の人達がいればなんとかなるでしょ。


「すいませんメア、お待たせしました。とりあえずテロアにステラを守るようお願いしてきたので……私の方はもう大丈夫です」


 よっし。準備おっけー♪


「じゃあみんな! 私また少し留守にするからこの国の事はよろしくね!」


 周りの魔物達に声をかけ、転移魔法を発動させる。


 確かぺんぺんに教えてもらったローゼリアはこのあたり……。


 ん、結構遠くに出ちゃったなぁ。

 多分向こうに見える青白い障壁に囲まれたやつがローゼリア城とその城下町、だと思う。


「あれがローゼリア、なのですか? あれはいったいどういう状態なんでしょう?」


「なんかね、誰かが完全に隔離する障壁を張ってるんだってさ」


 ナーリアちゃんの質問に答えながら、ふと感じた事がある。


 あーこれ私がやったのかも。


 何も覚えては居ないけれど、その可能性はある気がする。


「とりあえず近くまで行ってみましょ。目の前まで行けば何か分かるかもしれないし」


「……」


 ん? ナーリアちゃんの返事がない。


「……!!」


 振り返ると、私の背後に居た筈のナーリアちゃんのかわりに、巨大な氷の塊があった。


「なっ!? いったい何が起きた!?」


 よく見るとその氷の中にナーリアちゃんがうっすら見える。

 私に何かを必死に訴えようとしているようだが氷の壁に阻まれこちらに声が届くことは無い。


 誰かが、私達を襲撃している!?


 神経を研ぎ澄ませて辺りを見渡すけれど、ただ草原の草が風に揺れるだけ。


 ここは見通しもよく誰かがいればすぐにわかるだろう。


 考えられるとしたら、姿を消す魔法か……それとも既にここから離れているか。


 それに、私達に気付かれずにこんな事が出来るならどうして閉じ込めるなんて回りくどい方法を……?人質のつもりだろうか?


 私が氷の塊を破壊しようと手を伸ばすと、


 ズパッ!


 私の右手が肘の先くらいからすっぱり切り落とされて地面に転がった。


「……え?」


 ちょ、ちょっとまって。

 待て待て待て腕落ちた切れた痛い!


「痛い痛い痛い痛い痛い!!」


 久しぶりの腕が切り落とされる感覚に全身が悲鳴をあげた。


 あまりの苦痛に私は地面を転げ回ったけど、不思議な事に血は全く出ていない。

 私には人の血なんて通ってないんだろうか?


 恐る恐る断面を見ると、既に断面には薄い膜が張っていて、ぐじゅるぐじゅるいいながら一瞬で腕が再生した。


「きっ!! きもぉぉぉい!!」


 何これ何これ!! 私の身体どーなってんの!?


 体内に取り込んでるっていうアーティファクトとかの効果なのかもしれない。

 再生する過程はめちゃくちゃキモいけどこれなら怪我の心配はそこまで必要なさそう。


 てかなんで私腕切断されて久しぶりなんて感じたんだろう?

 以前の酷い魔王の頃に身体がボロボロになるような激しい戦いをしてたって事なのかな??


 とかいろいろ考えたい事はあるのに!


 今なら敵がどこに居るのか分かる。


 上だ。上から私に次々と攻撃魔法を降らせてくる。


 咄嗟にそれらをかわして、私も魔法で攻撃。

 拡散系魔法の力を一点、一つの線にのみ集中させ束ねて、一筋の力の光線を、上空に居る何者かに向けて放つ。


 だけど、ガキィーンという音を立てて私の方へ跳ね返ってきた。


 私の右足が自分の魔法に撃ち抜かれてバランスを崩す。

 もう痛いとか騒いでらんない。


 相手は既に次の行動に移っている!


 逆光になっていて姿は良く見えないが、そいつは私の魔法を弾いた障壁をバラバラに分解してみせると、それを円盤のように高速回転させ幾つもこちらに飛ばしてきた。


 一瞬早く私の足が回復し、避ける。

 数が多く避けきれない部分は私も障壁を張って回避しようとしたが、私が作った障壁はその高速回転する障壁に切り裂かれてしまった。


 障壁を攻撃に使うなんてそんなのアリ!?


 でも、そのやり方は、覚えたぞ!!


「これでもくらえーっ!!」


 私は脇腹をざっくりと抉られながらも、相手と同じように自分の障壁を細かい破片に変え、それを高速回転させ放つ。


「なんですって!? こいつ、人の魔法をっ!!」


 初めて相手が狼狽の声をあげた。


 女の声!?


「くそっ!」


 私の放った魔法は彼女の持っていた杖を弾き、バランスを崩した女が地面に落下した。


 が、すぐさま立ち上がり私に向かってかなり強力な魔法を放つ。


 これは、この辺り一帯が吹き飛ぶクラスだ!


 障壁を張ろうとしたが生憎と全部砕いて放ってしまっていて、回収が間に合わない。


 しかも、私の後ろにはナーリアちゃんが入った氷が……!


 逃げる、訳にはいかない!!


 私は氷を庇うように、強大な魔法をその身に受けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る