大賢者は名付けてみる。



「で、あんたのおうちってのはどこなのよ。ローゼリア城なの?」


「ローゼリア城? ローゼリア地方にお城なんてありましたっけ?」


 ……ん? どういう事だ…。

 私とこいつのローゼリアへの認識に齟齬があるな。


「お前の知ってるローゼリアってどんなところだ?」


「その前にそのお前とかあんたとか悲しいですよマスター。もっと他の呼び方で呼んでほしいです」


「うるせぇなぁ。じゃあ名前はなんなんだよ」


「私は以前はMDと呼ばれてましたよ」


「エムディ? 何かの略だったのかしら」


 もしかしたら型番だったのかもしれない。


「でもそれは以前の呼び名です。だから新しいマスターが名前を下さい」


「私が決めるの? 嫌よ面倒だし」


「そんなぁ……嫌よ面倒だしなんて名前は可愛くないですぅ……」


 可愛いかどうかで物事を判断するのか?

 こいつ……アーティファクトの癖に妙な所で乙女だな……。


「エムディじゃダメなの?」


「可愛い名前付けて下さいよーそんなのやだやだ」


 うっわめんどくせぇ……。


「じゃあメリダとかでいいんじゃん? MDも取り入れてやったんだからね」


「MD……メリダ。ちょっと可愛くないですね」


「殴るぞこの野郎。じゃあ名前がメリダで呼び名はメリー。これでどうだ?」


「メリー。それは可愛いです♪ じゃあそれでいきましょう。で、いつローゼリア行くです? とりあえず寝ます?」


「寝ねぇよ! とりあえずさっさと行くぞ」


「これからですか? じゃあ行く前にもう一回お肉を」


 メリーの戯言は無視してとりあえずローゼリア近郊まで転移した。


「あっ、お肉……」


「また家に帰ったら食わせてやるからとりあえず動け」


「しょんぼり……」


 しょんぼりって言葉にして言うか普通。


 周りは大草原。意外と短めの草が広がっていて、まるで芝生のようだ。


 川もあるし池もある。

 水はとても澄んでいて魚とかも結構いそうだ。


「いい場所ね」


「でしょー? マスターも気に入ってくれました? 私のおうち」


「ん? どこかに家があるんじゃないのか?」


「ちがうちがう。ここが私のおうちですよー?」


 ローゼリア自体が家って事なのか?


「あんたは普段どうしていたんだ?」


「メリーって呼んで下さいよー」


「はいはいメリーは普段どうしてたんだ?」


「前も言いましたけどお昼寝したり日向ぼっこしたりしてましたよー」


 ……うーん。

 私が聞きたいのはそういう事じゃないんだけど。


「結局メリーは呼び出しが無い時はずっとここに居たの?」


「はい。ずっとここら辺一帯でぽけーっとしてましたよ」


「じゃあなんでクリスタルツリーの底に眠ってたんだ?」


「くりすたるつりーってなんですか?」


 ……本人はその自覚無しか。

 なんらかの理由で保存されていた、という事なんだろうけれど、なんであの場所だったんだろうか?


 可能性としては、マナが溢れるクリスタルツリーの根本ならば劣化を防げるから。


 もしくは、ただ人目に付かず誰も取り出せない場所だから。


 もしくはその両方……。


「ねぇマスターくりすたるつりーってなんですか? ねぇ、ねぇねぇ」


「うっさい! 今考え事してるんだよ!」


「マスターが怒った……。メリー悲しいです」


 このアホの子はおいといて、そんな事よりもローゼリアに来た事に特に意味はなさそうだな……。


 いや、確かアーティファクトがローゼリアに有ったはず。

 ついでだからそれを確認していこうか。


「一応聞いてみるけどアーティファクトの反応とかは分かったりするの?」


 どうせ聞くだけ無駄だけど。


「分かりますよ」


「ほらやっぱり。って、え? 分かるの?」


「マスター。私これでもアーティファクトですよ? 同類の反応くらいちゃんとわかります! ……というかそれしか分からないです」


 それは自慢する所なのか?

 とにかく分かるなら話が早い。


「メリーが使えるって所を見せてみてよ。反応はどっち?」


「うーん。ここから向こうの方に五キロくらいですかねー」


 やっぱりローゼリアにはアーティファクトが有るのか。

 面倒な物でなければ回収したいところだが……。


「あ、六キロくらいかも。逆に四キロ?」


「……メリーってさ」


「なんです? 使える子でしょ? 褒めてくれてもいいんですよ?」


「あー。見たまんまなんだな」


 いろんな意味でな。

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