大賢者はぶっ叩いてみる。



「とてもいいお湯でした私とても満足ですおやすみなさい」


「隙あらば寝ようとするんじゃねぇっ!」


 ぼかり。


 つい勢いでまた頭をぶっ叩いてしまった。痛いのはこっちの手なんだよ畜生!


「酷いです。再びマスターが私に暴力を……」


「もうその流れはいいから。そんな事より飯食うんじゃなかったのか? いらねぇなら寝ろ。すぐ寝ろ」


「食べます食べますもりもり食べます。どこですか? お肉ですか? お肉ですね?」


 ……とりあえずこいつが風呂に入ってる間に焼いておいたおいたステーキを食卓に並べる。


「わお。すごいですね! お肉です、お肉です食べていいですか? 食べていいへふはふおいひい!」


「許可出す前に食ってんじゃねぇか……」


 こいつは本当になんなんだ?

 人型アーティファクトである事は間違いない。

 だが、いったいコレにどんな価値があるっていうんだ。


 目の前で必死にステーキをもふもふ丸かじりしてるこいつが何か凄いものって感じがまったくしない。


「ほへはふほいへふよ! ふっほふおいひぃへふ! ……ふぅ。きっととってもいいお肉を使ってるとみました。もう一枚あるようなので頂きますね」


 安肉なんだが……それは黙っておこう。

 というかもう一枚は私のだぞ!


 ……と、注意する間も無く私のステーキは奴の口に半分ほど齧られてよだれでべたべたになっていた。


「あっ、ほれもしかひてマスターのでひたか?

 お返ししまふ」


「いらねぇよ!」


「自分の分までわたひにくれるなんへわはひしあわへへふ!!」


 私は悲しいよ。

 なんだかとてつもなく面倒な物を抱え込んでしまった。


「なぁ、お前は一体何者なんだ?」


「……ふぅ♪ ごちそうさまでしたー。おなかいっぱいになったら眠く……」


「寝るなよ? 暴力振るわれたいのか?」


「冗談ですよー。私は、アーティファクトってやつですねー。あ、お茶下さいお茶」


 そんな事は分かってるんだって。呑気にお茶の催促なんかしやがって……。


「それは分かってる。お前は何の為に作られて、何が出来るんだ?」


「えーっと。どうでしたかね? 私は確かローゼリア地方で……えっと、神様の器やってました」


 ……神の器だと?


「神をその身に宿すって意味で合ってるか?」


「うーん。よく分からないんですけど、神様が私の身体を使って何かしてたのは確かです。ただ私、中に誰か入ってる時って意識ないんですよねー。何してたんでしょうね?」


「知るか。それを聞いてるんだよ」


 それにしても神がわざわざこいつの身体を使って何かをするっていうのは興味があるな。


「でも誰でも使えるわけじゃなくて、私を作ったマスター……今は貴女がマスターなので元マスターですね。その方だけが私を使う事ができました。それ以外の時は基本的にお昼寝とか日向ぼっこして過ごしていましたよ」


「要するに使い方が分からなければお前はただのガラクタって事か?」


「酷いです! 酷すぎです! せめて美しくて可愛らしいお人形くらい言ってほしいです」


 結局神様が一人、こいつを作って何かの目的に使っていた。それ以外の奴には使えない……それだったら私が持っていても宝の持ち腐れじゃないか。


 しかし、逆に考えると相手がこいつを求めていたという事は、使い方を知っているという事だ。


 だったらこいつを相手に渡すわけにはいかない。


「ちなみにお前の元マスターはなんていう名前の神だったんだ?」


「えっと、マスターとしか呼んでなかったので曖昧ですけど……たしかファスト? ファースト? そんな感じの名前のマスターだった気がします」


 曖昧な話だが、そのファストだかファーストだかいう奴が何にこいつを用いていたのかがわかればこちらも動きようがあるが……。


 それにこいつを取りに来たという事は魔族の後ろにそのファストが居るって事かもしれない。

 もしくは、メアと一緒に居たあの神が、そいつなのかもしれない。


 確認しなきゃいけないのはメアが生きているかどうか。

 それとメアの後ろにいた神がファストなのかどうか。


 そして、こちらのすべき事はとにかくこの阿呆を奪われないようにする事。


 多分魔族の後ろにいる奴はこのアーティファクトを使って何かを企んでいる。

 何かをするつもりなのだろう。

 それが何か、は分からないけれど奪われたらますますこちらの勝ち目がなくなるのだけは間違いない。


「ローゼリアに居たって言ってたけど、そこには何かあるの?」


「ありますあります。私のおうちがありますよー」


 おうちって……。


「じゃあ一回あんたのおうちでも見にいくか」


「おうち帰れるんです? 帰りたいです!」


「勘違いすんな。様子見に行くだけだからな」


「解ってますマスター♪ ところでお腹すきましたもうお肉ないんですか?」


 とりあえず自分の手が痛くなる事も顧みず、こいつの頭をぶっ叩いたのは言うまでもない。

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